193. 次世代デバイスの性能チェック

 プログレス・オンラインに復帰した後の為に色々と下調べしながら数日を過ごし、遂に新しいデバイスが届いた。……3人のスタッフと共に。


「設置と動作確認に3時間程掛かるので、その間お部屋を占領する事になりますが宜しかったでしょうか?」

「はい、大丈夫です。ちょっとギリギリですけど、広さは足りてると思いますので宜しくお願いします」


 今回、ファイさんに用意してもらった新しいデバイスは凄く大きい。そのデバイスを設置する為、事前に部屋を何度もパズルのように模様替えしながら、何とか設置スペースを確保しておいたのだ。

 ちょっと圧迫感がする部屋となってしまったが、やっぱり自分の部屋でログインする方が落ち着くので、両親にも手伝ってもらいながら何とかデバイスが届くまでに間に合わせる事が出来た。


 そして3人のスタッフによって沢山のパーツが部屋へと運び込まれ、どんどん組み立てられていく。

 その風景が楽しく、出来れば少しずつ完成していく様子を見ていたかったが、作業の邪魔になるなと思い直し、リビングでデバイスの完成を待つことにした。


「お待たせしました。動作チェックも含めて作業が終わりましたので、何時でもご利用頂けます。操作マニュアルがシートの背面ポケットに入っておりますので、ご利用の際はそちらをご覧ください。もしご不明な点などありましたら、マニュアル内に書かれています専用窓口の番号までお問い合わせください」


 作業は予想より早く終わり、2時間程で部屋にデバイスが設置された。設置された現物を見ると、ロボットのコックピットの様なデバイスが、部屋の中にある事に少し違和感を覚える。

 小さなぬいぐるみの置かれた机やベッドと、この新しいデバイスがなんと不釣り合いなことか……。

 

 私はスタッフさんにお礼を言って、さっそくゲームにログインする事にした。


 ……


 …………


 ………………


「はわぁ~、パルはひんやりすべすべだねぇ~。モカさんはサラサラの毛並みで抱き心地も最高ぉ~。クロは……駄目だよね」


 ログインしてまず私がしたことは、次世代デバイスの性能チェックだ。これもモニターとしてのお仕事であるから仕方がないのだ。

 次世代デバイスの性能は素晴らしく、ログインしてすぐにその違いに気が付いた。世界の色味やディティールがより細かく再現されており、もはやリアルと遜色がない程の精巧さだ。

 今まで私が使っていたデバイスは、(私的には十分高いけど)お手頃価格の物で、処理負荷を減らすために表現されるディティールなどがあえて低質な物となっていたらしい。けれど、今回のデバイスでは処理性能が別次元に凄い物なので、プログレス・オンラインの精巧さを余す事なく表現出来るようになったとの事だった。

 

 私はその性能チェックを行うため……そう、性能チェックを行うためにパル達を指輪から具現化し、現在ペット達と戯れている。

 すると、色味、肌触り、抱き心地、全てがグレードアップしていて、ペット達の魅力が300%増しぐらいになっていた。残念な事に、クロは私の様子に危機感を感じたようで、少し離れた場所でこちらを警戒している。

 そんな幸せなデバイス性能チェックをしていると、ファイさんから電話が掛かって来た。


「はい、ナツです」

『早速新しいデバイスを試して貰えているようで良かった。次世代デバイスの調子はどうかな?』

「はい、最高です! 今ペットと戯れながら、デバイス性能の高さに圧倒されています!」

『ん? よく意味は分からないが、満足してもらっているのであれば良かった。もし何か不具合や要望等あれば遠慮なく言って欲しい。……それで、ログインしたばかりで申し訳ないのだが、今から少し時間を貰えないだろうか?』


 ファイさんの話を聞いてみると、どうやら前回のクリスタルモール戦の経緯について説明したいとの事だった。ルビィさんはリアルの事情で居ないが、その他のメンバーも集まって事情説明をしたいらしい。

 私はそれに了承し、少し後ろ髪を引かれる思いをしながらもペットをサモンリングへと戻し、会議室へと向かった。


「おぉ、ナツよ。やっと復帰出来たのじゃな。最近は頻繁に顔を合わせておったから、数日合わぬだけで随分久しぶりな気がするのじゃ」

「ナツちゃん、この前は大変だったらしいね! ごめんね。私もログインしてたら助けに行ったんだけど」


 会議室へと入ってすぐ、私を見たロコさんとミシャさんから声を掛けて貰ったのだが、私はデバイス性能の高さを見せつけられ反応するのに少し時間が掛かってしまった。


「ナツ、どうしたのじゃ? 大丈夫かえ?」

「……あっ! はい、大丈夫です! すみません、ぼーっとしてました」

「ナツちゃん、本当に大丈夫? 体調悪いなら今日はログアウトして休んだ方が良くない?」

「いえ、体調が悪いという訳ではなく……その、改めて2人共凄く美人だなって見惚れてて……」


 私が照れながらそう言うと、2人共きょとんとした顔をした。……まぁ、突然こんな事を言われたらそうなるだろう。


「急にどうしたの? もしかして私達、今口説かれてる?」

「えっ!? いやいや、そう言うんじゃなくて、今私新しいデバイスでログインしてるんです! 今までが低スペックの物を使っていたので、新しいデバイスを通してロコさんとミシャさんを見て、改めて美人だなって思って」

「あぁ、そういう事かえ。確かにデバイス性能が上がった時の感動は凄いの。わっちも最初はお試しで低スペックの物を買った故、その感動を味わった事があるのじゃ。……じゃが、言い方は考えんといかんぞ? いきなり過ぎてビックリしたではないか」


 私は謝りながらロコさん達のデバイス事情について話を聞いた。

 なんとロコさんは、お試しでデバイスを買い、プログレス・オンラインでペットの可愛さに触れたその日に最高スペックのデバイスを購入し直したそうだ。それ以降は、最新デバイスが発売される度に買い直しているらしい。

 ちなみに、最初ファイさんに提案してもらった最新デバイスをロコさんもミシャさんも使っているとの事。

 シュン君は1世代前のハイエンドデバイスを使っていて、ギンジさんは以前の私と同じ低スペックデバイスを使っているそうだ。


 使用デバイスについての話題で皆と盛り上がっていると、ファイさんが会議室に到着した。


「待たせてしまって済まない。早速だが、今日は先日のクリスタルモールの件について事情説明をするために集まって貰った。……単刀直入に言おう、今回の事で運営側に裏切者が居る事が確定した」

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