203. 最適化
「そういえば、ナツ。戦闘中の動画はしっかり撮って来たか?」
「……やっぱり観るんですか?」
「当たり前だろ。こうやって全員揃うタイミングは意外と少ねぇんだ。こういう機会をしっかりと活用しねぇと勿体ねぇ」
「それはそう何ですけど……」
実は私は、新しく出来たダンジョンでの戦闘は撮っておくようにとギンジさんから言われていた。
相手の攻撃パターンを覚えるという意味でも、自身の思い描いていた動きと実際の動きとの誤差を認識する為にも、記録を取って確認する事は重要だと言われていたのだ。
そして今日のお茶会では、ギンジさんからその動画の鑑賞会もやるぞと事前に言われていて……。
――はぁ……。正直、全然上手くいってないから、あまり人に見られたくはないんだけどな。
そんな事を言ってもギンジさんは納得出来ないと分かっているし、上手く行っていないなら尚更師匠達に観てもらい、アドバイスを貰った方が良いとも頭では分かっている。なので私は、渋々ダンジョンでの戦闘風景を収めた動画を再生した。
「ふむ、まだ敵の動きに慣れていない割には十分やれているのではないかえ? 予備動作にもしっかり反応出来ておるようじゃし、後は慣れの問題じゃろう」
「う~ん。確かに悪くはねぇんだが、何かが勿体ねぇんだよな~。……ナツの反応速度と勘の良さが微妙に動きと合致してねぇというか。ナツならもっと動けると思うんだ」
何という期待感。ギンジさんに私はもっと出来るはずと思われている事に喜んだ方が良いのか、それとも課せられたハードルが高すぎると嘆いた方が良いのか微妙なところだけど。
「私も最近は反射神経が良い方だったんだなぁ~って思うようになって来たんですけど、運動神経に関しては凡庸なんです。だからあんまりハードルを最初から高く設定されると……。そもそもそんなに動けるなら、このゲームを始めた時にやった適性検査でテイマーじゃなくて近接系の適性が出ますよ」
「馬鹿言え、あんな簡単な検査で本当の適性なんか分かるかよ」
「簡単って……。結構ガッツリと面倒な適性検査だったじゃないですか。ゲームを始める前段階でこんなに面倒なのかと思っちゃいましたもん」
「そんなに面倒だったか? まぁ、お前さんは直情的と言うか、堪え性が無い所があるからな」
堪え性が無いと言われてちょっとムッとしてしまった。……実際そうなので、言い返さずにムッとするだけだけど。
するとロコさんがスッと席を立ち、ギンジさんの後ろまで歩いて行くとスパンとその頭を叩いた。
「いてっ! おいロコ、何すんだ」
「何するも何もないわ、馬鹿者! もう少し言葉に気を遣わんか!」
「ロコっち、ロコっち。言葉に気を遣えってだけで、ギンジ君の言葉は否定しないのかにゃ?」
「……」
ミシャさんのツッコミによって、その場に気まずい空気が流れた。……いや、本当に自分でも分かってる事だから別にいいんだけどね?
「……こほん。まぁ、初回ログイン時の検査は面倒ではあったのじゃ。わっちはペットと触れ合う為にこのゲームを始めた故、その前のあれやこれやが面倒で焦らされているような気分じゃったよ」
「そう言えば今更ですけど、テイマーの適性ってどこで判断してるんでしょうね」
「ふむ、わっちも適性結果でテイマーじゃったが、恐らくマルチタスク能力やサポート適性などではなかろうか?」
――……私、適性検査でよくテイマーになれたな。
私は昔から不器用で、今でこそ戦闘中にペットへの指示出しやサポートが出来るようになったけど、最初は本当にダメダメでロコさんからの指導により1から少しずつ出来るようになったのだ。そんな私にマルチタスク能力やサポート適性があるとは思えなかった。
「適性云々の話は置いておくとして、ギンジさんが勿体ないと言っている理由は何となく分かりますね。……ナツさんの動きはまだ、このゲームに最適化されてないんです」
「最適化?」
「例えばですね……。ここです」
シュン君は動画を操作して戦闘中のワンシーンを再生する。それは、敵の攻撃をパリィする場面だった。
「パリィは成功すると受ける衝撃が激減します。けれど、ナツさんはパリィする際に必要以上に腰を落とし込んで受ける体勢をとってしまっている。その所為で、パリィ後の動きが1テンポ遅くなってしまってるんですよ」
その後もシュン君は攻撃を避けるシーンや攻撃のシーンなどを1つ1つ指摘しながら、本来不要だった動きを説明してくれた。
「この世界はとてもリアルで、本当に現実と遜色がありません。でも、やっぱりゲームなんです。現実世界のように身構えなくても巨大な質量は受け止められるし、大きく振りかぶらなくても大きなダメージが発生します。極端な言い方をすると、リアルでの体の動かし方を捨ててこのゲームに最適化された体の動かし方を覚えれば、ナツさんはもっと速くなれます」
リアルでの体の動かし方を捨てる。その言葉には、この世界におけるシュン君の執念のような重みがあった。
「ゲームの動きへの最適化か。俺はあんまり考えた事がねぇな」
「あはは……。まぁ、リアルの動き方を捨てないまま、リアルを超える動き方をするギンジさんにはあんまり関係ない話でしょうね」
そして、苦笑いをするシュン君の様子にギンジさんの理不尽さを改めて再認識した。
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