163. ロコさんの提案と私の決断

「敵、多い!!」

「それがこのダンジョンのいい所ですからね。トレインも起きづらいですし、僕たちの目的には最適です」


 シュン君との鬼ごっこ訓練を終えた後、私達はシュン君お勧めのダンジョンにマラソンをしに来ていた。

 そのダンジョンの名前は『堅牢迷宮』。迷路の様な通路を進み、最奥にある宝箱からアイテムを得る事が出来るダンジョンだ。そして通路には多くの鎧モンスターがいて、それらは弓や剣、中にはモーニングスターや鞭なんかを使う者も居る。

 最奥の宝箱からは防具を作る際に利用できる生産素材が出るらしいが、今の私から見るとレアリティの低い生産素材のため利用価値は無い。今日から毎日通うので、溜まった素材はルビィさんに上げる予定だ。


「最初は技術云々よりまず慣れる事ですね。慣れてくれば考える余裕が出てきます。そうしたら、敵が持っている攻撃手段、人数、立ち位置などを見ながら、敵の動きを予測します」


 シュン君は私に丁寧に説明しながら、5体の鎧モンスターの間をスルリと走り抜けていく。

 後を追う私はそれらを全部避ける事が出来ないので、両手の短剣で攻撃を弾いたり、時には攻撃を真面に受けながら先へと進んでいた。

 ここは中級者レベルのダンジョンで、そこまで強いモンスターが出ないので攻撃を受けてもそこまで大したダメージにはならない。HPが減っていっても、走り去る際に茨の短剣で切って行けばその効果で十分回復出来る程度だ。

 ちなみにここのモンスター達はそれぞれ自分の行動範囲が決まっており、行動範囲から抜けたプレイヤーは襲わないのでトレインが起きない親切仕様となっている。


 そうやって怒涛の勢いでダンジョンを走り抜けていった私達は、遂に最奥の間へと辿り着いた。


「最奥の間まで大体20分って所ですね。慣れてくればこの半分の時間で着けると思います」

「……分かった。まずは10分で完走を目標だね」


 明日からは1人でここを往復する事になる。今日のシュン君の動きを忘れず頑張ろう。


 ……


 …………


 ………………


 翌日、瞑想やダンジョンマラソンで自主練をしながら過ごし、訓練の時間になったので訓練場へと向かった。今日の訓練担当はロコさんだ。


「さて、ナツよ。今日はナツに1つ提案があるのじゃ。無論、どうするかはナツに任せる」


 訓練場でロコさんと合流すると、開口一番にそんな話を投げかけられた。


「その提案とは、一時的に白亜をナツのペットとすることじゃ」

「えっ!?」

「今お主のペットは2体しかおらず、枠が1体分開いておる。そこで、今度のハイテイマーズとの決戦が終わるまでの短い間、白亜をナツに預けても良いと考えておるのじゃ」


 全く予想だにしていなかったロコさんからの提案に驚き、一瞬思考が飛びかけた。

 白亜はロコさんにとって一番のパートナーペットだ。残り2枠は状況に応じて臨機応変に変えているが、1枠は必ず白亜を連れている。

 私とロコさんの関係性があったとしても、自分のパートナーを預けるのは凄く重い決断のはずだ。……HPが0になれば復活は出来ずロストする、プログレス・オンラインの世界では特に。


「その……いいんでしょうか? 多分、ハイテイマーズの人達はペットをロストさせる気で攻めて来ると思います。私も安全に配慮して戦うつもりですけど、絶対に大丈夫とは正直言えません」

「そうじゃろうな。わっちは以前、ギースのペットを全てロストさせておる。戦闘中にペットがロストせんように気遣うとも思えん。……じゃが、もしナツが負け、白亜を含めた全てのペットがギースの手に渡った後、わっちのペット達が無事でいる保証などどこにもないのじゃ」

「それは……」


 確かにそうだった。ギースがロコさんのペットを掛け金として求めたのは復讐の為。であれば、私が負けてロコさんのペットがギースの物になった際、ギースがペットにどんな扱いをするのか分からない。少なくとも、大切に育てるという事は無いだろう。


「じゃから、ナツにわっちの一番の相棒を託したい。白亜であれば十分にお主の力になってくれるはずじゃ。事前に白亜の了承も得ておる」


 すぐに即答は出来なかった。勿論、白亜が味方になってくれるのは心強い。……けれどそれ以上に、白亜の命が重いのだ。

 私は既にレキをロストさせている。未だにどうすればレキを守れたのか分からない物だったが、それでも私がレキを守れなかったのは事実なのだ。そんな私が、ロコさんの一番のパートナーを託されていいのだろうか。

 私が答えを出せずにいると、懺悔でもするように語り掛けて来た。


「本来であれば、これはわっちが果たすべき事じゃったのじゃ。じゃが、実際には弟子に全てを背負わせることしか出来ん始末じゃ……。ナツよ、どうか少しでもわっちにお主の力に成らせてはくれまいか。わっちの代わりに矢面に立つお主と、白亜を通して共に戦いたいのじゃ」

「……分かりました。……私からもお願いします。絶対にロストなんてさせません。だから白亜を私に託して下さい!」


 ロコさんは、私がハイテイマーズと戦う事にずっと苦しんでいたのだ。だから、少しでも私の力に成りたいと一番大切なペットまで託そうとしてくれている。

 であれば、白亜の命が重いと尻込みなんてしていられるはずがない。ロコさんが覚悟を決めたように、私も覚悟を決める時なのだ。


 私は様々な想いと覚悟を込めて、ロコさんに頭を下げた。

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