204. シュン式ブートキャンプ(極)
エイリアスの皆で私の戦闘動画を視聴した翌日、私には新たな訓練が追加された。
その訓練でまずすべき事はサイコロを振る事。
「えっと、3だから……足を地面に着かないように、か」
「僕は膝の可動域制限プロテクターですね」
そしてシュン君から貰った紙に書かれた物の中から、出目に対応した指示を見つける。その後、シュン君もサイコロ転がして自分への制限を決め、30分制限で模擬戦だ。
これは何のための訓練かと言うと。
『人は動きに制限が掛かると、その制限下でも動けるようにと最適化され適応していきます。この訓練はその制限を極端な物にする事によって、リアルとゲームの物理法則の違いや、ステータスによる動作の可能性を頭と体で理解する為の物ですね』
との事だった。
そして今、『逆立ちした私 VS 膝を少ししか曲げられないプロテクターを着けたシュン君』という状況になっている。
事情を知らない人がこの状況を見たら、さぞ驚く事だろう。
「それじゃあ、始めましょう」
そう言うと、シュン君は動きを制限されているとは思えない速度で迫って来た。
「プッシュ ストライク」
「シールドバッシュ! エアウォーク! インパクト ストライク!」
シュン君のプッシュストライクを片手立ち状態でパリィする。リアルでこんな事をすれば、シュン君の攻撃から受ける衝撃によって倒れ込むはずだけれど、パリィに成功した私へと掛かる衝撃は予想以上に小さく、私は問題無くそれに耐える事が出来た。
その後、地に足を着かない制限の中で戦うため、私はエアウォークによる空中戦を仕掛けた。……が。
「よっと」
「えっ!? ぐへっ!!」
シュン君は飛んできた私を回転しながら避け、その後タイミングを合わせてかかと落としによって地面へと叩きつけられた。
「エアウォークは基本真っすぐにしか飛びません。心合わせの指輪で翼を得ている状態ならまだしも、そうでない場合はプレイヤー相手だと簡単に動きを読まれちゃいますね」
「……今、痛いほど理解したよ」
それからも30分みっちりと模擬戦を続ける。シュン君はプロテクターによる制限下だというのに、驚くべき躍動感で飛んだりステップを踏んだりしながら高い機動力を維持して戦っていた。
逆に私は、逆立ち状態でどう戦えばいいのか全く掴む事が出来ず、一方的なサンドバック状態だ。
「今日はここまでですね。この訓練を出来るだけ毎日30分やって、その後訓練用ダンジョンでも同じ制限で30分戦います。最初は大変だと思いますけど、ナツさんならすぐにリアルとゲームとの違いを体で覚えて適応出来ると思います」
「出来るかなぁ。正直、今日私何も出来なくて全然自信が無いよ……」
「ナツさんなら大丈夫だと思いますよ? ……実はナツさん、これまでの戦いの中でも気分が最高潮に乗っている時に、時々凄い動きをしてましたからね」
「……何となく自覚あるかも」
それは確かに自覚があった。本当に時々なのだが、集中力が最高に高まっていって気分も最高潮に乗っている時、自分でも不思議なぐらい動けるのだ。
それは普段なら絶対に怖くて出来ないような動きでも、その時は不思議と問題無く出来ると確信して動いていたりする。……と言うか、シュン君は普段からあれが出来るという事なのか。そりゃあ、勝てない訳だ。
「多分ナツさんは頭では理解出来てなくても、感覚でリアルとゲームの違いを感じているんだと思います。だから、この訓練によって頭でもゲーム内特有の物理法則とステータスの恩恵を理解出来れば、きっと対応出来るはずです」
「……うん、ありがとう。私、頑張ってみるね!」
シュン君のその確信を持った発言に勇気を貰い、私はこの訓練を精一杯頑張ってみる事にした。
……
…………
………………
「やっぱり無理っ! これでどうやったら真面に戦えるの!?」
地獄の訓練場でランダムポップしたのはゴライアという名前の巨大な大蛇だった。そして挑むは逆立ちした私……もう訳が分からない。
「エ、エアウォークッ! インカ―ネイション! ライオンハート!」
ゴライアから繰り出される尻尾払い攻撃をエアウォークで何とか飛び越え避けて、悪あがきとばかりにインカ―ネイションにより自身をシャドウタイプにしてライオンハートによる全能力向上のバフを掛けた。
「意味があるのか分からないけどっ! レッグ アビリティ アップ! レッグ アビリティ アップ セカンド! レッグ アビリティ アップ サード!」
向上したステータスとシャドウタイプの能力によって何とか相手から逃げつつ、逆立ち状態で意味があるのか分からないけれど蹴りの自己強化技能を発動した。
――良かった! 逆立ち歩きでもちゃんと移動速度が速くなってる! ……よく考えたら当たり前か。この技能って走る速度が上がるんじゃなくて、機動力が上がるバフだもんね。
複数のバフにより更に機動力を増した私は、逆立ちで大蛇の周りを走り回るという妖怪の様な立ち回りで何とか生き残っている。
その過程で私は、足を少し浮かせた状態で腕立てのような動きが出来たり、片手で跳躍したり、大蛇の体で跳び箱をしていたりした。
――人間、死ぬ気になれば意外と何でも出来るね! ……でも、この戦闘風景の動画を後で見返したら、きっと気持ち悪い動きしてそう。
自分がどんどん普通から遠ざかっている事を感じながら、その後もゴライアとの戦闘は続いた。
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