154. 難儀な性格

「あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝!!」


 心合わせの指輪によりモカさんと融合した私は、大幅に増したその筋力ステータスによりトリックパンプキンを倒し続けていた。

 前回の戦いで私はこの力を制御することが出来ず、溢れ出し爆発する感情に身を任せることしか出来なかった為、次の戦いではしっかり制御出来るようにとスキル上げ用ダンジョンで訓練中なのである。


 けれどその訓練の結果は芳しくない。

 前回同様この指輪を使うとレキを失った戦いを、失ったその瞬間を鮮明に思い出してしまい、それは私の感情を黒く染め、ひたすらに目の前の敵を憎み戦う事しか出来なくなってしまう。


「ストライク ラッシュ!!」


 ただ、これまでの師匠達との訓練と度重なる強敵との激戦によって、私の戦い方は無意識レベルでも成長していたようで、こんな感情に振り回されている状況でもある程度まともな戦い方が出来ていた。

 そうこうしている間に、融合によってモカさんから受け継いだ能力『カウントアップ』によって私の火力が更に増す。

 元々モカさんの能力であるカウントアップは、戦闘継続時間が5分経過する毎に最大10段階まで筋力ステータスにプラス補正を掛ける効果になっている。


 現在私がテイムしているペット、パルとモカさんは融合によって得られる能力が全く違い、戦闘の幅を広げてくれている。

 パルと融合すると背中から白い翼が生え、飛行能力が身に付く。ステータス的には魔力と魔法抵抗の伸びが高い。

 モカさんと融合する場合は髪の色が茶色に染まり、パッシブバフとしてカウントアップが付く。ステータスは筋力と体力の伸びが高い。

 ちなみに、リアルの私の髪色が茶色なので、モカさんと融合すると余計にリアルと近いアバターになってしまう。


「あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝!!」


 そして、指輪に翻弄されるまま戦いは続く。


 ……


 …………


 ………………


「ナツよ、大丈夫かえ? あまり戦いに集中出来ておらんようじゃが」

「すみません、ちょっと油断しちゃってました! ここから巻き返します!」


 ダンジョンでの自主訓練の後、今はロコさんとノーラ神殿で訓練をしている。

 けれど、先ほどロコさんに言われたように、今の私は訓練にあまり集中出来ていない。


 指輪の自主訓練は、最初軽く流す感じにするつもりだったのだが、結果的に煽られる感情のままかなりの時間戦い続けてしまっていたのだ。

 その所為で現在私は酷い頭痛に悩まされており、コンディションが最悪の状態となっている。


「……うむ、今日の訓練はここまでとしよう。偶にはわっちの家でゆっくりしようではないか。わっちのペット達もナツに会いたがっておるしの」

「……すみません」

「謝る必要はないのじゃ。人間、調子の出ぬ日があるのは当然のこと故な」


 ――情けない。誰にも心配されないように頑張ってるのに、結局こうやって気を遣わせてしまってる……。


 結果の伴わない自身の行動に辟易としながら、私はロコさんのプライベートエリアへと向かった。


 ……


 …………


 ………………


「わっ!? ちょっと待って! ちゃんと皆の分あるから! 順番だから!!」


 ロコさんの家に着いた私達は、久しぶりに2人でペット達のご飯を作ろうという事になり、一時期日課になっていた大量のご飯作りをした。

 何かに没頭する事は今の私には丁度良かった様で、先ほどまで私を苦しめていた頭痛は徐々に静まっていった。


 最近は色々と忙しくてロコさんの家に来る機会もなく、久しぶりに会う事となったロコさんのペット達からのじゃれ方が凄い。

 ロコさんのペットは全て成体で大きいので、そのじゃれ方もパワフルなので私はもみくちゃ状態だ。

 私はもみくちゃにされながらも何とか全員にご飯を配り終え、やっと一息つく。


「ここは何時も穏やかですね。こうやって沢山のペットを眺めていると、心が落ち着きます」

「そうじゃろう、そうじゃろう。ペットは最高の癒しなのじゃ。それにわっちの子達は皆最高に可愛いでな」


 そう言ってロコさんは、近くに居る身の丈を超えるほど大きい鳥のペットを撫でた。

 ロコさんにとって、ペットはどんなに大きくても厳つくても可愛いのだろう……分かる!


「ナツよ、最近調子はどうかの? ハイエンスドラゴンとの戦いから色々あって大変じゃったじゃろう」


 ロコさんはペットを撫でながら、視線をこちらに向けることなく質問してきた。

 私はその質問にピクっと小さく体を震わせたあと、一拍置いて気丈に振る舞いながら答える。


「正直、レキが居なくなってからはどん底に落ち込みました……。でも、今は私のやるべき事が明確になっているので、落ち込んでなんていられないって心境ですね」

「……そうか」


 その返答を聞いたロコさんは私の方へと振り向き、私の頭をぽんぽんと優しく叩くと苦笑しだした。


「ほんにお主は難儀な性格をしておるの」


 そう言ってロコさんは「さて、なんぞ飲み物でも取って来るかの」と言って家の中へと入って行った。


 恐らくロコさんには私の強がりが見抜かれているのだろう。……それでもここで弱音は吐けない。

 皆に心配されたり気を遣われたくないという気持ちも大きい。けれど、それだけではないのだ。


 ――ここで弱音を吐いたら……私はその場で崩れ落ちて、もう頑張れなくなってしまうかもしれないから……。

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