194. 決戦計画
「単刀直入に言おう、今回の事で運営側に裏切者が居る事が確定した」
ファイさんから告げられたその言葉に、会議室内の空気が一気に静まり返る。
――クリスタルモールの件で運営側に裏切者が要る事が確定。……それはつまり。
「今回のバグモンスターは、完全にその裏切者の罠じゃったと言う事じゃな?」
「……君達のこれまでの活動により、我々運営はバグモンスターの出現をある程度検知出来るようになった。だが今回、クリスタルモールのバグモンスターが出現した反応は1件しかなく、原因を調査した結果、検知システムに手が加えられた形跡があった」
通常あのマップにクリスタルモールは1体しかポップせず、複数体のクリスタルモールが同時に存在する事は本来あり得ない。
それがバグ化による現象だったとしても、本来のバグモンスター検知システムであれば複数体のバグモンスターが存在する事を検知出来るはずなのだそうだ。
そしてもう1つ。あの地下空間だ。
私は知らなかったのだが、通常あの地下空間はあれ程の深さと広さを持っていないらしい。本来であれば、地下は長い洞窟のようなマップになっており、そこを走り回ってクリスタルモールを倒すという仕様になっていたそうだ。
それが1つの巨大な地下空間に変化し、そこに大量のクリスタルモール。更に言えば、その地下空間内は運営でも調査する事が出来ないようになっていたそうだ。
「我々運営スタッフは、神AIから世界全体を監視出来る権限を付与されている。これはこの世界の絶対のルールであり、本来それに干渉する事は不可能だ。……だがこの犯人は、地下空間のマップを修正し、地下全体を我々運営でも監視が出来ないようにしたのだ」
「……あの、これからどうするんでしょう? 正直、マップ修正したり運営権限でも干渉出来ないようにする相手と、ただの一般プレイヤーでしかない私達がまともに戦えるとは……」
それこそ最悪の場合、私達のアカウント削除なんてことも出来るのではないか。運営を敵に回すという事は、つまりそういう事なのだ。
「敵にここまで好きにさせておいて言える事ではないが、対抗手段はある。これは、ナツ君の功績で生まれた対抗手段でもある」
「私の功績ですか?」
「そうだ。先日の一件で、君は最後にバグ化したクリスタルモールからバグだけを消去しただろう。あの後、バグを消去されたクリスタルモールをサンプルとして回収し、調査した結果……そのクリスタルモールは再度バグ化しない可能性が出て来た」
サンプルとしたクリスタルモールだが、運営によって確保された後、色んな角度からの調査が行われたそうだ。
基本的には通常のクリスタルモールと同じだったが、1つだけ通常モンスターとは異なる部分を発見した。それは、”バグモンスターに攻撃されてもデータが破壊されない”という事。
最初は、運営側で確保している小型のバグモンスターで攻撃した際、再度バグ化しないか調査しようと考え、その検証を行ったらしい。結果としてはバグモンスターに攻撃されてもバグ化はせず、それどころか通常モンスターだと起きるデータ破壊も起きなかったそうだ。
「今はまだ、このクリスタルモールの何がデータ破壊を防いでいるのか不明な状態だ。だが、更に調査を進めていくことによって、制限時間の無いデータ保護アイテムの開発や、モンスターをバグ化させない修正を施せる可能性が出て来た」
「それは凄いのぅ……。じゃが、修正を何時施すのじゃ? 全モンスターとプレイヤーキャラに修正を施すのは、かなり大掛かりな作業になるし、黒幕とやらの干渉を受ける可能性もあるじゃろう」
「あぁ、その可能性は十分にある。だから私達は、クリスタルモールからバグへの対抗手段を見つけ出した時点で我々運営スタッフの持つプログレス・オンラインへの干渉権限の全てを一時凍結し、その後大規模データ修正の決行日を決め、一週間程度の長期メンテナンス期間に入る」
運営スタッフのゲームへの干渉権限を全て一時凍結する事によって、内部からの干渉をブロック。長期メンテナンス期間を設ける事で、外部からの干渉をブロック。
その間に、私達エイリアスだけがログイン出来るようにし、プログレス・オンラインに存在する全てのバグモンスターを討伐。
そこまで上手く行ったら、ファイさんの手によってプログレス・オンライン内の全てにバグへの対抗処置を行うそうだ。
「長期メンテナンスの名目はどうするんですか? 一週間のメンテナンスっていうと凄く長いと思うんですけど」
「それに関しては、丁度いい名目が有ったので、それを使わせてもらおうと思う」
「丁度いい名目?」
「バグモンスターイベントの最終ポイント集計と、カルマシステムの導入だ」
バグモンスターイベントは、本物のバグモンスター事件から一般プレイヤーの目を逸らさせる為のイベントだ。
イベント用特殊モンスターであるバグモンスターを倒す事でポイントを獲得し、最終ポイントの結果によって豪華賞品が贈られる事になっている。
そしてカルマシステムとは、ハイテイマーズの様に利用規約の穴を突きつつ不正行為や迷惑行為を行うプレイヤーを取り締まるシステムだ。
プレイヤーに不可視のステータスとしてカルマ値という物を導入し、普段の行いを神AIに監視させる事によってそのカルマ値の増減を制御。そしてそのカルマ値によってペナルティを与えるボーダーを上下させるのだ。
これによって、ギリギリを狙って不正や迷惑行為を行う者はペナルティを受けやすくなり、そうでない者は今まで通りのペナルティ基準となる。
多くのプレイヤーからの要望を叶えるシステムであったが、バグモンスターという大きな問題が残っていたため、カルマシステムの様な大規模修正が行えなかったのだ。
――流石ファイさん。全部が上手い具合に繋がってる。
全てが上手い具合にハマる、その完璧な計画に私は感心した。
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