200. ギンジ式ブートキャンプ(極) 1

 エイリアスの定期報告会中に私が持ちかけた相談、『高い頻度でクリティカル攻撃を行う手段』に対するギンジさんが出した良案は……正にギンジさんらしい物だった。


「お前さんの装備は既にお前さんの戦い方に最適化された物で、そこから大きく変えれば逆に弱くなるだろう。武器にもクリティカル率を上げるバフが付いた物はあるが、それだけじゃ確定クリティカルとまでは行かねぇ。……なら、お前さんに残された手段は武器技能による確定クリティカルだけだ」


 装備や魔法、自己強化系技能にはクリティカル率を上げるバフが存在する。けれどそれは、あくまでクリティカル攻撃を発生させる確率を上げるだけであって確定クリティカルではない。

 ただし、それらを幾つも組み合わせる事によってクリティカル率100%にする事も不可能ではなく、実際にクリティカル特化ビルドにしているプレイヤーも存在している。けれど、私は既に装備構成がほぼ固まっており、クリティカル率100%を目指して大きく構成を変えると総合的にかなり弱くなってしまうのだ。

 そこでギンジさんが出した解決策とは、『短剣技能であるバックスタブの様に、確定クリティカル効果のある武器技能を複数使い回せば、クリティカル攻撃の出し放題だ』という物だった。

 確かに複数の確定クリティカル技能を使い回せば、クールタイムによるクリティカル攻撃手段の消失リスクは無くなる。……けれど。


「あのぅ、ギンジさん……。色んな武器技能を使うって言う事は、それぞれの武器スキルを技能が使えるレベルまで上げる必要があるって事ですけど」

「上げればいいだろ?」

「……それに、武器技能は技能に合った武器を手に持っていないといけないので、戦闘中に武器をクルクル付け替えながら戦う事になりますよね?」

「そうだな。インベントリ操作やそれぞれの武器の扱い方を習得する必要があるが、まぁお前さんなら何とかなるだろ」

「……」


 私の総スキル値は実はもう結構な高さになっている。当初から育てていた物はその殆どがカンストまで育てているし、そして何より技巧師のパッシブバフを手に入れる為に3つのスキルを新たに上げているのだ。

 総スキル値が高くなっていくとスキルレベルを上げる難易度が上がっていく仕様上、今から更に複数の武器スキルを上げていくというのはとても大変で、必要な分のスキルを手に入れるのにどれだけの労力が必要なのか予想も付かない。

 

 それに、私の様な機動力を活かした戦闘スタイルで、戦闘中に何度も武器を切り替えながら戦うのは至難の業だ。戦闘中にポーションを出すだけでもかなり神経を使っているのに、それに加えて複数の武器を瞬時に切り替えながら技能を叩き込む事になる。……正直出来るかどうか分からない。

 それをギンジさんは、『スキルは頑張って上げて、技術は頑張って習得すれば良いだろう?』と言っているのだ。

 

 ――何という脳筋。……いや、それは分かってたけど。


「お前さんも総スキル値が上がって、スキル上げが難しくなってる頃だろうが心配すんな。俺は全ての武器スキルをカンストさせて、ウェポンマスターのパッシブバフを手に入れた実績がある。この中でも総スキル値は俺が圧倒的に高い。その俺が、効率的なスキル上げの方法を指導してやるよ」


 ――怖い。


「複数の武器を切り替えながらの戦い方も、俺が昔通った道だ。俺の時は試行錯誤で訓練していたんで、習得まで半年ぐらい掛かっちまったが……。まぁ、今では訓練方法も確立されてるし、お前さんならすぐ物になんだろ」


 ――……怖い。


「……あぁ、訓練用の装備は用意しておいた方がいいな。訓練中はどんどん装備の耐久値が落ちちまうだろうから、盾も武器も含めて装備一式壊れていい物を何セットか用意しておけ」


 ――…………さて、今日はもう疲れちゃったし、部屋で皆をすべすべもふもふしながら過ごそうかな。


 こうしてギンジさんのブートキャンプ(極)が始まった。……勿論、逃げられなかった。


 ……


 …………


 ………………


 先日の定期報告会から色々な事があった。

 具体的な訓練内容の話になって、ロコさんとギンジさんが言い合いを始めたり。

 ギンジさんがファイさんに無理を言って、かなり大掛かりな私専用ダンジョンを急ピッチで作ったり。

 ギンジさんがルビィさんに無理を言って、何種類かの武器調達と、盾を含めた装備一式を何セットも用意してもらったり。

 課金アイテムであるリセットチケットを使って、鑑定スキルを0にしたり。


「グゥウウウオ˝オ˝オ˝オ˝オ˝オ˝オ˝ォォォン!」

「あ、あはは……」


 そうして私は今、ハイエンスドラゴンと対峙している……ジャージ姿で。

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