171. 開戦
遂にハイテイマーズとの戦いの日が来た。
私は時間ギリギリまでコロシアムの控室で『私』を構築していく。それと同時に、先ほどまで構築に協力してくれていたミシャさんが、去り際に言っていた言葉を思い出す。
『どうもあっちのギルマスさん、他メンバーにも言っていない隠し玉を用意してるらしいよ? 何を用意してるのかまでは掴めなかったんだけど、一応注意はしておいてね♪』
――何を企んでるかは知らないけど……。小賢しい企みごと踏み潰す。
……
…………
………………
「よう、アンタッチャブル。ペットとのお別れはもう済ませて来たか?」
私が会場入りすると、ギースはいつものニタニタした顔で開口一番に煽って来た。
前までならギースの煽りを真に受けて心を乱してた。けれど、相手の言葉の意図やその奥の真意が分かれば、この言葉は別の意味に聞こえてくる。
私は冷めた目でギースを見ながら、その滑稽さに哀れみ以外の感情が湧いてこないことを自覚した。
「……なんだその面は? 見下してんじゃねぇぞっ!」
「私の態度に誰を見てるのか知りませんけど、見下されたくないのなら堂々としていればいい。今の貴方を見ていると、見ているこっちが恥ずかしくなってきます」
私の中に作り上げた『私』が喋り出す。『私』がギースを理解し。『私』がこれからどう戦うか決め。『私』がこの戦いの結末を決める。
――こんな戦い、さっさと終わらせてしまおう。
ギースは怒りで顔を歪ませ、後方へと下がっていった。
そして、ロロアさんの合図により戦いが始める。
……
…………
………………
「おい、どうなってやがる! 誰でもいいからアンタッチャブルを捕まえろ!!」
黒い霧の中、誰かの怒声が響く。けれど、誰も私を捉える事は出来なかった。
試合開始早々、私はミシャさんから渡されたバレーボール程の大きさはある黒い煙玉を地面に叩きつけ、戦闘エリアは黒い霧で覆われた。
この煙玉は特別製らしく、その額1個2Mの超高級品。ミシャさんから聞いた話では、作った本人ですら何でこんなコスパの悪いアイテムを作ったのか分からないらしい。
「インカ―ネイション」
黒い霧に覆われた中、私はまずインカ―ネイションを使った。インカ―ネイションは対象の戦闘スタイルによってタイプを自動判定され、対象の体を判定されたタイプへと変化させる魔法で、それによって私の体はシャドウタイプへと変化していく。
それは、私が初めてバグモンスターと戦った際にロコさんから掛けて貰った強化魔法だった。
「白亜、よろしくね」
「コン」
私は指輪から呼び出した白亜に乗って、霧の中を走り回った。そしてこの戦いの為に育て、覚えた魔法を発動する。
「デモンズ ピラー」
デモンズ ピラー。深淵魔法20で使えるガチャ産魔法で、MPと石材を消費して歪な形の大きな石柱を召喚する魔法だ。
私はその魔法をあちこちで発動し、戦闘エリアに何本もの石柱を建てた。
そして戦闘準備が整った事を確認した後、私はモカさんを呼び出し白亜の背に乗せる。
「白亜、モカさん、基本的には作戦通り逃げ優先で。私があいつらをかき乱すから、安全に攻撃出来る隙を見付けたら攻撃をお願い」
「コン」
「くまぁ!」
モカさんを乗せた白亜が走り出したのと同時に、私はパルを呼び出し心合わせの指輪を発動する。
相変わらず指輪を使うと胸がざわめき、ドロドロとした感情が湧き出すが、今はもうそれで暴れまわる事はない。ミシャさんとの訓練によって、私はこの感情の使い道を知ったのだ。
私はエリア中を走り回り、飛び回り、影の中に飛び込みながらテイマー達を攻撃し続けた。
暗く、視界の悪い中で突然背後から攻撃を受けたり、周りで突然戦闘音やうめき声が聞こえるのが怖いのだろう。ハイテイマーズの者達は徐々に冷静さを失い、あちこちで悲鳴や怒声が聞こえてくる。
敵にはデバフペットの数が多く、すれ違い様にデバフを受ける事もあったが、事前にペットの種類が分かっていた為に受けたデバフの種類毎の治療アイテムも潤沢に持っている。
そして遠距離火力ペットは攻撃を行うまでに時間が掛かる為、この状況で早々当たる事はない。もはやここは私の狩場だった。
「カウントベアーを乗せた妖狐とアンタッチャブルが二手に分かれて行動してるぞ! 妖狐の方を捕まえろ! そうすりゃ、アンタッチャブルの奴は出てく、ぐはっ!!」
「……そんな事させる訳ないでしょ?」
私は自身から発する音を30秒間だけ完全に消すシャドウ ウォーカーの技能を使い、不届きな発言をするテイマーの背後へと忍び寄りバックスタブで止めを刺した。
今の私が握っているのは長期戦を前提とした茨の短剣ではなく、今回の為に用意したガチャ産の短剣【フリーティング ダガー】だ。この短剣の特徴は耐久度が落ちる程その攻撃力を増すという物で、今日の為に最大強化したフリーティングダガーを6本用意し、全て耐久度を最初から3割程度まで下げている。
技能や魔法、そしてバフ料理でステータスを強化し、その上でバックスタブを叩き込めば防御を固めた近接職でもなければ1撃で決まる。
ましてや相手はテイマー、バフにより魔法耐性と物理耐性を上げているようだけれど、素の防御力が低いので大体は1撃か2撃で沈む。
けれど私は、間違っても捕まってしまわないように息を殺して丁寧にジワジワと追い詰めていく。この戦い方には安全性を高めるという理由とは別に、ある理由があった。
――なんでこの作戦にしたのかミシャさんは教えてくれなかったけど……。与えられた役柄、新たな神化装備、ハイテイマーズのこの状況、そしてギースの苛立った顔。ミシャさんが何を考えているのか、今ならよく分かる。
そんな事を考えながら丁寧に淡々とテイマー達を処理していると、苛立ちを隠せずあたりをキョロキョロと見回しているギースを発見した。
なので私は……ギースを無視して真横をすり抜ける。すり抜ける際に目が合ったが、ギースの相手は一番最後だ。
「アンタッチャブルーー!!」
背後でギースの怒声が聞こえるが気にしない。その後も私と白亜達で丁寧に戦い続け、そしてギースだけを残しその他のプレイヤーを全て狩り尽くした。
そして戦いは次のステージへと移行する。
「神化」
私はペットとの融合を掛け直し、武器を短剣から別の物に持ち替え、今日の為に用意した新しい神化装備に切り替えた。
「火天」
今日の為にシュン君から借りた十二天シリーズを発動し、ステータスを弄る。そうして準備が整うと、丁度霧が晴れてきた。
「お前……」
霧が晴れ、露わとなった私の姿を見たギースは、その顔を驚愕に染めた。
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