186. シャドウ
猛威の樹海。そこは高位のバフ料理素材が数多く自生していると同時に、大型の強力なモンスターが数多く出現するという上級者向けエリア。
そんな上級者エリアにやってきた私は、最大強化された心合わせの指輪をさっそく使う事にした。
「よし、じゃあみんな行くよ!」
サモンリングから具現化したみんなに一声掛け、心合わせの指輪を発動する。今までは1体としか融合出来なかったが、最大強化された指輪の効果により、3体とも光の球体へと姿を変えて私の中へと溶けて行った。
今までは融合したペットの3割分のステータスしか使用者に反映されなかったが、この新しい指輪ではそれが5割まで引きあがっている。クロのレベルはまだ60台だけれど、80台のパルとカンストペットであるモカさんだけでも相当ステータスが上がっているはずだ。……けれど、今の私にはステータス以上に気になっていることがあった。
私はインベントリから手鏡を取り出し、自分の姿を確認する。
髪色は濃いブラウンに染まり、背中からはドラゴンの黒い翼が生え……肌は褐色に染まっていた。
「クロと融合すると褐色肌になるんだ。と言うか、肌だけじゃなくて何故かパルの翼まで黒く染まっちゃってる。……何だか赤い瞳が余計に目立つようになっちゃったな」
今の装備とこの融合後の姿は凶悪なまでに相性が良く、もはや私はプレイヤーというより悪の怪人っぽい。
――もう、認めてしまおう。個性的な人達が集まっているエイリアスの中で……私が一番個性的だ。
とうとう年貢の納め時が来たなと諦め、私はもう既に普通の女子では無い事を認めた。こんな見た目で、しかもアンタッチャブルなんて二つ名まで付いている普通の女子が居るはずがないのだ……。
今まで目を逸らしてきた事実に若干傷心しながらも、当初の目的を果たそうと樹海の奥へと向かう。
「ヂューッ!!」
「初めて見るモンスターだ。……メナスラット。鑑定が通るって事はレベル65以下のここでは弱い部類のモンスターか」
最初に出て来たモンスターは軽自動車程の大きさはあるネズミだった。ただ、この樹海の平均レベルを考えると弱い部類のモンスターのようだ。
3体融合のステータスを試すには丁度いいと気合を入れ、私はメナスラットへと走り込む。
――体が軽い! それに反応速度もかなり上がってるみたい。これにモカさんの力とクロの力が合わされば……。
自身の機動力と反応速度が思った以上に増している事に少し戸惑ってしまったが、それ以上に3体のペットと融合する事によって生まれる力に気付き、軽い興奮状態となってしまった。
心合わせの指輪による融合はステータスの上昇効果だけでなく、元となったペットの能力を1つ手に入れる効果もある。
パルなら翼による飛行能力。モカさんならカウントアップという戦闘継続時間によって5分経過毎に筋力ステータスを最大10段階引き上げるパッシブバフ。そしてクロは……。
「シャドウ ラピッドラッシュ!」
シャドウ ウォーバニーは通常の白いウォーバニーより物理耐性と魔法耐性がかなり低い。その変わり、シャドウ ウォーバニーには通常のウォーバニーにはない技を2つ持っている。
1つはシャドウダイブ。これはMPを消費する事によって影の中に潜る事が出来る技で、インカ―ネイションという白魔法で自身をシャドウタイプにする事によって私も何度か使った事がある。
2つ目はシャドウ ラピッドラッシュ。コンボ数による機動力上昇効果を持つ通常のラピッドラッシュに、ある特殊効果が付加された強化版にあたる技能で、心合わせの指輪ではこの技能が使えるようになるのだ。そしてその特殊効果というのが……。
「ヂューッ!?」
「大幅に増したステータスから繰り出されるこの技はかなり効くでしょ!」
地面を走ったり、翼で飛んだりと縦横無尽に動き回り、メナスラットの体中を切り裂いて行く。攻撃を繰り出す度に私の機動力は増していくが、変化はそれだけではない。メナスラットの体を切り裂く度に、私の持つ短剣から黒い刃が伸びているのだ。
これこそがシャドウ ラピッドラッシュが持つ特殊能力。コンボ数によって影の刃が伸びていき、最大で大太刀程の大きさまでその刃を伸ばす。ただし、その刃はあくまで影なので物理的硬度を持たず、つばぜり合いのような事は出来ない。
けれど、切る事は出来るのだ。……硬い鎧をすり抜けて。
猛威の樹海に住むモンスターは、厚い皮膚に覆われた獣型モンスターが多く、通常種より物理耐性が高い。勿論、今私の目の前に居るメナスラットもそんな物理耐性を持つモンスターの一種だ。
けれど、そんなメナスラットは今、本来持っているはずの物理耐性を無視した怒涛の連続攻撃に晒されている。この影の刃は、どんなに硬い皮膚だろうと鎧だろうと、そんな物に何の意味もないとばかりに透過して切り裂く。
シャドウ ウォーバニーとは防御性能と引き換えに、物理耐性無視の攻撃手段を身に着けた超攻撃的な種なのだ。
「ヂューッ!!」
「っ!? ……そういう事か。猛威の樹海にいるモンスターにしてはやけに弱いなと思ってたけど、数で攻めて来るタイプだったんだね」
メナスラットを倒し終えた丁度その時、横から更に別のメナスラットが襲い掛かって来た。周りをよく見ると、既に私は複数のメナスラットに囲まれていた。
樹海の中をメナスラットの群れがばらけて動き、どれか1体が戦闘を開始すると、ばらけていた他のメナスラットが集まって来る習性なのだろう。
「でも、丁度いい! 強化された指輪の性能を確かめるには、最高のシチュエーションだよね!!」
3体分のペットによる大幅なステータス向上。縦横無尽な動きを実現する翼。戦闘経過時間によって筋力ステータスが増していくカウントアップ。攻撃する度に成長する機動力と防御性能無視の刃。それに加え、与えたダメージ量に応じて攻撃力を増す茨の短剣。
相乗効果による強大な力に、私はどんどんテンションが上がっていった。
――凄い! 何だか全然負ける気がしない!!
調子に乗った私が死に戻りするまで、残り40分と少し……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます