191. 驚愕の展開

「……津……。奈津、……」


 ――何だろう。誰かが私を呼んでるような……。


「奈津、起きなさい!」

「ふぁいっ!!」


 お母さんの大きなモーニングコールにより目覚めた私は飛び跳ねるように上体を起こし、まだはっきりしない意識のなか周りの状況を確認した。


「もう夕食の時間よ! 中々降りてこないから見に来てみたら……奈津、そのヘルメットを被ったまま寝てたの?」

「えっと……うん、そうみたい」

「そうみたいって……。まぁ、とにかく夕食の準備はもう出来てるから降りてらっしゃい」

「あ、ごめん! 夕食作りの手伝いサボちゃった!」

「偶にはいいわよ。それより、寝るにしてもそのヘルメットは外して寝るようにしなさいね」


 何時の間にログアウトしていたのかとか、クリスタルモールとの戦いはどうなったのかとか色々気になったけど、ひとまずはご飯を食べようと下に降りる事にした。

 その時は、食後に再度ログインしてファイさんに状況を聞こうと思っていたのだが、実際にログインしようとしたところで心臓が止まるかと思う程のアクシデントが起きた。


「えっ! 何で! ログインが出来ない!?」


 何時もの様にヘルメット型デバイスを被りスイッチを入れ、ログインを開始しようとすると『補助処理装置に重大なトラブルが発生しており、ログインする事が出来ません。サポート窓口へお問い合わせ下さい。』というメッセージが表示された。

 はっきり言ってフルダイブ機器は凄く高価な代物だ。乱暴に扱ったつもりはないが、もし私の所為で壊れてたらどうしようと頭が真っ白になった。もし修理という話になったら、私に修理代を払えるとは到底思えない。

 色々と最悪の状況を想像して少しパニックになってしまったが、ログインは出来なくてもディスプレイ上でフレンドメールの確認と送信は出来る事に気付き。まずはファイさんに状況を説明する事にした。


「もし修理とか、もっと酷くて買い替えとかになったらどうしよう……。多分お父さんなら笑って買い替えとかもしてくれそうだけど、お母さんが何て言うか……。と言うか、これってやっぱり私が何かやっちゃったのかな? ……あっ! 返信が来た!」


 ファイさんからの返信には補助処理装置のシステム診断アプリの実行方法と、診断結果の送信方法が書かれていて、私はそれに従い作業を行った。

 そして小一時間ほど掛けて診断結果を送り、またファイさんの返信を待ち、届いた返信を開封して中身を確認すると……。そこには驚愕の内容が書かれていた。

 

『ナツ君、君のデバイスが壊れた原因だが、恐らく瞬間的に膨大な負荷がデバイスに掛かった事が直接の原因だろう。クラッシュした瞬間のログも確認出来たのだが、通常ではありえない量のデータを取得し処理していた』


 詳しい事は分からないけど、どうやら普通では起きない現象が起きて機械が壊れてしまったようだ。その通常では起きない現象の原因が、ゲーム自体にあるのか私にあるのかが非常に気になる所だけど、その続きを読んでいくとそれ処ではない事態に陥った。


『更に詳しい調査をしたいため、そちらのデバイスを引き取っても構わないだろうか? その変わり、こちらから処理性能の高い別のデバイスを送らせてもらおう』


 そう書かれた一文の後にはデバイス情報のURLが貼られており、クリックして中身を確認すると……それは「これ絶対に一般人が買うような物じゃないでしょ!」とツッコミを入れたくなるようなデバイスだった。

 ハイエンド仕様のリクライニング型デバイス。簡単に言うと、それはリクライニングシート付きの酸素カプセルのようなデバイスで、それは本来自宅にあるような物ではなく、eスポーツカフェのような専門店に数台置いているような代物だった。更に言えば、ネットで調べてみても、ファイさんから提示されたハイエンド仕様の物を置いている店舗は何処にもなかったという……。

 

「こんなの送られて来ても、お父さんとお母さんに何て言えばいいのか分からないよ! ……ふぁ!? よく見たらこのデバイス、お父さんの車より高い!!」


 昔、家族で車の試乗に行った時、それまで高価な物といったらテレビぐらいの感覚だった私は、車の値段を知って凄く驚いたのを覚えている。けれど、このデバイスはそんな車をも超える値段だったのだ。

 その値段に怖くなった私は、こんな凄い物を送られて来ても両親に説明が出来なくて困るといった内容をすぐに返信した。


『では、現在開発中の次世代デバイスのモニターになってもらうという体ではどうだろうか?』


 どうやら先ほど提示されたデバイスには、まだ販売されていない次世代機があるらしく、それのモニターという体ではどうかという提案を受けた。

 あまり意識はしていなかったが、私は現在プログレス・オンラインに10人も居ない二つ名持ちプレイヤーであり、それでいてプレイ歴も1年未満という実績の持ち主だったりする。そんな活躍目覚ましいプレイヤーに是非モニターになってもらいたいと言えば、そこまで不自然さは出ない。

 そして、ファイさんは私が芸能事務所に所属するかもという話も聞いていたらしく、後々の話として次世代デバイスの広告塔にも成ってもらえないかと話しを持って行けば、自然な形で芸能事務所への所属の件も両親に話せるのではないかとも提案された。

 確かに、顔と名前を前面に出して大暴れしてたら芸能事務所に入る事になったと言うよりは現実的だ。そして何より、その持って行き方ならお母さんに怒られる事もないだろう。


 今のハイエンド仕様の物より更に高性能なデバイスが使えて、更に芸能事務所に入る言い訳も立つ。……これは飛びついた方が良いのではないだろうか。なんて軽はずみな決断をしようとしたが、そこをグッと堪えて一度ロコさんに相談する事にした。

 そうして相談した結果、ロコさんとミシャさんとファイさんで打ち合わせを行い、三日後にプログレス・オンラインの営業の人が家に来ることになった。

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