174. 5章 エピローグ

「私がバグモンスター事件を終わらせる鍵……ですか?」


 『終わらせる』その言葉はとても重い物だった。

 私達はこれまで、沢山のバグモンスターを倒してきた。けれどそれは、バグモンスター発生の根本的解決になっていなかったのだ。

 今まで対処療法でしか対応出来ていなかったそれが、根本的な解決に向かうかもしれない。けれど、その鍵が私だと言われた事に困惑してしまう。


「先ほどの戦いを調べさせてもらったのだが、君は最後の一撃として、バグ化したプレイヤーを殴っただろう?」

「は、はい」

「その際、キャラデータに広がっていたバグが一瞬のうちに消滅した。あれは、あのプレイヤーのHPが0になったからではない。そもそも、これまでのバグモンスターとの戦いで得たデータと照らし合わせてみても、バグ化したプレイヤーのHPが0になった場合、恐らく融合しているペットごとキャラデータが破損し、ロストしていた可能性が極めて高かっただろう」


 ペットごとロストしていた可能性が高かった。そう言われ、私の体はピクンと小さく跳ねた。


「しかし、そうはならなかった。それは、あのプレイヤーがHP全損によってプライベートルームに戻るより前に、キャラデータに広がったバグが消滅していたからだろう」

「バグの消滅……。それを私がやったと言う事ですか?」

「今はまだ情報が不足しているため断言は出来ない。……だが、もしそうだとしたら、先ほどの戦闘ログやこれからのバグモンスターとの戦闘データを調査していけば、この世界からバグを消滅・予防する事が出来るかもしれない」


 ――私が……この世界からバグを消滅させる鍵になるかもしれない?


「最後の1撃、君は相手プレイヤーから異物の様な物を感じたと言っていたね? 今後もし、バグモンスターとの戦いで同じ様な感覚を覚えたら教えて欲しい。それがこの一連の問題を解決する糸口になるかもしれない」

「はい、えっと……突然過ぎてまだちょっと色々飲み込みきれてないんですか、出来るだけ情報は提供していきたいと思います」

「あぁ、よろしく頼む。こちらも何か分かった事があればすぐに情報を共有しよう」


 そんな困惑だらけの報告会を終えた後、私はよく分からないフワフワとした気分のまま、プライベートルームへと帰った。


 ……


 …………


 ………………


 『レキを生き返らせられる可能性』と『バグを消滅させられる可能性』、それらはどれもバグモンスターと戦い続けるという過程に結びつく。

 私は今でもバグモンスターが怖い。これまでは、バグモンスターと戦う為にバグモンスターを憎んで来た。けれど今日、私と同じ様に怒りや憎悪で自分の恐怖を塗りつぶして戦うギースを見た。その姿はあまりにも……。


 ――私の一番の望みって何だろう……。


 私の望み。それは勿論、レキを生き返らせる事だが、ギースのようになって戦う事は私の望みではない。私は色んな未来を想像しては消してを繰り返し、1つの結論を出す。

 そして、私はパルとモカさんを呼び出し、座りながら目線の高さを2人に近づけた。


「パル、モカさん、私、2人にお願いがあるの」


 パルとモカさんに、私が今から言う事の覚悟が伝わったのか、2人は真剣な顔をして私の言葉を待った。

 そんな2人を見て、私は更に覚悟を強めて話し出す。


「私、これからもバグモンスターと戦い続けようと思うの。でもそれは、パルやモカさんにこれからも危険な戦いに付き合ってもらう事になる。……もしかしたらレキみたいに死んじゃう可能性だってある」


 その可能性を口に出すだけで私の胸は締め付けられる。


「でも、私の力でこの世界からバグを取り除けるのなら。レキを生き返らせられる可能性があるのなら。これからも皆で楽しくこの世界を冒険出来るのなら……。私はバグモンスターと戦い続けようと思う。……だから、お願い! 絶対に2人は私が守るから、私と一緒に戦ってほしい!!」


 私のお願いを聞き終えた2人はちらりとお互いの顔を見て、パルは私の首に巻き付き、モカさんは私の膝に乗って来た。


「パルゥ♪」

「くまぁ!」


 そして「任せろ!」とでも言うように声を上げる。それがとても嬉しく、それと同時に自分の望みに掛ける命の重さが増してくる。

 戦う以上、ロストの危険性は付きまとう。けれど、私はパルとモカさんを絶対に死なせないと誓った。その2つは矛盾するけれど、それでも私は『絶対に』と誓う。これが私の覚悟だ。


 レキを諦めない。バグモンスターの脅威を排除する事を諦めない。でも、自分の気持ちを押し殺してギースの様に戦う事はしない。

 ここは私にとってもう1つのリアル。それでもここはゲームなのだ。ゲームならば楽しまなければ勿体ないではないか。


 ――この世界を楽しむ事も含めて、私は全部諦めない。……それが私の生き方だ。


 私は今日、これからも楽しい冒険を続けていくために強くなる道を選んだ。



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これにて第五章『迷子のテイマー』の完結です。


この後はこぼれ話を4つ程投稿後、最終章『私の歩む道』へと入っていきますので、是非最後までお付き合いの程よろしくお願い致します!


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