201. ギンジ式ブートキャンプ(極) 2
――……私、何でこんな事になってるんだっけ?
物凄いスピードで迫って来るハイエンスドラゴンの尻尾を、エアウォークの多段ジャンプを用いて飛び越えながら今の状況になった原因について考える。そしてこれまでの経緯を走馬灯のように思い出しながら、その答えに辿り着いた。
ジャージ姿でハイエンスドラゴンと1人戦っている原因……それは9割ギンジさんと1割ルビィさんによるものだった。
私が相談を持ち掛けた定期報告会の日、ギンジさんが提示したスキル上げ手段とはとてもギンジさんらしい物で、それを一言で言うと『デバフでステータスを下げて強敵と戦えばスキルは簡単に上がる』と言う物だ。
運営が私専用の育成ダンジョンとして用意してくれたイビルカースツリーダンジョンもそういう仕様を利用する為に作られた物だが、あのダンジョンはあくまでペットのレベルと短剣スキルを安全に速く上げをする為に用意されたダンジョンの為、今の私の総スキル値を考えるとそろそろスキル上げが遅くなってしまう程度の強さになってしまっている。
つまり、今の私が更に何種類もの武器スキルを上げる為には、更に強い敵と戦う必要があるのだ。
けれどここで問題が1つある。確かにプログレス・オンラインの仕様上、武器スキルはステータス差が大きい敵を攻撃するほど上がりやすくなるが、簡単にやられてしまえば死に戻って再度戦いに行くにしてもタイムロスが大きすぎて効率が逆に悪くなってしまう。
そこでギンジさんは、ファイさんに新しい私専用ダンジョンを依頼する事にした……。『ついでに戦闘訓練も行えるように、何体か指定のモンスターをランダムで出す仕様に出来ないか?』と言う言葉と共に。
そうして完成したのが今私が入っているこのダンジョン【地獄の訓練場】だ。敵の攻撃パターン等を頭に叩き込んで戦闘に慣れて行けば生き残れる時間は増えるし、もし死に戻りしてもダンジョンへの入り口は同施設内にある為すぐに再入場出来る。
ちなみに、このダンジョンの命名者は私だ。
武器は攻撃力を度外視した耐久値特化の物をルビィさんが用意してくれていて、ジャージも勿論ルビィさんによるオーダーメイド品。
『ナツにそこらの既製品を着せるなんて我慢ならない! だから任せて! 訓練用の装備は何着でも作るから!』
という熱意によって、適当な既製品ではなく数々のデバフ素材を使ったオーダーメイドジャージが完成した。
「っ!? バックスタブ! ……あはは、間に合わないよね」
ハイエンスドラゴンからブレス攻撃の予備動作を確認した私は、急いで背後に回り込んでバックスタブを叩き込もうとした。が、その攻撃はキャンセリングタイムに間に合わず、その後私はハイエンスドラゴンのブレスに飲み込まれて死に戻りした。
……
…………
………………
「はぁ~。そりゃあ死に戻りしてもすぐに再チャレンジは出来るけど……何度も何度も死に戻りするストレスが半端じゃない」
プライベートルームのベッドの上で目を覚ました私は、誰も居ないその部屋でポロっと愚痴をこぼす。
地獄の訓練場でランダムに出現するモンスターは、ギンジさん曰く『ここら辺のモンスターの攻撃を耐えられるようになれば、あとは大体なんとかなる』というラインナップで、これ以上ない鬼畜仕様となっている。
私は自身のスキル上げに加えてペットのレベル上げもしなくてはならないのだが、何とあのクロが私に気遣うような視線を送り、文句も言わずにイビルカースツリーを黙々と叩いてくれるレベルのストレス発生ダンジョンなのだ。……尚、レベル上げのノルマが終わると模擬戦を挑んでくるのは変わらなかった。
「よしっ! 落ち込むのはここまで。ちゃっちゃと切り替えて次だ!」
私は無理やり意識を切り替え、自分を奮い立たせながら地獄の訓練場へと向かった。
「……あぁ、次は戦闘訓練か」
再入場したダンジョンには先ほどまで居たハイエンスドラゴンの姿はなく、そこに居たのは昔馴染みのボスモンスター、猿洞窟の赤猿だった。……もはやこのボスモンスターは私のマブダチと言って良いかもしれない。
私はサッと盾を構えて、赤猿の動向を伺う。
「グギャァアア!!」
私を視認した赤猿は咆哮を上げ、私の方へと襲い掛かって来た。
私は赤猿の攻撃を冷静に見極め、シールドバッシュでパリィする。そして、パリィによってノックバックを受けた赤猿の懐に飛び込み、短剣による攻撃を叩き込む。
その後、ノックバックから回復した赤猿の攻撃を再度パリィして、瞬時にインベントリ操作で武器を入れ替えてメイスによる攻撃を叩き込む。
このダンジョンには、ハイエンスドラゴン並みのボスモンスターが何体も出て来る。そんな鬼畜仕様のダンジョンの中に、1体だけポツンと出て来る明らかにレベルが違うこの赤猿。このモンスターだけは、他のモンスターとは立ち位置が違うのだ。
このダンジョンに出現する数々の鬼畜モンスター達は、基本的にそのモーションを覚えて慣れる事と、攻撃を加える事で武器スキルを上げる為に存在する。
けれど、この赤猿だけはそうではなく、『盾で攻撃をパリィしつつ、その度に武器を切り替えて戦う』という戦闘訓練の為に存在するのだ。
ギンジさんは試行錯誤で色んなモンスターと戦いながら、実践の中で様々な武器を使った戦い方を学んでいったが、最終的に赤猿との戦闘訓練が一番良い訓練になったらしい。
ちなみに、そんながむしゃらな訓練の末に様々な武器を切り替えながら戦う術を身に着けたギンジさんだが、現在は基本的に刀による戦闘を行っている。
それは何故かと言うと、色んな武器を一通り使って戦ってきた結果、『1つの武器に集中して戦った方が隙が無く、戦いやすかった』という結論に落ち着き、現在では基本的に刀で戦って必要な時に武器を切り替えて技能を使うという戦法となったとの事だった。
そういった結論に陥りながらも私に複数の武器スキルを上げさせようとしているのだから、ギンジさんの鬼畜さがよく分かる。
そんな鬼畜なブートキャンプに挑んでいる私だが、今はマブダチの赤猿君と遊びながら先ほどの戦いで受けたストレスダメージを癒す事に専念した。
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