170. ミシャさんの暗躍

「つまりね、ナツちゃんの持つ才能っていうのは、所謂『憑依型』と言われる演者の才能なのさ♪」


 私の今の状態について相談した後、ミシャさんはその一時的な解決策として『憎悪の示し方』を提示してくれた。

 そしてその流れで私の持つ才能について教えてくれたのだが、その才能が演じる者の才能と言われて少し困惑した。……けれど、女優の才能があると言われちゃうと、ちょっと嬉しかったりもしている。


「ただねぇ~。この憑依型って曲者なんだよね。結局の所、その人の解釈した人物が憑依することになるし、憑依型はとにかくパワーが凄いの。だから、スタッフや他の演者にまで影響を与え出して、作品の雰囲気が少しずつ変質しだす事もあるのよ。……まぁ、それがいい方向に向かう事もあるけど、そうでない時もあるという困ったさん」


 ミシャさんは何かを思い出す様に腕組しながら語り続ける。


「逆に、自分の事を一切殺す事が出来ず、ひたすら自己アピールをし続ける演者も居る。こういうタイプはとにかく作品をぶち壊す。だけど、自分のキャラに合った作品に出合うとシナジーを生んで、凄くいい作品を作り出すんだよね」


 ミシャさんのリアルはもしかすると女優なのだろうか?

 そう言えば以前かくし芸大会の時、色んな声色を使って声援を送ってくれた事もあったし、声優という線も……。


「おっと、話がそれちゃったぜ。話を戻すと、ナツちゃんは演じる事で、その人物像を自分に憑依させられる才能があるのだよ。そしてその才能を使って、ナツちゃんを悩ませている憎悪の感情を使いやすい方向に持って行くのさ!」


 ミシャさんはビシッと私を指さし、言い切った。


「えっと……本当に私にそんな才能があるとして、どういう感じに訓練すればいいんですか?」

「ふっふっふ、それはね。私がナツちゃんにピッタリの人物を演じるから、ナツちゃんは私と戦いながらその人物像を感じ取って自分の中に構築していくのだよ♪」


 私にピッタリの人物を演じながら戦う。それがどんなに難しいか私でも分かるような事を、ミシャさんは簡単な事のように言ってのける。

 

 ――ミシャさんって本当に何者なんだろう……。いや、今は目の前の事に集中しなきゃ!


 それから私とミシャさんは毎日訓練場で戦う事になった。

 けれど、ミシャさんの本領はここではない。……私がミシャさんの本当の怖さを知ったのは、翌日の会議室でのことだった。


 ……


 …………


 ………………


「やぁやぁ、皆よく集まってくれたね! 今日は私が立てた作戦と今日までに準備してきた事の説明、それから皆に頼みたい事があって集まってもらったんだけど……はい、まずはこれ読んで♪」


 今日はミシャさん主導のもと、ファイさん以外の全員が会議室へと集まっていた。

 そして渡された2枚の紙に目を通し……ここに居る全員が沈黙する。


「な、なんですかこれっ!?」

「ん? 1枚目は試合に出て来るプレイヤーの詳細情報と連れて来るペットの種類、あとあっちが考えてる基本戦略だね。で、2枚目は試合に向けてナツちゃんに仕込んで欲しい技術と、その担当割りについて。あ、分からない事があったら遠慮なく聞いてね♪」

「……い、いやいやいやいや。こんな情報何処から持ってきたんですか!?」

「普通にあっちのメンバー数人をスパイに仕立て上げたりしてかな。アウトローぶってる中身キッズなお間抜けさんを駒にするのなんて訳ないのさ♪ あとはロロアちゃんにもちょっと手伝ってもらったね♪」


 何でもない事のように言っているが、それがどれだけ凄い事なのか……いや、異常な事なのか私でも分かる。

 自分のギルドの行く末を決める戦いがあるというのに、そのギルドメンバーをスパイに仕立て上げてこれだけの情報を抜いて来るだなんて、どう考えても普通じゃない。

 あとサラっと言ってるけど、ロロアさんにも手伝わせたのか。リアルでも知り合いなのかなとは思っていたけれど、こんなお願いも出来るぐらいの仲だったとは。


「それにしても、意外と正攻法で来るんじゃな。わっちはもっと不正スレスレか、見つからない様に不正を働いてくると思っておったのじゃが……。まぁ、ロストするペットの数を賭け対象にしてナツを煽るというやり口は、予想通りのゲスさで反吐が出るがな」


 資料の冒頭で驚いて先を読めていなかった私は、すぐにハイテイマーズの基本戦略情報に目を滑らせる。そこには確かに、この戦いで私のペットが何体ロストするかで賭け事をするという一文が書かれていた。

 無意識に私の手に力が入り、資料の紙が少しよれる。


「元々はもっとえげつない事をやる予定だったよ? だから私の方でいくつか潰しておいたのさ♪ あとはロロアちゃんにもちょっと手伝ってもらったね♪」


 どうやらミシャさんのお陰でまともな戦いが出来るように調整されていたようだ。

 ただその過程で、戦いの場がハイテイマーズの訓練場から興業の街のコロシアムになったらしい。そして不正防止の為に多くの観客を呼び込むとの事だ。……正直あんまり目立つような事はしたくないのだけれど……仕方がないと割り切るしかないよね……。

 それと、またサラっと言ってるけど、ここでもロロアさんの活躍があったらしい。


「ん? ミシャさん、私の神化装備一式を作り替えるんですか?」


 2枚目の紙を読んでいた所、ルビィさんの役割として私の神化装備一式の製作と書かれていた。


「そうそう。ルビィっちにはもう頼んでるんだけど、今回のこちらの作戦に合わせてガラッと新調予定さ。ま、本当に今回の戦いの為だけの装備になるけどね」

「装備もだが、他にも色々この戦いの為に買い集めるんだな。中には特殊なやつも交じってるみてぇだが、当日までに集められんのか?」

「大丈夫、大丈夫。私はプログレス・オンライン1のパフォーマーなだけあって顔が広いからね。ちょっと人脈を駆使すれば楽勝さ♪ あと、ロロアちゃんにもちょっと手伝ってもらうからね♪」


 こうして私達は試合に向けて準備を整えていった。

 新たなスキルを育てたり、作戦実行に必要な技術を叩き込まれたり、ミシャさんから細かい演技指導を受けたりと大変な1週間だったが、何とか当日までに間に合う事が出来た。


 そして、私達がハイテイマーズとの戦いに向けての準備を整える裏には、ロロアさんの献身があった事を私は決して忘れない……本当にありがとうございます!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る