188. 罠
「なんじゃ、お主。単身でメナスガーヤカに挑んだのかえ?」
クロがやたらとキメ顔やキメポーズをとるようになった翌日、私はクロの事で相談に乗ってくれたロコさんにお礼を言うため、ロコさんの家にお邪魔していた。
「あぁ、やっぱりあれって凄いモンスターだったんですね」
「凄いも何も……。ナツよ、メナスガーヤカは猛威の樹海のエリアボスで、その強さはハイエンスドラゴンと同等じゃぞ?」
「えっ!? そんなに強かったんですか!?」
見た瞬間、その立ち姿に神々しさすら感じたモンスターだったが、まさかハイエンスドラゴンと同じぐらい強いボスだとは思いもしなかった。
ロコさんの言うには、特殊なダンジョンボスやレイドボスを除いて、通常マップ上に居るエリアボスの中でもハイエンスドラゴンやメナスガーヤカは最高位に位置するボスモンスターで、倒すためにはそのボスを倒すために準備を整えた上級プレイヤーが最低5人は必要なレベルらしい。
そもそも仕様的にどちらも1人で倒せるようなモンスターではなく、バランスの取れたパーティーでそれぞれの役割を熟しつつ倒していくボスモンスターとの事だった。……ロコさんとギンジさんは単独撃破しているらしいけど。
「それにしても、ナツよ。お主はもう立派な上級プレイヤーなんじゃから、情報はしっかり自分で収集しておく癖を付けておかねばならんぞ? お主はまだ学生の身じゃから、知識が向こうからやってくる感覚が染みついているのかもしれんが、ネットゲームの世界では自分で調べて自分で考える事は必須スキルじゃからな」
「うっ! ……はい、気を付けます」
「うむ、しっかり励むのじゃ」
以前ギンジさんにも『子供である事は、子供でいていい理由にはならない』と言われた事がある。これもまさにそう言う事なのだろう。
これまではその時その時に必要な技術や知識を沢山の人から教えて貰ってきたけど、これからは自分で調べて自分で考えて自分で成長していかないといけないんだ。
そんな決意をした丁度その時、ファイさんからのフレンドコールが鳴った。
「はい、ナツです」
『すまない、ナツ君。今時間はあるだろうか?』
「はい、大丈夫です。今はとくに何もしてないですね」
『それは良かった。実は少し大型のバグモンスターが出現したのだが、ナツ君にその対処を頼みたい』
ファイさんからの電話内容はバグモンスター討伐についてだった。ここ最近はハイテイマーズ問題に掛かり切りで、それが終わった後も心合わせの指輪をルビィさんに預けていたため、バグモンスターとの戦いはかなり久々になる。
そして、バグモンスターとの戦いと聞いて、私の胸がざわりとしたのを感じた。
「大丈夫ですけど、私以外に参加する人はいるんでしょうか?」
『いや、今回はナツ君1人になる。他の者達は全員データ保護アイテムのインターバル中で、バグモンスター戦に参加が出来ないんだ。だが、今回のバグモンスターはそこまで強力な相手ではないので、ナツ君1人でも問題はないだろう』
その後、今回のバグモンスターの素体となっているモンスターの情報を聞いた。
それはクリスタルモールという名前のモグラ型のモンスターで、物理と魔法共に高い防御性能を持ち、主な攻撃手段は土系統の魔法のみで物理攻撃は仕掛けてこないらしい。
一応は大型に分類されるモンスターだが、戦い方が少し特殊で面倒なだけで、そこまで強いモンスターではないとの事だ。
『前回、ハイテイマーズとの戦いの際、君はギルドマスターのキャラデータに異物感を感じたと言っていたね? もし可能なら、今回もその異物感を感じるか確認。そして更に可能ならバグ自体の消去も試みてほしい』
「あの、その時も意識的にやった訳じゃないので、出来るかどうか分かりませんよ?」
『勿論、それで構わない。元々、まだ解決の糸口がまだ見つかっていない状況なんだ。試してみてもらえるだけでも有り難い』
出来なくても問題ないという言葉を貰い肩の力が少し抜けた私は、ファイさんからの依頼を受けてバグモンスターの出現したエリアへと向かった。
……
…………
………………
「ファイさん、言われたポイントに着いたんですが、バグモンスターが見当たりません」
『クリスタルモールは自身の真上にプレイヤーが来たときに姿を現す仕様となっている。今、ナツ君が向いている方角にあと数十歩ほど歩けば現れるはずだ』
私が向かった先は『崩落の花園』という沢山の草花が咲き誇るエリアだった。一見綺麗なエリアに見えるが、この地面の下にはクリスタルモールが掘り進めて出来た空間が広がっており、一度落ちてしまえば出る事は困難で、クリスタルモールの討伐難易度が跳ね上がるらしい。
なのでクリスタルモールとの戦い方としては、地下に落ちない様に安全対策を取りながら地上に顔を出したクリスタルモールのHPを地道に削っていくやり方になる。
もうすぐでバグモンスターとの戦いが始まると告知を受けた私は、心合わせの指輪でパル達と融合し、自身にデータ保護アイテムを使用した。そして事前にバフ料理も含めた幾つもの強化バフを掛け、準備を整える。
「……よし」
万全の準備を終えた私は、バグモンスターの出現する場所へと足を進める。……そして。
「ッ!? ちょっとこれは聞いてないんですけど!?」
聞いていた話では、クリスタルモールの真上に来た時に顔を出して襲って来るという事だったが、今私に起きている現象は全く違っていた。
今まで踏みしめていた地面が性質を変えて沼になり、私の足を絡めとる。そして周囲の土が盛り上がってドーム状に私を包み込んで行った。
私はすぐに飛んで逃げ出そうとしたが、絡めとられた足が予想以上にガッシリと掴まれていて飛び上がれない。そうして手間取っている間に私は土の壁に全方位を包み込まれ、その後落下していく浮遊感を味わった。
「こんっのおお! インパクト ストライク!!」
気合いで沼から足を引き抜き、間髪入れず私を包み込んでいる土壁に蹴りの強打を叩き込む。
ドゴンッという大きな音と共に土壁は崩れ去り、私はすぐさま外へと脱出した。
「……噓でしょ?」
そこで見た光景は、ほぼ塞がりつつある天井と……その天井の穴から降り注ぐ光に照らされる、数十体は居るクリスタルモールの群れだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます