185. クロの特性
「クロ。今日こそはちゃんとレベリングしてもらうからね!」
「……」
ロコさんにクロの事を相談し、まずはクロのことを知ろうと決めた私は、今日もイビルカースツリーダンジョンでレベリングをすることにした。
クロはここでのレベリングが嫌いなようで、最初から全くやる気がない。
「……ねぇ、クロは強くなりたくないの? 戦う事は好きなんだよね?」
「……」
「私と模擬戦をするだけじゃ強くなれないよ? レベリングしてステータスを上げて行けば、技量を上げるより速く強くなれる。それと同時並行で模擬戦もやってあげるから、がんばろ?」
「……」
ペットの経験値は模擬戦をしたところで1経験値も入ってはこない。レベルを上げるためにはモンスターと戦うしかないのだ。
勿論、ペットも自己成長するAIが組み込まれている為、模擬戦などによってプレイヤーと同じように技量を上げる事は出来る。けれど、技量だけでは圧倒的なステータスの差は埋まらない。
当初、私もギンジさんからは技術的な事を必要最低限しか教えてもらえなかった。それは、ステータスが低い段階で技量を鍛えても効果が薄く、それならその時間をスキル上げに使った方が余程効率的に成長出来ると判断しての事で、実際にここまで成長出来た私から見るとその意味がよく理解出来た。
ステータス差は技量だけで容易に埋まるものではない。その最たる例がミシャさんだ。
ミシャさんは凄腕パフォーマーなだけあって、その技量はとても高い。そしてミシャさんの指導のもと、短期間で多くの技術を取り込んでいった私だからこそ分かる。恐らく、相手から技術を盗む能力は私よりも遥かに高い。
けれど、ミシャさんはパフォーマンスでの手札を増やすためだけにスキル構成を組み立てている所為で、そのステータスは決して高くない。ある程度格上のステータスを持つ相手までなら圧倒出来るだろうが、ステータス差が大きく開いている相手に対しては殆ど太刀打ちできないのだ。
模擬戦だけでは強くなれない。だからレベリングも頑張ろうと説得するが、クロは完全に不貞腐れてしまい、そっぽを向いて座り込んでしまった。
「……レベリングしないのなら模擬戦もしない。強くなる気が無いクロと模擬戦しても時間の無駄だから」
ちょっと厳しく言い過ぎたかなとも思ったけど、このままでは駄目だと心を鬼にして不貞腐れるクロを無視してパルとレベリングを開始した。クロは時々チラチラのこちらの様子を窺っているけれど、一向に参加する気配はない。
そんなクロを見ながら、私はクロの事が少しだけ理解出来た。クロは戦うのが好きだし負けず嫌いだけど、別に強くなりたいという欲求がある訳ではないのだ。
そしてその事を理解したと同時に、ハイテイマーズが行っていたあの調教の意図も理解出来た。あれは、クロの好戦的で負けず嫌いという特性を活用する為の物だったのだ。
クロに理不尽を強いる事でその好戦的で負けず嫌いな部分を引き出し、それをレベリング相手にぶつける。扱いづらいペットの育成に関してレベリングの事だけを考えたら、それは確かに効率的な物だっただろう。
けれど、そんな育て方ではテイマーとの連携など出来る訳もない。つまり、最終的にペットロストアイテムにする事を前提としたレベリングをしていたという事だ。
勿論、私はそんな事を望んではいない。私はただクロのレベルを上げたいのではなく、クロと一緒に強くなりたいのだ。
けれど、好戦的で負けず嫌いという特性を活用するという考え方自体は間違ってはいないとも思っている。その方向性で何か上手いやり方があれば……。
――駄目だ。いいアイディアが思いつかないよ……。ん? ルビィさんからメールだ。
クロの教育方針に悩んでいると、ふいにルビィさんからメールが届いた。中を確認すると、前回依頼した心合わせの指輪の強化とクロ用のアクセサリーが完成したという連絡だった。
ただ、今は他の依頼も立て込んでいる為、時間があるならお店の方まで取りに来て欲しいという事だったので、私は了承の返信をしてすぐにルビィさんのお店へと向かった。
「ナツ、いらっしゃい。ごめんね。余裕があれギルドハウスまで持って行ったんだけど、ちょっと今手が離せなくて」
「いえいえ、ルビィさんは自分のお店を持ってるのに、何時もこちらを優先してくれてますから! ルビィさんには感謝しかないです!」
「そう? そう言ってもらえると嬉しいわ。じゃあ、ナツのそんな想いには仕事の出来栄えで返そうかしらね」
上機嫌にそう言ったルビィさんは、今回の依頼品である心合わせの指輪とクロ用の腕輪を手渡してきた。勿論、この腕輪はバグモンスター製だ。
「機動力の高い近接タイプのウォーバニーなら、しゃらしゃらと動くネックレスタイプより腕輪タイプの方がいいかなと思ってこっちにしてみたわ。心合わせの指輪は今回の強化で3体同時に融合出来るから、是非試してみて使用感とかあとで教えてね」
「はい、ありがとうございます! 今日、このあと早速試してみます!」
新しい装備や強化された装備を手に入れるとやっぱりテンションが上がる物で、早速この新装備を使いたいとうずうずしてしまう。
そんな私を微笑ましそうに見たルビィさんはクスリと笑って、浮足立ってそうな私に注意を促す。
「強化された装備が手に入って嬉しいのは分かるけど、高レベルペットを3体同時で融合するとステータスが大きく変化するんだから、最初は慣らす感じで行きなさいね?」
「あ、はい……。気を付けます」
ちょっと浮かれ過ぎてたなと自覚して少し気恥ずかしくなった私は、逃げるようにそそくさと店を後にした。
慣らす感じで戦う方が良いとは思うけれど、それと同時に大きく向上したステータスをしっかりと発揮してみたいという欲求もある。
何処で試そうかと色々考えた結果、今の私であれば十分戦え、尚且つ敵のHPも高いのでステータスを発揮しながら戦える場所として、上級バフ料理素材を採取できる『猛威の樹海』へと向かう事にした。
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