199. キャンセリングタイムの課題
阿吽道場で技巧師のパッシブバフを手に入れた私は、『パリィ有効時間をコンマ5秒増加』『キャンセリングタイムの有効化』の恩恵を実践の中で確かめ……技巧師の人気がない理由を十分に体感した。
「これじゃあ、技巧師の人気が無いはずだよ。パリィは思った以上に恩恵が強いけど……キャンセリングタイムの仕様が鬼畜過ぎる」
パリィ有効時間をコンマ5秒増加させる恩恵は、その増加時間の見た目以上に大きく感じられた。タイミング的に「しまった!」と顔を顰めるような失敗をしても、意外とコンマ5秒でカバー出来るのである。
パリィの恩恵はこの通り凄く良いのだけれど、問題はキャンセリングタイムの方だ。
キャンセリングタイムが有効化した事によって、敵が魔法や技能を発動しようとしたタイミングで、敵の体が淡く光るようなエフェクトが見えるようになる。そして、その光っているタイミングでクリティカル攻撃を叩き込む事によって、その行動をキャンセルする事が出来るようになった。
けれど、ここで問題が2つ発生する。1つはその光っている時間、キャンセリングタイムの有効時間が短い事。時間的には技巧師の恩恵を得る前のパリィ有効時間と同じぐらいだ。
2つ目の問題は、確定クリティカルを出す手段が限られていて、しかもその手段を用いて限られた時間にクリティカルを叩き込むのが至難の業だという事。
確定クリティカルを出す手段として、私が持っている手段は2つしかない。バックスタブとモカさんのカウントナックルだ。
バックスタブは相手の背後から叩き込む事によって確定クリティカルを出すが、必ず背後からの攻撃という縛りがあるので、キャンセリングタイムの有効時間に間に合わない場合がある。しかもクールタイムが少し長めなので、技能や魔法の連続使用に間に合わない。
キャンセリングタイムは自身のペットによる攻撃も有効なので、5回目の攻撃で確定クリティカルというモカさんのカウントナックルも有効に働く。
けれど、その性質上バックスタブ以上に技能や魔法の連続使用に対応出来ないし、ボスモンスターや一部の高レベルモンスターは範囲技などを持っていることが多いので、私が敵のヘイトを取っていてもペットに攻撃が行く可能性がある。なので、カウントを4まで溜めた状態でモンスター近くに待機させておくのは少し怖い。
以前、サイトや動画で調べた時は、装備や技能でクリティカル率を上げるバフを重ね掛けして確定クリティカルを出すという情報があった。
ただ、今の状態でも高価な装備を全身に纏って様々なバフを積んでいる状態なので、それを減らしてクリティカル率を上げるというのも悩み処だ……。
色々悩んだ結果、明後日にあるエイリアスの定期報告会の場を借りて皆に相談し、それまでは一先ずバックスタブによるキャンセリングタイムの練習をする事に決めた。
……
…………
………………
と、言う事であっという間に二日が経ち、エイリアスの定期報告会が始まった。
今日の報告内容はバグモンスター出現頻度に関する事と、以前私がバグ除去をしたクリスタルモールの調査状況についてだ。
バグモンスターの出現頻度については、相変わらず小型や低レベルモンスターのバグモンスターは減少傾向にあるが、大型や高レベルモンスターの出現頻度が増えているとの事。
ただ、先日のクリスタルモールを使った罠の件から、データ保護アイテムのクールタイム中のメンバーが重なり過ぎると危険だと判断し、極力個々のモンスターをデータ保護を使って倒しに行かないように戦い方を変えた。
ではどうするのかと言うと、今ではもう短時間でしか対処出来ないが運営スタッフによる凍結処理を行い、すぐに隔離エリアに運んでから運営スタッフ自身により討伐を行う。この際、運営スタッフのキャラデータが何体かロストしてしまったが、今バグモンスターに対しての最大戦力であるエイリアスのキャラデータを守る為のコストだと割り切っているらしい。
そして、運営の方で対処が難しいと判断されるモンスターに限り、エイリアスのメンバーにデータ保護アイテムを掛けて貰い、対処している。
次にクリスタルモールについては、まだあまり進展がないとの事だ。
データ上は他のクリスタルモールと差はなく、何故バグに耐性があるのか不明。今も様々な角度から調査を続けているとの事だった。
「私からは以上だが、他に誰かここで話したい事はあるかな?」
「あの、報告とかでは無いんですが、少しご相談したい事がありまして……。良いでしょうか?」
「なんじゃ、ナツ。そんなに畏まる必要はない。全員が集まっている機会はそんなに多くはない故、相談したい事があるのなら遠慮なくするのじゃ」
そう言って、ロコさんが私の言葉を促してくれた。
私はそんなロコさんの気遣いに甘えさせてもらい、この場を借りてキャンセリングタイムの為のクリティカル攻撃を出す手段について相談をさせてもらった。
「確かに難しい問題じゃのう。わっちはあまりクリティカルに依存せん戦い方にしておる故、これと言って解決策がパッとは出てこんのじゃが……。ルビィから見て、装備方面での対応は可能かえ?」
「う~ん、今の状態でも結構ガチガチに組んでるんですよねぇ……。やるとしたら武器をクリティカル特化の物にするか、神化装備みたいにキャンセリングタイム専用の装備に瞬時に切り替えながら対処するか。……いや、でも流石に変身コストが掛かり過ぎて現実的じゃないですね」
装備一式を一瞬で付け替えるアイテム『時戻しの懐中時計』。それは付け替える装備の総レアリティによって、付け替え前の装備から算出されたコスト分の装備を破壊しなければならない。
神化装備は切り札の為、頻繁に使う事はない。けれど、キャンセリングタイムは頻繁に使うため、その度に装備一式をクリティカル率アップ仕様の物に切り替えてコストを支払うのは現実的ではないのだ。
皆が私の為に解決策を考えてくれている中、ギンジさんが声を上げた。
「ナツ、俺に良い考えがあるぞ」
恐い笑顔を浮かべながらそう言うギンジさんを眺めながら、「あぁ、久々に地獄の訓練が始まるのかぁ~」と私は1人達観した様に悟った。
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