153. 商業組合

「ナツ、まずはアイテム売り募集の見方から説明するわね」

「はい、今日は宜しくお願いします!」


 今日は昨日の対策会議で決まった、レキのペットロストアイテムを強化する為に必要な心合わせの指輪を買い取るために、ルビィさんと一緒に商業組合を訪れていた。

 そのついでにアイテム売り募集とオークションについても、教えて貰える事になっている。


 最初に私達は今売りに出されているアイテム一覧を確認する為に、専用受付へと向かった。


「こんにちは。売り募集アイテムの一覧カタログを見せて貰ってもいいかしら?」


 ルビィさんが受付のNPCにそう言うと、一冊の本を渡された。


「これね、見た目は本になってるんだけど、タッチ操作の情報端末なのよね。しかもどのページを開いても同じ物が表示されるっていう雰囲気アイテムなの」


 カタログには検索機能が付いていて、今どんな物がいくらで売られているかなどの詳細を調べる事が出来る。

 そして、もし欲しいアイテムがあれば、同じ受付からアイテムを購入する事が出来るらしい。

 もし自分が売りたいアイテムがある場合はここの受付にそのアイテムを渡し、必要情報を記入して預かってもらう事が出来るそうだ。

 それでもし1週間経っても売れない場合は、アイテム保管料を自動的に引き落とされて行って、保管料が払えなくなるとアイテムが没収されるらしい。


「相手プレイヤーと顔を合わせて直接取引しないで済むから楽なんだけど、アイテムを売りたい場合は延滞に気を付けてね。意外と売り募集掛けてた事を忘れて凄い金額払わされる人って少なくないのよ。……残念、心合わせの指輪は売りに出されて無いようね」

「低確率ドロップのペットロストアイテムですから仕方がないですね……。えっと、じゃあ次は買い募集を掛ける感じでしょうか?」

「いや、その前にオークションリストを見ときましょ。ペットロストアイテムは価格の変動が激しいから、オークションに掛けられることも多いからね」


 ペットロストアイテムのオークション。その言葉からハイテイマーズがやっているコロシアムイベントを連想してしまい、少し気分が悪くなってしまった。

 レキの死を体験した私にとって、ペットを殺し合わせたり、その後にペットロストアイテムをオークションに出すという感覚が理解出来ず、その嫌悪感が以前より増していたのだ。


 ――でも……そんなペットロストアイテムを買い取ろうとしている私も、イベント参加者とあまり変わりないよね。


 そんな意識とやっている事がちぐはぐな自分に自嘲気味な苦笑いを零し、オークションの専用受付へと向かった。

 こちらでも先ほどと同じ様にカタログを受取り、オークションスケジュールを確認する。

 参加したいオークションがあれば、指定の日時に商業組合内にあるオークション会場へと向かう必要があるが、今回はお目当てのアイテムが無かった為、オークション会場に向かう機会は無かった。

 売り募集にもオークションにも心合わせの指輪は無かったので、買い募集を掛ける為に専用窓口へと向かう。


「今回は『常識的な範囲内』で運営からの援助があるから、基本相場の40Mで募集を掛けるわ。でも、さっきも言った様に、ペットロストアイテムはその時々で価格の変動が激しいの。だから、オプションとして『価格交渉有』って所にチェックして募集を掛けるのが良いわね」

「1つ40Mですか……と言う事は2つで80M。流石に凄い金額ですね……」

「下限で80Mってだけだから、実際に買い取る時にはいくらになるか予想が出来ないわ。生産素材とかだと、時期によっては基本相場の3倍近くになる場合もあるからね」


 このゲームのガチャには生産レシピガチャという物が存在し、そのレシピを使わないと作れないアイテムを、ゲーム内で手に入るアイテムで作る事が出来るようになるらしい。

 そして新規追加されたガチャ産レシピに有用な物が出ると、そのアイテムを生産する為に必要な素材の価格が、一時的に凄まじい高騰を見せることがよくあるそうだ。

 

「……よし、これで買い募集設定完了。後は売ってくれる人が現れたら、商業組合の方からメールが届くわ。……あ、そうだ。昨日話してた梵天のコストにするアイテムって、どういう物にするのかもう決めてるの?」

「いえ、まだ決めてないですね。……実を言うと、プログレス・オンラインにどんなバフ装備があるのか把握出来てないので、何を買い揃えた方がいいのか分かってない状態で」


 私が新しく手に入れた十二天シリーズである梵天は、その発動コストとして消費したアイテムに付いているバフ効果を取り込んだ装備を一時的に作り出す事が出来る。

 その為、梵天の力を最大限に発揮する為には、インベントリで持ち運べる量を加味して私の戦闘スタイルに合わせたバフ装備を揃える必要があるのだ。


「それじゃあ、この後にそこら辺の打ち合わせもしちゃいましょうか? 実際に買い集めるのは私が受け持つし、運営からの援助資金交渉もしないといけないしね♪」


 ルビィさんは私の専属になってから、運営からの提供される潤沢な資金を湯水のように使い、普段は資金面の問題で作れないような装備を沢山作る事が出来てご満悦なようだった。

 今回作る物はコストとして消費されるバフ装備ではあるが、普段触る機会の少ない高額装備を沢山弄れる機会だと気合が入っているらしい。

 ハイエンスドラゴンを倒す為に遠慮するつもりは微塵もないが、最終的に梵天のコストとなる資金が何Mになるのか考えると少し怖くなってきた……。

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