178. お互いを知るはじめの一歩

「やぁナツちゃん、先日ぶりだね! あの時は何もさせて貰えず一方的にやられちゃって参っちゃったよ♪」

「は、はぁ……」


 シャドウ ウォーバニーを受け取るため、ロコさんと一緒にハイテイマーズのギルドハウスへと向かった私達だが、入ってすぐに出迎えて来たのは前回同様サブマスのガザンさんだった。

 

「どうしたの? そんな困惑した顔しちゃって」

「えっ! あ、いえ、その……ガザンさんがあまりに今まで通りだったので」

「あぁ、そういうこと。別に俺はナツちゃんの事恨んで無いよ? ここの初期メンバーはギースが面白そうな事するってんで、参加してただけだし。ギースみたいにアカウント停止処分になる訳じゃないしね」


 そんな事をあっけらかんと言うガザンさんに私は更に困惑を深める。先日の戦いでは自分達を倒し、そしてギルドまで閉鎖されるというのに、嘘誤魔化しなく本当に気にしていないと感じ取ったからだ。


「ナツよ、深く考えるでない。世の中には色んな考えの者がおり、ハイテイマーズには此奴のような考えの者が集まっておった。ただ、それだけじゃ」

「そうそう。俺としては十分楽しめたから、ハイテイマーズが潰れる事に関しては何とも思ってないよ♪ 多分、他の初期メンバーもそうじゃないかな?」

「それは、初期メンバー以外の人はそうじゃないって事ですか?」

「ま、そこも色んな奴がいるって話さ。でも心配しなくていいよ? あいつらに出来る事は文句や愚痴ぐらいで、誰かに先導されなきゃ何も出来ないヘタレばかりだから」


 そう後、ガザンさんは「気にしな~い、気にしな~い」と言いながら私達を訓練場へと案内してくれた。

 訓練場へと入ると、そこには1人のテイマーとシャドウ ウォーバニーが佇んでいた。


「こいつが戦利品のシャドウ ウォーバニーね。レベルは64。種族的に負けん気が強くて扱い辛いペットだけど、その好戦的な性格は、他のペットと比べて成長速度が少しだけ速いってメリットもある。名前は付けてないから、付けるなら好きに付けていいよ」


 戦利品という言い方には少し引っかかる物があるが、気にしない事にした。同じテイマーでもペットに対するスタンスは様々で、そこで一々反応していては切が無いのだ。

 そのシャドウ ウォーバニーは二足歩行で立つ黒いウサギで、身長は私の胸ぐらいの高さがある。そして腰の両端には2本の短剣を携えていた。


「私はナツ。今日から貴方のテイマーになるの。よろしくね」


 そういって手を差し出すと……そのシャドウ ウォーバニーは腰の短剣を抜いて切りかかって来た。

 私は即座に手を引っ込め、少し距離を取る。


「ああ、ナツちゃん気を付けてね。ペット譲渡は、ペットの性格と元のテイマーとの信頼度によってその難易度が変わるから。そういう意味で言うと、このシャドウ ウォーバニーは最悪の部類になるからね」

「……分かりました。これから少しずつ距離を縮めていきます」

「一番簡単なのは上下関係をしっかり叩き込む事だよ。とくにこいつは上下関係に敏感で、自分より下だと判断した相手の言う事は聞かなくなる。AIのカテゴリによっては優しく接した方が効率的なペットもいるけど、それだけじゃないからね」


 効率とか上下関係とかの考え方はあまり好きにはなれない。けれど、と少し考え、私が最初にやるべき行動を決めた。


「そうですね……。うん、戦おう。私に君の事を教えて」


 ギンジさんやミシャさんと初めて会った頃を思い出す。戦いで全てが分かる訳ではないけれど、戦いの中で分かる事もあるのだ。

 まずは今のテイマーからシャドウ ウォーバニーの譲渡を済ませた後、私はシャドウ ウォーバニーと戦う事にした。もちろん味方にもダメージが通るフレンドリーファイア設定はオフのままなので、お互い本当に傷つく事はない。


 私とシャドウ ウォーバニーがお互い両手に短剣を握り向かい合う。ちなみに今私が握っているのは茨の短剣ではなく、最初にギンジさんから貰った初心者用の短剣だ。

 最初に動き出したのはシャドウ ウォーバニーだった。レベル64だと言うのにその機動力は高く、一気に間合いを詰めて切りかかって来る。

 だが、私の素の機動力はそれより高い。それに、速さの鬼とも言うべきシュン君と模擬戦を繰り返してきた私にとっては、少し物足りない程度の速さでしかなかった。

 私は危なげなくその攻撃を避け、いなしていく。そして攻撃後の隙を突いて、握った短剣の柄をシャドウ ウォーバニーの胴体に強く叩き込んだ。


「キュッ!!」


 シャドウ ウォーバニーはノックバックにより少し後方に飛んでいったが、すぐに意識を切り替え、再度私へと切りかかって来た。

 確かに負けん気が強い。最初はこちらを試す様な目をしていたが、今は完全に私を倒すと全身で訴えている。

 その戦い方には戦略やフェイントといった物はなく、ひたすらに押せ押せと言った感じで、シャドウ ウォーバニーの素直な性格を思わせる。私はそれに対して真っ向から受け止め、シャドウ ウォーバニーを観察していった。


 ――あぁ……。これは、あれだ。以前、フロッグスターダンジョンに無策で何度も突っ込んでいった時や、トリックパンプキンダンジョンで頭にきて、スキル上げを忘れて暴れていた時と似た感じ……。


 私はシャドウ ウォーバニーのその在り様から昔の黒歴史を思い出し、少し苦い気持ちになってしまった。人の振り見て我が振り直せと言うが、実際に相手から自分の黒歴史を見てしまうと結構落ち込んでしまう。


 その後も私達は戦い続け、シャドウ ウォーバニーは私の攻撃を受けて何度も吹き飛んでは、すぐに立ち上がり切り込んで来た。

 それが暫く続いた後、それは唐突に終わりを迎える。シャドウ ウォーバニーのスタミナが切れたのだ。


「今日はここまでだね。また今度戦おう。それで私の事も知ってもらえたら嬉しいな」


 シャドウ ウォーバニーは何も答えず、私の顔を見つめていた。私はそんなシャドウ ウォーバニーの頭を撫でてサモンリングへと戻す。

 戦いから始まった関係だけど、何だかこの子とは仲良くやっていけそうな気がした。

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