184. 見る事、知る事、伝える事
「……という感じでクロのレベリングが上手くいかなくて。ロコさんは色んな種類のペットを飼われてますけど、ペットとの意思疎通が上手く行かない事とかってありましたか?」
クロのレベリングが思うようにいかず、その事をロコさんに相談しようと決めた私はすぐにメールを送った。
幸いメールはすぐに返ってきて、今は自身のプライベートエリアに居るとの事だったので、私は相談の為にロコさんのプライベートエリアへとお邪魔させて貰う事にした。ちなみに私のペット達は今、広いお庭でロコさんのペット達と遊んでもらっている。
「勿論あるのじゃ。プログレス・オンラインは手持ちのペットが増える程、その飼育難易度が上がっていく仕様になっておるし、種類によって育てづらいペットも居るからの」
ロコさんからその話を聞けて、私は少し安心した。
実を言うと、私はリアルでもゲームでもペットの躾けをしたことがない。リアルのレキは私と同い年で、私が物心つく頃には両親によりしっかり躾けられていたし、ゲームのレキやパルは勿論のこと、リンスさんに大切に育てられていたモカさんもとても素直で私の言う事を最初からよく聞いてくれた。意思疎通が上手く行かないのはクロが始めてなのだ。
今まではペットに恵まれていただけで、テイマーとして私はダメダメなのではないかと思い始めていたので、ロコさんもペットの事で苦労しているという情報は、今の私を慰めるには十分だった。
「シャドウ ウォーバニーは我が強く好戦的な性格故、なかなか育てるのが難しい種類のペットじゃ。しかも前のテイマーからはあまり良い育てられ方をしておらんかった様じゃから、飼育難易度は更に高いじゃろう」
「ロコさんなら、こんな状況の時どういう風にしますか?」
「そうじゃのう……。基本的に躾けの方法は大きく分けて2つじゃ。1つは叱り飛ばしてルールを教え込む事。もう1つは楽しませながら行動を誘導する事。これらのやり方は、どちらが悪くどちらが良いという事もない」
育成難易度が高くなってくると、ペットの種類によっては主人の事を下に見て言う事を聞かなくなる事もあるらしく、そう言う時はしっかりと力を示すが重要らしい。
逆に、ルールを守る事で何かしらの報酬を与える事によって、主人の言う事を聞く癖をAIに繰り返し刷り込んでいくやり方もあるので、ペットの性格や現状に応じて臨機応変にやる必要があるとの事だ。
「最近では叱る事が悪い事だと言う輩も増えてきておっての、リアルでは碌に躾けがされておらんペットが他者に迷惑を掛ける事件も多くなってきておる。じゃがナツよ、覚えておくのじゃ。しっかりと躾ける事は飼い主の義務であり、躾けは飼い主の為だけではなくペットの為でもある」
「叱り飛ばす、ですか……。正直、リアルでもゲームでもそういう接し方はしたことが無いので自信が無いです……」
「ナツは優しいからのぅ。じゃが、優しいだけでは躾けは出来ん。……テイマーの神髄とは、ペットを見る事、知る事、伝える事じゃ。自分のやりたい事、やりたくない事だけではなく、ペットの現状を知り、今その者に一番必要な事をせよ」
――ペットを見る事、知る事、伝える事……。私はクロの事をまだよく分かってなくて、やるべき事からも逃げていたのかもしれない。
その後は相談に乗ってくれたロコさんにお礼を言い、ログアウトしてこれからの事について考えてみる事にした。
そして夕食時、ふと気になりレキがまだ子犬だった時の事を聞いてみる事にした。
「ねぇ、お父さん。レキの躾けってどんな感じにやってたの? あんまり大変じゃなかった?」
「ん? どうした急に?」
「いや、今ゲーム内で新しいペットを飼いだしたんだけど、その子が結構気難しくて……。私、ペットの躾けってちゃんとやった事なかったから、レキはどうだったのかなって」
「あのゲームのペットはそんなにリアルなのか。躾け何てしなくても飼い主の言う事を聞くものだと思ってたよ」
お父さんはプログレス・オンラインのペット事情に驚き、その後レキの事を思い出しながら語った。
「奈津は覚えてないかもしれないが、レキは本当にヤンチャだったぞ? この家に来たばかりの頃は本当に手が付けられなくて、新聞紙はビリビリに破くし、靴は盗むし、トイレの場所はなかなか覚えないしでかなり大変だったなぁ……」
「レキは昔から奈津の事が大好きで、まだ赤ちゃんだった奈津を引っ張って、よくあちこち連れて行こうとしてたわね」
「あぁ、あったな。何度もレキに転ばされて泣かされてたっけ」
お父さんとお母さんがレキと私の思い出話で盛り上がりだした。
私が覚えている範囲では、既にレキは初老の成犬であったので、昔のレキがそんなヤンチャだったなんて思いもしなかった。時々私の物を咥えて盗んでいく事はあったけど、思い出の中のレキは基本的に何時も優しくて良い子だったのだ。
「躾けとかはお父さんがしてたの? それともお母さん?」
「お母さんよ。お父さんはレキを甘やかすばっかりで、強く叱る事なんて全然出来ないのよね。だから私がしっかりと叱って、何が悪い事なのかを教え込んだんだから」
「えぇ、そうだったかな? 僕もちゃんと躾けをしてたと思うんだけど……」
「何言ってるのよ。悪さをしたレキを私が叱ってたら、お父さん『そんなに強く叱らなくても良いんじゃないか?』って止めに入ってたじゃない。ほんとに私の気もしらないで!」
楽しい思い出話から何やら雰囲気が変わって来た……。
私は楽しいレキの思い出話に再度シフトさせつつ、お母さんの躾けエピソードを思い出す。
――やっぱり躾けって大変なんだな~。優しいだけじゃ駄目、か……。よし、明日はまずクロの事をちゃんと見て知る事から始めよう!
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