192. 何も持っていないリアルの私に出来る事
「ふぅ……。何と言うか、僕たちの知らない間に奈津は凄い事になってたんだな~」
プログレス・オンラインの営業の人が説明を終えて帰っていった後、お父さんが疲れたように声を漏らした。
「本当にビックリしたわよ。奈津が突然、今やっているゲームの会社から未公表デバイスのモニターを頼まれたなんて言い出すんだもの。それで、営業の人が説明に来るって話になって、詳しい話を聞いていたら何時の間にか芸能事務所なんて話にまで発展するし」
「ははは。あれは本当に驚いたね。まぁ、ゲームで有名になった人がそのままプロチームに所属とかは聞いた事がある話ではあったけど、まさか自分の娘が……しかもプロチームどころか、僕でも聞いた事があるような芸能事務所に入る事になるとは夢にも思ってなかったよ」
2人共、心底疲れたといったような表情で今日聞いた話について語り合っている。
ただ、2人共悪い雰囲気ではなく、本当にただ疲れたという様子だった。
「それで、奈津は本当に良いのね? 正直、私はゲームの事とか、次世代デバイスの広告塔? みたいな事はよく分かってないんだけど、お仕事としてするのであれば、これまでみたいに楽しくゲームするだけじゃなくて大変な事もあると思うわ」
「そうだね。極力僕たちも奈津とあちらの間に入って、奈津に危ない事がないように守っていくつもりだけど、仕事として請け負う以上は責任を伴うことになる。お母さんの言うように、楽しいだけじゃなくて大変な事もきっとある」
今日の説明で、両親には次世代デバイスのモニターの件と、将来的にデバイスの広告塔として活動してもらいたいという話まで行っている。
それに対して私は「やってみたい」と自分の意志を示し、今日の所はモニターの件の了承と広告塔に関しては前向きに検討という事で一旦話を終える事になった。
これは勿論、私がやらかした所為で危険を回避する為には事務所に所属した方が良くなったという理由もあるけれど、私に出来る事を見つけたいという思いも強かった。
私は学校から逃げ出して、不登校になった。その所為でお父さんとお母さんにいっぱい迷惑を掛けたし、今も掛け続けている。
そしてそんな私が、プログレス・オンラインの中では沢山の人に親切にしてもらって、沢山の楽しい経験もして、新しい家族も出来た。勿論、楽しい事ばかりじゃなくて辛い事もいっぱいあったけど、それでも私はプログレス・オンラインによって救われたのだ。
でも、リアルの私は未だに何も持っていない不登校の子供でしかない。……だから、今の私にも出来る事が欲しい。それで両親や、プログレス・オンラインに恩返しが出来るのなら、私は挑戦したいと思ったのだ。
「うん。……私はまだお仕事をした事がないから、多分その大変さが本当の所は理解出来てないんだと思う。でも、辛くて大変でも、今は挑戦してみたい」
レキを取り戻し、学校にも行って、仕事もして両親とプログレス・オンラインに恩返しをする。そんな未来が手に入るのなら、私は大変な思いをしてでも絶対に手に入れたい。
「はぁ、子供の成長は早いってよく聞くけど、ちょっと早過ぎだぞ? 巣立つのはもっと遅くていいからな?」
そんな事を寂しそうに言うお父さんをお母さんは笑いながら慰め、今日はデリバリーピザを頼んでピザパーティーをする事になった。
……
…………
………………
今日の話し合いで四日後にデバイスが届く事が決まり、その間はログインする事が出来ない状態となっている。けれど、だからと言って、その間なにもしない訳にはいかない。
――色々目標はあるけれど、まず第一優先はレキを取り戻す事!
完全なバグモンスターとなったレキの居場所は、今も運営側が全力で探している。
本当は私も探したいけれど、マップ全域を調査出来る運営以上に捜索出来るとは思えないので、私は私に出来る事をするしかない。
実を言うと、前回のクリスタルモール戦で1つ分かった事があった。
それは、キャラとしての機動力は長年機動力に特化したスキルビルドや装備を整えて来たシュン君には敵わないけれど、恐らくプレイヤーとしての素の反応速度は私の方が速いということ。
以前シュン君に聞いた事があるのだが、シュン君は機動力だけでなく、それを制御する為に反応速度のステータスも沢山のバフで盛っているらしい。日頃高速戦闘に慣れているシュン君でも、キャラの反応速度を超えた機動力は制御出来ないそうだ。
けれど私は、前回のクリスタルモール戦でキャラの反応速度を超えた機動力をある程度制御出来ていたし、大量の弾幕の中をインカ―ネイションを活用しながらも駆け抜ける事が出来ていた。
その経験があったからこそ、私は確信した。……私はパリィやキャンセリングタイムとの相性がいい。
敵の攻撃を弾くパリィと攻撃自体を妨害するキャンセリングタイム。その2つに最も必要な要素は反応速度であり、飛んでくる攻撃や攻撃の兆候を即座に見極めて行動に移す事が求められる技術なのだ。
戦闘中に気分が高揚していくと、稀に自分でもビックリする程の集中力を発揮する事がある。あの状態を意識的に発揮し、そして維持出来るようになれば、パリィやキャンセリングタイムと合わせて私の強い力になるはずだ。
その為、新しいデバイスが届くまでの間は、動画サイトにあるパリィやキャンセリングタイムを実践しているプレイ動画を観たり、技巧師のパッシブバフを手に入れた後のスパーリング相手として丁度良さそうなモンスターを調べたりなど、復帰後の為に下調べをしながら過ごした。
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