156. ハイテイマーズからの誘い

「……ハイテイマーズ?」


 商業組合から来たメールを読んだ私は、すぐに商業組合へと向かった。

 そして、買い募集の窓口NPCからことの詳細を聞いた私は困惑する。


「はい、ナツ様の買い募集の件で値段交渉がしたいとギルド【ハイテイマーズ】のギルドマスターから連絡を受けております」


 嫌な予感しかしない。率直な意見としては、何かしらの嫌がらせか罠だろう。

 ターゲットは私なのか、それともハイテイマーズからコンタクトがあったと分かれば保護者として付いてくる可能性のあるロコさんを狙った物なのか。

 ハイテイマーズのギルドマスターであるギースの狙いが分からず、どうするべきか悩みに悩んだが……。


 ――だけど、確かにハイテイマーズであれば心合わせの指輪を持っていても不思議ではないんだよね。


 ハイテイマーズのやり方を知っている私は、そのペットロストアイテムを使う事に強い抵抗を覚える。

 けれど、だからと言って大切に育てられた幸せなペットのペットロストアイテムであれば抵抗を覚えないのかと言えば否である。

 どちらも違う意味で使う事に強い抵抗を覚えるし、そもそもそのペットロストアイテムを残したペットがどういう最後を迎えたのかなど知りようがない。

 

 どうするべきか悩む過程で、ペットを大切にしている良いテイマーが「私が持っているより、このアイテムをよりよく使ってくれる人の手に渡ってくれた方が、きっとあの子も喜ぶから」と売りにだす、そんな都合の良いサイドストーリーを求めてしまう偽善的な自分に気付き嫌気が差した。

 結局の所、同じなのだ。……私の最優先事項はレキを生き返らせる事。そしてその為には力が必要なのである。だから私は、他者のペットロストアイテムを求める。

 抵抗感を薄れさせるサイドストーリーの有無など関係なく、私は私の為にペットロストを求めているのだ。


 一先ず話だけでも聞いてみようと決心した私は、ロコさんにはまだ今回の話はせず、ルビィさんにだけメールで事情説明をして、ギースとの交渉について来てもらう事にした。

 もしギースの狙いがロコさんであれば、ロコさんを連れてこない事でその狙いを外せる。そして、相場感が無く交渉事の出来ない私が1人で行くより、ルビィさんと一緒に行く方がやり込められる危険性が無いと判断した為だ。

 そしてルビィさんから了承の返事を貰った私は、商業組合で待ち合わせをしてハイテイマーズのギルドハウスへと向かった。念のために装備も初心者装備から何時もの物に着替えておく。


 ……


 …………


 ………………


「ナツ、ロコさんに今回のこと言わなくて本当に良かったの?」

「……はい、ギースの狙いが何か分からないですし。……それに、前会った時もギースはわざとロコさんを傷つけて楽しんでいるように見えました。だから、あまりロコさんとギースを会わせる機会を作りたくないんです」

「そう……。でも、ハイテイマーズの評判の悪さとロコさんとの確執は有名な話だし、ロコさんが出張った方がいいと私が判断したらすぐに連絡を入れるからね」


 そうこう話している内に私達はハイテイマーズのギルドハウスへと到着した。

 ギルドハウス入り口の前には1人の男性プレイヤーが立っており、私達の事を見つけると笑顔で手を振って出迎える。


「お~、本当に噂のアンタッチャブルが来たよ! と言うか久しぶりだね♪ 前に1度会った事があるんだけど、俺のこと覚えてる?」


 凄く軽薄そうなその男性プレイヤーは、尋常じゃない距離の詰め方で話しかけて来た。

 すると私の隣りに居たルビィさんが、私の肩に手を置き少し後ろに下がらせると、その軽薄そうな男性プレイヤーと対峙する。


「ちょっとアンタ、少し馴れ馴れし過ぎるんじゃない? 昔1度会っただけで、しかも覚えられているかも定かじゃないような関係でその距離の詰め方はどうかと思うわ」

「あぁ、ごめんごめん。二つ名持ちと会って話す機会なんて殆どないからさ、有名人と会った時のミーハー心が前面に出ちゃってね。……やっぱ覚えて無いかな? 以前、転移屋で一緒に狩りに行かないかって誘ったテイマーなんだけど」

「……あっ! すみません、今思い出しました」


 私がまだこのゲームを始めて間もない頃、ゾンビクラブでのレベリングに向かう途中で声を掛けて来たテイマーの人だ。


「良かった! そう言えばまだ名乗って無かったね。俺はハイテイマーズのサブマスターをやってるガザンだ。以後、お見知りおきを♪」


 この人、ハイテイマーズのサブマスターだったのか。

 ……そういえば、このガザンというプレイヤーに声を掛けられた日に、私はゾンビMPKの被害を受けたのだ。つまり、そういう事なのだろう。

 私は当時の事を思い出して少し苛立ってしまったが、ここでもし私がその事を指摘しても白を切られるだけだろうと思い、一先ず穏便に会話を進める事にした。


「それで、ガザンさんが出迎えてくれたって事は、ペットロストアイテムの売買交渉はガザンさんとするって事でしょうか?」

「いやいや、俺は噂のアンタッチャブル様をエスコートするだけのただの下っ端だよ。売買交渉はうちのギルマスとやってもらう事になってるから、そこまでの案内が俺の仕事って訳さ♪」


 一々わざとらしい軽薄な態度に少しイラっとする。

 その後、ガザンさんの案内の元、私達はハイテイマーズのギルドハウスへと入って行った。


 ――はぁ、入り口からどんどん気力が削られて行く。……やっぱり、ここに来たのは早まったかもしれない。

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