161. 最強のメンタルトレーニング
私がエイリアスの皆に助力を願った後、早速皆で訓練時間の割り振りを行った。
先にやるのが作戦会議ではなく訓練時間の割り振り作業になったのは、具体的な作戦はミシャさんに一任される事になったからだ。
それに対して皆からは一切異論はでず、それどころか、
「ミシャがやる気になっておるなら問題無いじゃろう。基本的に対人戦は性格が悪い者の方が強い。……そしてこの中で最も性格が悪いのは確実にミシャじゃからの」
との後押しもあり、当日の作戦はミシャさんに一任される事となった。
ちなみに、当事者であるミシャさんは今、ちょっと調べものをしてくると言って出て行ってしまっている。
そうしてそれぞれの役割や訓練時間の割り振りが決まり、ハイテイマーズとの決戦に向けた最初の訓練担当は……ギンジさんで決定した。
……
…………
………………
「さて、ナツ。俺がこの一週間でやるのは、前と同じ意識の切り替え技術の訓練だ」
「はい、心合わせの指輪を使いこなすには必要な技術ですね」
「そうだ。それで、具体的には俺と戦いながらの実践訓練と、それに加え瞑想トレーニングを取り入れる」
「瞑想ですか?」
ギンジさんから意外な言葉が出て少し驚いた。
瞑想について詳しくは知らないのだけど、イメージ的にはこう……『宇宙を感じて下さい』的なスピリチュアルな物で、ゴリゴリの体育会系であるギンジさんが取り入れるトレーニングというイメージが無かったのだ。
「俺が瞑想を取り入れると言うのが不思議そうな顔だな? お前さんが瞑想にどんなイメージを持ってるか知らねぇが、瞑想はプロのスポーツ選手や格闘家も取り入れている割とオーソドックスなメンタルトレーニングだぞ?」
「そうなんですか!? そんなイメージは全然なかったです。……スポーツ選手が瞑想してるイメージが今一湧かないですね」
「う~ん、口で言っても分かりづらいだろうから実践で体験してみるか。ナツ、そこで胡坐組め、そんで掌は上に向けて膝の上だ」
私は言われるがまま、その場で胡坐を組んだ。そして掌を上にした状態で膝の上に置く。
「今からお前さんがやるのは瞑想の中でも無我瞑想と言われる物だ。今から目を瞑り、3分間一切何も考えるな。頭の中で声を出すのも、思い出すのも、音楽を流すのも駄目だ。とにかく何も考えずに3分間耐えてみろ。そんで、何かを考えちまったら手を挙げろ」
それで何を体験出来るのか不思議に思いながら、私はその指示通りに目を瞑り『何も考えない』を始めた。……そして、目を瞑って10秒後に手を挙げた。
「何を考えた?」
「えっと、レキの顔が出てきました」
「そうか。じゃあもう一回だ」
その後、何度か同じ事を繰り返す。
けれど、何度やっても3分間『何も考えない』を続ける事は出来ず、大体が10秒から30秒ぐらいで何かの風景を思い出したり、経過時間が気になったり、頭の中で喋ったり、音楽が鳴り出したりしてしまう。
「瞑想の難しさが分かったか?」
「……はい、分かりました。何も考えないって、もの凄く難しいですね」
「元々人が集中していられる時間ってのは短いからな。そして何も考えないって行為は、最も集中力が必要な行為なんだ」
本当にこれはやってみなければ分からない体験だ。何も考えない事がこんなにも難しいだなんて。
「じゃあ次だ。次は連続で3分間耐えなくてもいい。もし無我状態が解けちまったら、すぐに考えている事を手放して無我状態に戻れ。俺が3分経過を伝えるまで、それの繰り返しだ」
言われた通りに実践する。けれどこれがまた難しい。1度考えだしてしまったら、考えを切ろうとしても中々切れず、特に音楽は全く途切れてくれないのだ。
「3分だ。……どうだ、上手く出来たか?」
「……いえ、全く」
「まぁ、そうだろうな。この無我状態が解けた時に、考えている事を手放して元に戻す行為が意識の切り替えと通じてるんだ。つまり、この瞑想トレーニングは意識の切り替えを学ぶ為の最強のメンタルトレーニングってこったな」
他にもこのトレーニングには、集中力を高めたり、メンタルコンディションを整える効果もあるそうだ。
「俺との訓練では、この瞑想トレーニングを合間合間に挟みながら、俺との実践訓練を行ってもらう。余裕があんなら、ログアウト後も暇を見つけては実践しておけ」
「はい、分かりました」
「よし、じゃあ次は実践訓練だな。ナツ、指輪を使って掛かって来い。また呆けた戦い方しやがったら、その度に投げ飛ばすから覚悟しておけ」
「は、はい……」
そうだ、ギンジさんの訓練がこれで終わるはずがないのだ。……そこからは瞑想という名の休息時間を挟みつつ、延々と私は投げ飛ばされて続けた。
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