187. カッコイイは最高のモチベーション

 柊奈津14歳。私は今……ベッドの上で身悶えしていた。


 ――ひゃーーーー!! もぅ、何が『何だか全然負ける気がしない!!』よ。がっつり負けてるし!!


 パル達との融合による新しい力が予想以上に大きく、その全能感に酔いに酔いしれた私は大口を叩きながらメナスラットを全て倒し終えた後も、強敵を求めて樹海の奥へとズンズンと進み続けた。

 そして辿り着いた……いや、足を踏み入れてしまったのが樹海のエリアボスの要る場所。そこには悠然と佇む1体の巨大な象が居た。

 その姿は見ているだけで自然と畏怖の念を抱いてしまう雰囲気があり、一目でただのモンスターでない事が分かった。けれど私は、『強そうだけど、今の私ならもしかしたら……』なんてアホな事を考えてしまい、碌な情報もなく突撃してしまったのだ。

 まぁ、結果は惨敗。元々ステータスも装備も防御性能より機動力重視だった為、その象が地面を踏み込んで発生した地響きで身動きが取れなくなり、その後思いっきり蹴り上げられて一発KOだった。


 そうして死に戻りした後に私を襲ったのは、超絶な恥ずかしさと自己嫌悪だった。ログインしているのも耐えられなくなり、速攻でログアウトした私は、枕に顔を埋めて奇怪な動きで身悶えしながら足をばたつかせ、このどうしようもない感情の嵐を何とか発散しようと奮闘していた。


「あぁ~、もう駄目だ。今後、絶対に調子に乗らないと誓おう。今回の事を心の黒歴史ノートに刻むんだ。……いや、やっぱり忘れよう!」


 そんなこんなで小一時間程ベッドの上で自己嫌悪に浸ったあと、やらないといけない事が沢山ある私はずっとこうしてはいられないともう一度ログインする事を決めた。正直、パル達と顔を合わせるのが気まずいのだけれど……。


 ……


 …………


 ………………


「ほんっとうに、ごめんね! 私が不甲斐ないばかりに死に戻りしちゃって!」


 気合いを入れてログインした後、私が最初に行ったのはパル達への謝罪だった。

 実は以前、少し気になってパルやモカさんに聞いてみたのだが、心合わせの指輪で融合中のペットは実はちゃんと意識があるらしく、視点や体の感覚が共有されているらしかった。つまり、融合中に私が死ぬと、融合中のペットも同じ感覚を味わうのだ。


 パルとモカさんは気にしてない様で、「次は頑張れ」的な感じで私を慰めてくれた。

 ただ、クロは何も言わず私の顔をじっと見つめて動かない。


「えっと、クロごめんね。……怒ってる?」

「……」


 クロは何も答えず、ぷいっと顔を背けて座り込んでしまった。けれど、その様子は何となくだが怒っている風でも不貞腐れている風でもなく、何だか戸惑っているような印象を受けた。

 ただ、何時までもこうしている訳にもいかないので、指輪の検証はここまでにしてレベリングを再開することにした。負けはしたが、3体融合の有用性ははっきりと分かったので、その力を更に伸ばすためにもレベリングは急務なのだ。

 そうして私達はイビルカースツリーダンジョンへと向かい、延々と木を叩く作業を開始したのだが……。何とあのクロが文句も言わず、木を叩き出したのだ。


 ――えっ! なんで!?


 その様子に驚きはしたが、下手に刺激すると折角頑張りだしたクロがまた行動を止めてしまうかもしれないと思い、一先ずクロの様子にツッコミをいれず私もスキル上げと攻撃技の反復練習を開始した。


「ふぅ、ちょっと休憩しよっか。おやつでも食べよう。 ……ん? クロ、どうしたの?」


 適度に会話を楽しみながらも1時間程スキル上げに精を出し、休憩がてらみんなでおやつでも食べようと提案した所、クロが私の手を指さしながらじっとこちらを見つめてきた。


 ――私の手がどうしたんだろう……。あ、もしかして指輪?


「もしかしてクロ……。もう一度融合して戦いたいの?」

「……キュ」


 その意外な申し出に驚いたが、もしかしたらあの戦いの中で何か感じる物があったのかもしれないと思い、クロの申し出を受ける事にした。

 ただ、今から樹海に行くのは時間が掛かってしまうため、トリックパンプキンダンジョンで戦う事にした。トリックパンプキンは追いかけると逃げる面倒くさいモンスターだが、3体融合と機動力向上の魔法や技能を使えば余裕で追いかけながら戦えるのだ。

 と言う事で早速イビルカースツリーダンジョンから出て、お隣のトリックパンプキンダンジョンへと入り、心合わせの指輪を発動する。


「アクセラレーション。レッグ アビリティ アップ。レッグ アビリティ アップ セカンド。レッグ アビリティ アップ サード。 ……よし、今回は油断せずに慎重に戦うぞ!」


 この戦いの記憶で樹海での戦いの記憶を上書きしてしまおうと気合を十分に滾らせ、ハリセンを叩き込む隙を伺うトリックパンプキンへと走り込んだ。

 今の私は相当に速い。どんなに敵が逃げようとしても、簡単に追いついてしまう。それに、ここ最近で身に着けた対人技術や観察眼も合わさる事によって、トリックパンプキンの対処は以前よりかなり楽になっていた。


「エッジ キック! エアウォーク! ……スパイラル エッジ!」


 パルの翼と空中ジャンプが出来るエアウォークは相性が凄い。翼による飛行は機動力ステータス依存で、地上を走るより少し遅い程度の速度しか通常は出ないのだが、エアウォークを使う事によって直線移動限定で走るよりも速く移動することが出来るようになる。

 しかも蹴りスキルがカンストしている私は5段空中ジャンプまででき、それを駆使すれば正に縦横無尽に高速で飛び回る事が出来る。


 私はエリア中を走り回り、飛び回り、どんどん湧き続けるトリックパンプキンを倒し続けた。

 HPが低く、一撃で倒れてしまう相手では少し物足りなくも感じてしまうが、大幅強化されたステータスに慣れるためには丁度良い訓練場となっていた。実際に、最初は高すぎるステータスに歯車が合わず通常攻撃しか碌に出来なかったのが、今では複数の技能を絡めながら戦えるまでになっていたのだ。

 

――これなら最初からここで指輪を試せば良かったなぁ……。

 

 ある程度3体融合状態での体の動かし方を把握した私は、これぐらいでいいかなと戦闘を切り上げてダンジョンを後にする。


「ふぅ、お疲れ様。今度は結構上手く戦えた感じじゃないかな?」

「パルゥ♪」

「くまぁ」


 パルとモカさんからも満足の声を聞けたので、今日の失態はこれで帳消しになっただろう……と、思いたい。

 そんな安堵した私の顔をじっと見ていたクロが、突然短剣を抜いてバシバシと地面を踏み叩き出した。


「えっ! 今度は模擬戦したいの!? ……今日はもう疲れちゃったから、また今度にしてもらえると嬉しいなぁ~、なんて」


 若干引き気味の私を無視してバシバシと地面を踏み叩き続けるクロ。説得は無駄なようだ。

 結局私は訓練場へと向かい、クロと模擬戦をする事になった。……そして私は見た。活き活きした顔で、格好つけながら戦うクロを。


「えっと……指輪を使ってでの私の戦い方に満足してもらえたのかな?」

「……キュ」


 どうやら融合後に感覚を共有された状態で体感した私の戦い方が、クロに良い刺激を与えたようだ。……でもね、クロ。


 ――私はそんな一々キメ顔作ったり、キメポーズしながら戦ってない!!

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