183. 前途多難なレベリング

 自分の理想とする戦闘スタイルを組み立てた私は、さっそく街に技能書を買いに行き、盾と体術と隠密の技能書を一式を買い揃えた。

 体術と隠密のスキル育成はとにかく技能をバンバン使う事で、盾スキルは敵の攻撃を盾で防ぐ事で経験値が加算されていく。その為、大量の攻撃を受けられる場所で、体術と隠密の技能を使いながら盾をスキルを鍛えるのが効率的ということ。つまり……。


「ここだね!」


 私は街で買った木製の丸盾を左手に装備し、迫りくるハイスライム目掛けて丸盾を振るった。

 そう、今私が来ているのはお馴染みのスライム洞窟のハイスライム無限湧きエリアだ。一応、ギルドハウスにあるトリックパンプキンダンジョンも考えたのだけれど、トリックパンプキンは私の視界に入っている間は攻撃をせずに一定の距離を開け、視界外に居る時に攻撃を仕掛けてくるので盾での対応が少し面倒なのだ。

 ちなみにこの丸盾は盾スキル0でも装備出来る初心者用で、ルビィさんにも盾の事で相談した所、私の盾スキルが70に成った時と100に成ったとき用の盾を用意してくれる事になった。……その際、「ナツにピッタリの盾を用意しておくわね♪」と上機嫌で言っていたのが少し怖かった。


「スタミナ レジリエンスアップ! 瞳術壱ノ型<暗闇>!」


 スタミナ レジリエンスアップは体術スキル1の技能でスタミナ自然回復量上昇効果、瞳術壱ノ型<暗闇>は隠密スキル1の技能で自身の目に暗視効果を付与する。

 2つのスキル技能を使った後は、私に向かって突撃してくるハイスライムをひたすら盾で払っていくだけの作業をやっていく。現在のスキルレベルは3つとも0なので、スキルレベルがスイスイ上がって楽しい時間だ。けれど、現在の総スキル数を考えると、スキルレベルが60を超えたあたりからがどうなるのか少々怖い。

 そんな事を考えながらも、今日の所はどんどん上がっていくスキルレベルを眺めて楽しむ事にした。


 ……


 …………


 ………………


「ふぅ……。今日はここまでにしておこうかな。さて、今日の成果は……ふふっ」


 今日の成果、盾28、体術21、隠密16。隠密スキルの技能はクールタイムが少し長めなので体術と比べると上がりが遅いけど、それでも1日でこれだけ上がるのは見てるだけで楽しい。

 けれど、今日の訓練はこれだけではない。本来の職業であるテイマーとして、ペットのレベル上げもしなければならないのだ。

 パルのレベルは87で、クロのレベルは64。出来ればハイエンスドラゴンとの戦いまでに2人のレベルをカンストさせてしまいたい。自身のスキル上げや、その後のパリィやキャンセリングタイムの練習を考えると結構厳しい訓練ノルマになってしまいそうだ。


 私は1分1秒も無駄には出来ないとすぐにギルドハウスへと帰り、ペット全員を具現化してイビルカースツリーダンジョンへと向かった。

 モカさんのレベルは既にカンストしているため、一緒にイビルカースツリーを叩く必要は無いのだが、正直このダンジョンはただ木を叩き続けるだけの退屈な作業なので、みんなでおしゃべりしながらやるのが丁度良いのだ。

 みんなが木を叩いてる間、私は体術と隠密の技能を使いながら技能を使った連撃の練習を行う。今日は1時間程レベリングをしようと行動を開始した矢先……ものの10分で計画が破綻した。


「……」

「……もしかして、もう飽きちゃったの?」

「……キュ」

「そっかぁ……」


 最初は素直に木を叩いていたクロが10分程度で作業に飽きて、今は両手に短剣を握り締めて地面をバシバシと踏み叩き、私と戦いたいという意志表示をこれでもかと激しく行っている。

 戦うこと自体は問題無いのだが、私とクロが戦ってもクロのレベルは上がらないのだ。パルならまだしも、まだレベル64のクロはここでレベル上げをする方が効率が良い。なので、出来ればもう少し我慢して欲しいのだけれど……クロの様子を見る限り、それは無理っぽい。


 ――どうしよう……。あっ、そうだ!


「ねぇ、クロ。じゃあ、勝負で私が勝ったらもう少しここでの訓練を継続するってのはどう?」

「……キュ」


 ――よし! 1日1勝負の時間を掛けるだけで、素直にここで訓練してくれるのなら大した労力じゃない。


 クロが勝負の条件を了承してくれた事にほっと胸を撫でおろし、一旦レベリングを切り上げて訓練場へと向かった。

 そして前回と同じ設定でクロと試合をして、パリィの練習をしつつクロに勝利。じゃあ約束を果たして貰おうかとダンジョンでレベリングを再開したのだが……。


「えぇ~! もう飽きちゃったの!? でも、私が勝負に勝ったらレベリング頑張るって約束したよね?」

「……」


 再度始まったレベリングは、また10分程でクロが飽きて中断してしまう事になった。今度は前回と違い、私と戦いたいと意思表示すらせず、不貞腐れた感じにそっぽを向いて座り込んでしまった。

 まだ私とクロの信頼関係が出来上がっていないのが問題なのか、もしくはクロの性格の問題なのか。どちらにしても何か解決策を見つけないとレベリングどころではない。

 イビルカースツリー以外のモンスターで、クロのレベルに合わせた場所にいけばパルのレベル上げが出来ない。パルのレベルに合わせた場所に行けば、クロのレベルでは危険過ぎる。それぞれに合わせた場所でレベリングするのは時間効率が悪すぎるし、どうしたものかと悩んだ結果。


 ――ロコさんに相談しよう……。この数週間でちょっとは強くなれたって浮かれてたけど、テイマーとしては全然駄目だな~、私。


 ペットとの意思疎通が上手く行かないという初めての経験をした私は、その事に落ち込みつつも現状を打開する為に、ロコさんに相談する事を決めた。

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