202. リアルを侵食していくガチ勢気質

 ギンジさんの勧めで始めたブートキャンプをやり出して数日、私は相変わらず死んでは再チャレンジして死んでは再チャレンジをしてを繰り返している。

 そんな圧倒的強者へのゾンビアタック訓練の成果もあり、順調に武器スキルは伸び、少しずつではあるけれどギンジさんが選定したボスモンスター達の動きにも慣れて来た。

 けれどこの訓練を開始してから起きた変化はステータスや技量だけでなく……リアルにも起きていた。


「ねぇ、お母さん。お母さんが持ってるトレーニング器具、ちょっと借りてもいい?」

「どうしたの急に?」

「いや、特に何か理由があるって訳じゃ無いんだけど……。私、家で全然動かないから少しは運動した方がいいかなって」


 お母さんの趣味の1つは家庭用のトレーニンググッズを買う事で、お母さんの部屋には幾つものトレーニンググッズが置いてある。

 ここで注意が必要なのは、お母さんはトレーニングする事が趣味なのではなく、あくまでトレーニンググッズを『買う』事が趣味だという事。大体は1ヶ月~3ヶ月程度で飽きて、暫くインターバル期間を置いた後、また新たなトレーニンググッズを物色し始めるのだ。


 お母さんから許可を得た後は、お母さんの部屋のクローゼットから様々な器具を引っ張り出して、お母さんによるトレーニンググッズの展示会が始まった。

 色んな器具を指しては『どう使うのか』『どういう効果があるのか』などを1つ1つ説明していく。が、お母さん自身その効果を確かめた訳では無い事は言うまでもない。

 私はその様々な器具の中から、ステッパーというその場で足踏みしながら下半身の筋力トレーニングと有酸素運動を行う事が出来る(らしい)器具と、バーンマシンという2つの輪っかをクルクル回す事で上半身を効率よくトレーニング出来る(らしい)器具の2つを借りる事にした。


 さて、そんな2つの器具を借りた私だが、なんで急にそんな行動を取りだしたかと言うと……ここ最近、リアルでもじっとしていられなくなって来たからなのだ。


「私、結構末期症状かも……」


 今私は、ステッパーを踏みながらバーンマシンをクルクル回し、ギンジさんの戦闘風景の動画を視聴している。

 この動画は先日ギンジさんから渡された物で、色んな武器を使って大型モンスターと戦っている様子が録画されている。なんで、そんな動画を渡されたかというと。


『俺が直接指導してやってもいいが、どっちかって言うと今はスキル上げに集中した方がいい。お前さんは見て覚える能力が高ぇから、ログイン中はスキル上げ、ログアウト中は動画見て扱い方を覚えるぐらいでいいだろう』


 との事だった。

 ちなみに、必要技能が扱えるレベルまでスキルが上がった後に、色んな武器の扱い方を直接指導してくれるそうだ。


 で、問題はここからで、最近の私は効率を考える事が多くなって来ていて、じっと座って動画を観る事が勿体なく感じるようになってしまったのだ。

 勉強や料理は勿論、今みたいな動画視聴やちょっとした隙間時間も、何かもっと時間を有効活用出来るんじゃないかなんて考えてしまう。

 そしてその結果、現在私はトレーニングをしながらギンジさんの動画を視聴するという珍妙な行動を取っている。……これで良いのか女子中学生!


 ……


 …………


 ………………


「という感じで、私生活がちょっと変わって来てる感じなんですよねぇ……」


 今私はエイリアスのメンバー全員と会議室でお茶会をしていた。

 別に定期報告会があったとかでは無かったが、今日はバグモンスター退治もなく皆用事も無かったので、久々にゆったりと皆でおしゃべりする為に集まったのだ。


「別に良いのではないかえ? わっちも家か事務所に引き籠っておる事が多い故、運動不足になりがちでのぅ。体力の低下はゲームプレイにも響くと思い、週2でジムに通っておるよ」

「僕もゲームやリアルは関係なく、効率はよく考えますね。何と言うか、効率の悪い行動って気持ちが悪く感じてしまうんですよね」

「俺も時間を無駄にする生き方は出来ねぇな。……まぁ、昔は食べる時間も勿体ねぇと思って早食いが癖になってたんだが、師匠に『食事の時間だけは大切にしろ』って指導されて、そこだけは直したけどな」

「私は大学の課題やゲーム内で受注してる依頼なんかがあるからね。毎日本当に時間が足りないから、必然的に効率重視の思考回路が出来上がっちゃったわ」


 どうもエイリアスの皆も効率重視の私生活を送っているようだ。


「私はゆとりを持った生活を大切にしてるから、あんまり詰め込んだ時間の使い方はしないかな~。まぁ、でも効率重視の生活も悪くないと思うよ? 生き急ぐ事って悪い事じゃないからね♪」

「そうなんですか? 生き急ぐって何だか悪い意味で使われがちな感じがしますけど……」

「ぜ~んぜん悪くないよ! 人生は短いからね。ただのんびり生きてると、欲しい物が入る枠が簡単に無くなっちゃうの。生き急ぐって事は、それだけ沢山の物を限られた枠の中に詰め込めるって事なのさ♪」


 その考え方は無かったと、私は目から鱗が落ちた。


「でも、ミシャさんはあまり詰め込んだ生活は送らないんですよね?」

「もちろん♪ だって私は、どんな人生を送るかも人生の中で何を手に入れるかも、全部もう決めてるからね。急ぐ必要はないのさ♪」


 ミシャさんのその言葉から、ミシャさんは自分の人生を私なんかよりもっと上空から見下ろしてるんだなと感じた。

 私にはまだそんなレベルで自分のこれからの人生を決める事は出来ないけれど、一先ずこれからはもう少し効率重視で生きて行こうかなと漠然と思った。


 ――だって、私の生き方は『全部諦めない』だからね。欲しい物も楽しい事も、詰め込めるだけ詰め込みたいって思っちゃうもん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る