177. 戦後処理
「掲示板を見てみた感想がどうじゃったかえ?」
「え~っと……何と言うか、私の事について話しているとは思えない熱狂ぶりでした」
掲示板の中の様子は、推しアイドルについて語り合っている熱狂的ファンの集いのような状況だった。そしてその対象が私であるということに未だ実感が湧かない。
「まぁ、掲示板というのはノリと勢いの世界じゃからの。書き込みをしておる者達の中にはノリで合わせておるだけで、本心でない者もおるじゃろう……まぁ、今の過熱ぶりを見るにその殆どが熱狂的ファンであることは想像に難くないがの」
「はい……。ロコさんやミシャさんが芸能事務所に入った方がいいって言ってた意味がなんとなく分かりました」
「うむ。まぁ、昨日も言ったが今すぐにでなくとも良い。今はミシャの奴が抑え込んでおるし、ある程度は制御下にある。じゃが、この熱狂がどこまで大きくなるか分からん。仕事をしないにしても事務所に所属するのは安全の為にも有効な手段じゃ」
今一その世界の常識が無いため判断できないのだけれど、芸能関係の仕事をしないのに芸能事務所に入るのって普通なのだろうか?
「あの、ロコさん。私はただの一般人ですし、芸能関係の仕事をしないのに事務所に所属するって普通の事なんでしょうか?」
「う~む、正直に言えばわっちもそっち方面の事情に詳しい訳ではない。……まぁ、一般的でないにしても問題はないじゃろう」
「どうしてですか?」
「どうもミシャの所属している芸能事務所の者は、ミシャに頭が上がらんそうじゃ。じゃから、ミシャの一存で人を入れたり、事務所のバックアップでその者を守るように動いたりも出来るようじゃの」
――ミシャさんってほんと何者なんだろう。存在が異次元過ぎてちょっと怖くなってくるというか。
「それとの、あまりこの世界にリアルの話を持ってくるのはどうかと思うのじゃが……。実は、わっちはリアルで弁護士をしておっての。ナツの件に関しては全面協力する形でサポートする事になっておる」
「ロコさんって弁護士さんだったんですか!?」
ドラマとかでしか弁護士という職業を知らないけれど、私の貧困な知識と感性では弁護士という職業は凄く頭が良いエリート的な職業だった。と、驚いてみたが普段のロコさんを知っている私としては結構しっくりくる職業だなと納得する。……逆にリアルではOLをしていますと言われた方がビックリかもしれない。
「という訳でな、お主は何も心配する事はない。ミシャの奴もナツがどんな道を選んでも良いように複数プランを用意しておくと言っておったしの」
「分かりました。……ただ、正直まだ踏ん切りが付かないので、もう少しだけ考えさせてください」
「うむうむ。今後の人生に関わる事じゃからの。ではこの話はいったん保留として、次の話じゃ」
そう言うと、ロコさんはインベントリを操作して二つの指輪を取り出した。
「えっ! これ……」
「心合わせの指輪じゃ。この2つを使えば、お主が持っておる心合わせの指輪を最大強化することが出来る」
「でも、どうして……。今回の戦いに掛けられていた物に指輪は入っていませんでしたよね?」
先日行われた私とハイテイマーズとの戦い。それに掛けられた物とは『ハイテイマーズの権利。今回の切っ掛けとなったペット』『前ハイテイマーズからロコさんが引き取った物全て。ロコさんの持つ全てのペット』だった。
「これはギースからじゃ。……何も言葉は無かったが、奴なりのけじめのような物かもしれぬの」
「ギースさんから……」
私はギースの事を何も知らない。今回の戦いを通して、ギースがロコさんを恐れており、それを隠すために悪感情で上塗りをしていたという事は分かった。けれど、何故ギースがロコさんを恐れていたのか、そして何故そこまでの執着を見せたのかは知らないのだ。
私はもっとギースの事を知るべきだったのかもしれない。ロコさんから手渡された2つの指輪を見ながらそんな事を思った。
「お主の指輪も含めて、あとでルビィに渡しておくと良い。恐らく二日程度で強化も終わるじゃろう」
「はい、後でルビィさんに連絡してみます」
「うむ。それで次じゃが……。ナツよ、シャドウ ウォーバニーをどうしたい?」
シャドウ ウォーバニー。今回の火種となった黒いウサギ型のペット。そのペットをどうするかと聞かれ、一瞬だけ逡巡してしまったが、どうするかは既に決めていた。
「引き取ります。これは私が果たすべき責任ですから」
あの時は本当に何も考えずカッとなって、シャドウ ウォーバニーを取り押さえ鞭打つハイテイマーズに殴り掛かってしまった。
けれど何も考えていなかったからと、行動の責任を取らなくていいという言い訳にはならない。もし私がそんな事をしてしまえば、ギンジさんからのキツい説教が待っているだろう。
「分かったのじゃ。それでどうするかの? もしナツの方が良ければ、今からハイテイマーズまで引き取りに行くが」
「はい、大丈夫です。私としても、あの子が今どうしているのか気になるので」
そうして私とロコさんは、シャドウ ウォーバニーを受け取りにハイテイマーズのギルドハウスへと向かった。
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