164. 白亜の活かし方

「……以上が白亜の持つ技じゃな」


 ハイテイマーズとの戦いが終わるまでの間だけ白亜を預かる事が決まった後、私は白亜の能力についてのレクチャーを受けていた。


「次に白亜の能力を十全に使う為の戦い方に関してじゃが……。これは実際に戦ってみた方が早いの。HPが3割を切ると強制終了する設定で模擬戦と行こう」


 と言う事で『ロコさん+白亜』を相手に模擬戦をする事になった。

 ロコさんが訓練場の設定を弄り、両者がある程度距離を離した位置に着いて準備完了だ。


「お主は何も意識する事なく自由に攻めて来るのじゃ。わっちらはそれに対応しつつ、白亜の戦術について説明していくからの」

「はい、分かりました。よろしくお願いします」


 そうして私達の模擬戦は始まった。

 何だかんだでロコさんとの模擬戦はこれが初めてだ。


「レッグ アビリティ アップ! レッグ アビリティ アップ セカンド! レッグ アビリティ アップ サード! ライオンハート!」


 私はまず技能と魔法で自身のステータスを上げる。二つ名持ちの凄さは文字通り痛いほどよく知っているので、最初からフルスロットルだ。

 私は大幅に上昇した機動力を使い、ロコさんの方へと走り込む。


「ミスト。サイレント。セレスティアルシャワー」


 私が真っすぐ突っ込んでくる様子を確認したロコさんは、複数の魔法で応戦する。

 ミストは対象の周りに薄い霧を発生させて視界を悪くする魔法だ。

 自分で使うことは度々あったが、使われたのは初めての経験だった。外から見ると、効果があるのか不安になる程の薄い霧だが、掛けられた立場から見ると予想以上の視界の悪さだった。けれど、それでもロコさんの姿を見失う程では無い。


 問題はその後に放たれたセレスティアルシャワーだ。これは広範囲に光の矢が降り注ぐ魔法で、ミストでの視界不良の状態では避ける事もままならず、私は覚悟を決めて被弾覚悟で走り込む事にした。


「フラッシュ ビジョン! スパイラル エッジ!」


 フラッシュ ビジョンを使い反応速度と機動力を更に上げ、光の矢をバチバチと受けながらロコさんへと切りかかる。……が。


「ごふっ!?」


 視界外から飛び込んで来た白亜の尻尾によって、吹き飛ばされる。


「ほんに速くなったのぅ。それにまずテイマーを狙うのもよい判断じゃ。じゃが、白亜の事を忘れてはいかんぞ?」

「ちゃんと注意してたつもりだったんですけど……。サイレントってここまで音を消せましたっけ?」


 そう、それが白亜の攻撃を察知できなかった理由。確かにロコさんは事前にサイレントを白亜に掛けていたようだが、サイレントは対象が出す音を抑える効果であって、完全に消音する魔法では無いのだ。

 しかし、先ほどの白亜からは全く音がしなかった。


「白亜の種族効果じゃな。白亜は元々種族的に消音効果を持っておるのじゃ。それにサイレントを掛ければ、白亜から発生する音はほぼ消えるのじゃよ」


 なんと白亜は種族効果で消音効果を持っていたそうだ。前々から物音を立てずに歩くなとは思っていたけれど、優雅だったからじゃなかったのか……。

 そんなアホな事を考えつつも、今の状況の悪さに頭を抱える。一応私もサイレントを持っているが、本来これは音を抑える効果しかなく、短剣技能でシャドウ ウォーカーという音を完全に消す物もあるが30秒しかもたない。


 ――完全消音で効果時間が長く、しかもミストで視界不良だなんて凶悪な相性だよ……。


「ほれ、どんどん行くぞ。ライオンハート。トリプルエフォロックス」


 ロコさんの支援は更に続く。全能力強化のライオンハートによってカンストペットである白亜のステータスが大きく上昇し、毒・麻痺・凍結のデバフを必中で与えるトリプルエフォロックスを掛けられた。

 デバフにより動きが鈍った所に、白亜の猛攻が襲う。その九本の尾を鞭のようにしならせ襲って来る攻撃は、そのステータスの高さもあって恐ろしい威力を持っている。

 まともに当たってなどいられないと全力で避けているが、ミストとサイレントによって察知が難しく、そんな状況で走り回られると避けるのも至難の業だった。


「白亜のステータスはバランス型で欠点という欠点は無い。じゃがそれは、秀でた部分も無いと言うことでもあるのじゃ」


 白亜の攻撃に加え、絶妙なタイミングでロコさんから行動阻害魔法や攻撃魔法が飛んでくる。

 私も必死に応戦するが、こちらの動きが完全に読まれているようなその連携に全く対応出来ない。


「特化型にはそのペットの強みを活かす立ち回りが求められる。そして、バランス型には状況に応じた臨機応変な立ち回りが求められる」


 ロコさんの次の行動に驚き、私は一瞬思考が止まった。なんとロコさんが杖を携え接近戦を挑んで来たのだ。

 

「それ、ローズバインド。千点突き。ショックバインド。天牙一線」


 接近してくるロコさんに驚いていると、足元からバラの蔦が絡みつき、そこへロコさんの怒涛の突きが襲って来た。

 私はラピッドラッシュで応戦するが、そこへ更にショックバインドによる追加麻痺が掛かる。それにより出来た隙を見逃さず、下からスパンと小気味良い音と共に振り上げた杖が私の顎を打ち抜き、一瞬の意識の暗転と共に軽いノックバックを受けた。


「わっちにばかり気を取られとったら行かんぞ?」


 そう言い終わると同時に、足元から白い炎の火柱が上がり、私は成す術もなくHPを規定値以下まで削り取られ敗北した。


「白亜との連携の胆は連携パターンの多様性じゃ。何パターンもの連携を臨機応変に使いこなす事によって、如何なる戦況にも対応出来る」


 ロコさんは白亜の顎を撫で、笑みを浮かべながら続ける。


「わっちらの連携を数日で全て覚える事は難しいじゃろう。じゃが、安心するのじゃ。お主の戦闘スタイルを加味して、覚える連携パターンを事前に考えておる」


 そこから先、私は回復魔法を掛けられては厳選された連携パターンをその身に何度も刻み込まれた。

 ロコさんやギンジさん、シュン君やミシャさんなど、二つ名持ちと言ってもその性格はバラバラだ。けれど、二つ名持ちとは効率厨であり、ガチ勢であり……『努力』の基準が一般人と乖離しているのだ。

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