157. 暴走
ガザンさんの案内の元、ハイテイマーズのギルドハウス内を歩いていると、不意にガザンさんが振り向き話しかけてきた。
「そういえばナツちゃんは、ちゃんとペットの躾けをしてる? ペットはただ戦わせてレベルを上げるだけじゃなくて、しっかり躾けていかないと連携が上手く行かなくなったり、最悪レベルが高レベル帯に差し掛かる頃からテイマーの言う事を聞かなくなる事もあるんだ」
「私とペットとの連携に問題ありません。そこはロコさんに師事して鍛えて貰ってますし、ペット達との仲も良好です」
いきなり何の話かと訝しんだが、返事をしないのもおかしいので無難な返答で話を流す事にした。……けれど、話はそこで終わらなかった。
「そうなんだ。確かに獣の女王に師事してたら早々間違いは起きないだろうね。だけど、うちも育成に関しては中々なんだぜ? うちは人数が居るから、メンバー全員で効率的な育成について色々研究してるんだ。……そうだ! 折角だから俺たちの育成現場を見学していけばいいよ」
そう言って勝手に話を進め、ズンズンと私達を誘導し始める。
「ちょっと待ちなさい! 私達も暇じゃないの。だからさっさと交渉の場に連れて行って欲しいんだけど?」
「あぁ、大丈夫大丈夫。どっちにしてもギルマスの部屋に行くには、訓練場を突っ切った方が早いから♪」
そう言ってルビィさんの静止も聞かず進み続ける。そして、訓練場へと行き着いた。
……そこで私達が見たものは。
「……何をやっているんですか?」
訓練場で行われていた事は躾けなのではなかった。
2人掛かりで黒いウサギのペットを押さえつけ、もう1人が鞭の様な物でウサギを叩き続けている。
「あぁ、今はシャドウ ウォーバニーの躾け中だったか。シャドウ ウォーバニーは種族的に反骨精神の強いAIが搭載されてるんだけど、そういうカテゴリのAIを持つペットはああやって躾けると攻撃的になって育成速度が増すんだよ」
「……」
分かってる、これは罠だ。
いくら私が馬鹿でもこんなあからさまな事をやられたら、そんな事はすぐ理解出来る。……でも。
2人掛かりで押さえつけられ、鞭で打たれ続けるという理不尽を受けているあの黒いウサギを見ていると、あの日、黒いオーラに包まれ苦しみ、碌な抵抗もできないまま砕け散っていったレキを連想させた。
その2つを関連付けてしまったらもう私は止まれなかった。私は全力で踏み込み、理不尽を強いるプレイヤーの元へと走っていく。
後ろでルビィさんの「ナツ、止まって!!」と言う声が聞こえたが、それでも私は止まらなかった。
先日、ロコさんの家で「最近調子はどうか」と聞かれた時の声が頭の中で反響する。
今日、私のファンだというプレイヤーから「ゲームを楽しめているか?」と聞かれた時の声が頭の中で反響する。
……私はそれらを頭から追い出すように、頭の中をドロドロとした感情で埋め尽くし、技能で更に速度を上げて走り込んだ。
「あぁ? なんdっ! がはぁっ!?」
まずは鞭を持つ男を殴り飛ばす。
「フラッシュ ビジョン! エッジ キック! プッシュ ストライク!」
その後、3秒間だけ機動力と反応速度を大幅に引き上げるフラッシュ ビジョンを使い、そのままウサギを押さえつける2人の男を蹴り飛ばした。
私のカンストした筋力スキルと蹴りスキル、そしてルビィさんの装備によって底上げされた私のステータスから繰り出される蹴りによって、2人の男達は後方へと軽く吹き飛ぶ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
私は衝動的に自分がやってしまった事を認識し、このあとどうすればいいのか分からず軽いパニック状態に陥った。
そしてそこに、芝居がかった声が響き渡る。
「おいおい、これはどうなってんだ? おいガザン、何があったんだ?」
「いやぁ、俺にも何が何だか。急にナツちゃんが走り出して、かと思ったらうちのメンバーに突然襲い掛かったんですよ」
「なんだそりゃ? おい、アンタッチャブル、これはどういう了見だ? 一方的な迷惑行為、しかも突然襲い掛かるなんてのはどう考えても規約違反だ。そのペナルティは決して軽くないぞ?」
自分が今やってしまったこと、そしてその結果窮地に追い込まれている事を理解し、パニック状態は更に進み小さく体が震えはじめる。
「待って! ……今回の事はこちらが全面的に悪かったわ。でも出来れば賠償で勘弁してもらえないかしら? 勿論、賠償内容はここですぐにって訳じゃなくて、交渉の場を設けてって形で」
「ああ? お前は誰だよ? エイリアスの関係者か?」
「私はエイリアスの専属生産者よ」
「専属生産者でしかないお前に何の権限があるんだ?」
「それは……」
ルビィさんが口ごもる。
そしてその様子を見たギースは底意地の悪い笑みを浮かべた。
「どうせこのチビはお飾りのギルマスなんだろう? エイリアスでまともにギルド運営してた経験があるのはロコしか居ねぇ。……ロコを連れてこい。そしたら賠償交渉の場を設けてやるよ、仕方なくな」
「……分かったわ。……いいわね、ナツ?」
私はルビィさんの問いに碌な返事も出来ず、俯いて震え続けていた。私がやってしまった事、そしてこれから起こる事を想像しながら。
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