173. 解決への糸口
『試合終了!! 勝者、アンタッチャブルーー!!』
ロロアさんから試合結果のアナウンスがされると同時に、観客席から大きな大歓声が鳴り響いた。
その大歓声が私に向いているという今までに経験した事がない状況に軽いパニック状態になってしまった私は、その場でペコリとお辞儀をして逃げる様に控室へと向かった。
「よう、お疲れさん。今回の戦いは全体的にかなりいい動きが出来てたぞ。特にあっちのギルマスとの一騎打ちは、俺の知る限り今までで1番の動きだった」
控室へと向かう途中、エイリアスの皆が出迎えに来てくれていた。
みんな私の勝利を喜んでくれたが、特にギンジさんがご機嫌な様子だった。
「そうですね、僕から見ても今日のナツさんは凄かったです。霧の中での戦いも、訓練の成果がしっかりと活かされてました」
「うんうん、私の演技指導もしっかり活かされてたね! ハイテイマーズ達を見るナツちゃんの冷たい目、もう最高だったよ♪」
「私は普段のナツとのあまりの違いに、思わず背筋がゾクっとしちゃいましたけどね。……試合後は普段のナツに戻ってて安心したわ」
みんな思い思いの称賛を贈ってくれた。私はそんな称賛浴びながら、ロコさんの方へと向かう。
「ロコさん……終わりました」
「あぁ、見ておったぞ。ほんにようやってくれた。モカさんの1撃で吹き飛ぶギースを見た時は、胸がスカッとしたのじゃ。……試合の様子は動画に収めておるんじゃが、リンスの奴にも見せても良いじゃろうか?」
「はい、リンスさんになら全然問題ありません。というより、連絡は取れるんですか?」
「うむ、まぁ色々あっての。リアルでも時々会っておるんじゃ」
初代ハイテイマーズ事件の後、ロコさんとリンスさんは疎遠となり、やっと会えたかと思ったらリンスさんはリアルの事情でプログレス・オンラインを引退する事になった。
リアルの事情では仕方がないと思いつつも、折角会えたのにすぐにお別れするというのが寂しくも感じていたので、今でも交友が続いているという事実はとても嬉しい事だった。
「それで、ハイテイマーズはこれからどうしましょう? 私、戦いの後の事とかは何も考えてなくて……」
「そこはわっちの方で片付けておくのじゃ。ハイテイマーズは閉鎖させるつもりじゃが、奴らがため込んでおる資産やら何やらもある故、そこら辺の処理が面倒じゃからの」
「えっと……すみませんが、よろしくお願いします。そういうのは私全然出来そうにないので」
「うむ、ギースの奴を懲らしめる役割は任せてしまったからの、戦後処理ぐらいわっちにやらせてもらわねば師匠として立つ瀬がないのじゃ」
どうやらギルド閉鎖とはなかなか処理が面倒なようだ。申し訳ないが、戦後処理はロコさんに任せる事にした。
「それとの、ナツ。先ほどファイから連絡が来たのじゃ。どうやら、ギースの使った正体不明のアイテムについて話がしたいらしくての、ギルドハウスの会議室まで来て欲しいそうじゃ」
「私もあれは気になっていたので、丁度良かったです。プレイヤーがバグ化するなんて初めて見ましたから……」
「そうじゃの。ギースがどこでアレを手に入れたのかは知らんが、何かが始まっておるのやもしれん……」
プレイヤーをバグ化するアイテム。あんな物がプログレス・オンラインに蔓延したら、本当にこの世界がどうなってしまうか分からない。
その後、私はすぐファイさんと話すべくギルドハウスへと向かった。
……
…………
………………
「ナツ君、素晴らしい活躍だったね。……疲れているだろう所すまないが、早速あの戦いでの事を聞かせて貰えないだろうか?」
「はい、分かりました」
それから私は、ギースがバグ化した時の状況や、最後にギースを殴った際に感じた感覚など、話せる事を全て話した。
「そう言えば、プレイヤーをバグ化させるアイテムについて、運営の方で何か分かっている事はあるんでしょうか?」
「いや、今の所はまだ何も分かっていない。今はギースというプレイヤーに、あのアイテムをどこで手に入れたのか確認を取っている所だ。不正ツール使用による訴訟もちらつかせているので、情報は問題なく入ってくるだろう」
不正ツール使用による訴訟。ギースもなかなか大変な事になっているようだ……自業自得だから同情はしないけど。
「……まだ全容が明らかになった訳ではないが、これは我々にとって福音になるかもしれない」
「福音ですか?」
「そうだ。今回の出来事で分かった事は、プレイヤーをバグ化するアイテムが存在する事だけではない。もしかすると、今プログレス・オンラインで起こっているバグモンスター事件は自然発生ではなく、犯人が存在するのかもしれないということ。そして……」
私を見るファイさんの目が強くなる。
「ナツ君、君がこのバグモンスター事件を終わらせる鍵になるかもしれないという事だ」
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