142. ハイエンスドラゴン
ファイさんから伝えられた異常事態の連絡を受け、私達はハイエンスドラゴンが捕えられていた隔離エリアへと向かった。
「うにゃ~、これは酷いね」
私達の目の前に広がる光景。それは食い散らかされたバグモンスターだった物のデータ残骸と、今も尚データを咀嚼し続けているハイエンスドラゴンだった。
まさにそれは弱肉強食の世界を思わせるような光景で、決して血や部位欠損の表現が規制されている全年齢対象ゲームのそれでは無かった。
「ぼーっとするな! これ以上変異が起きる前にさっさと片づけるぞ!」
「は、はい!」
目の前の光景に茫然としていた私は、ギンジさんの叱咤により意識を復帰させて戦闘準備を開始した。
レキ達を全て出し、自分も含めて全員にバグモンスターの攻撃からデータを保護するアイテムを使用する。次にレキからバフを掛けて貰い、エナジーバーをレキ達に食べさせて準備完了だ。何が必要になるか分からないので、私自身はエナジーバーを食べないでおくことにした。
最初に攻撃を仕掛けたのはシュン君だった。
ちなみに私以外のエイリアスのメンバーは全員バグモンスター製の装飾品を身に着けており、シュン君はアンクレット、ロコさんとギンジさんは数珠のブレスレット、ミシャさんはイヤーカフとなっている。
「っ!? 防御性能が通常のハイエンスドラゴンと違います! 他の性能も大きく違う可能性があるので、皆さん気を付けて下さい!」
「ではわっちは魔法耐性でも調べるかの! 光龍、エレメントブレス!」
光龍のエレメントブレスがハイエンスドラゴンを襲う。以前の様にイクスチャージはやっていないが、思念の宝珠は光龍に装備されており、その威力は火力タイプなだけあってとても強力だ。……けれど、その攻撃はハイエンスドラゴンに効いている様には見えなかった。
「この感じは単純に魔法耐性が高いというより、バフによる威力減衰のようじゃのぅ。恐らく物理耐性も同様じゃろう。……そうじゃナツ、お主叫び技能のリムーブ シャウトはもう使えるかえ?」
「え? あ、はい、使えます! でもボスモンスター相手に効くとは……」
リムーブ シャウトとは叫びスキル80の技能で、その効果は相手に付いているバフ効果をランダムで1つ外すという物だ。けれど、敵が強くなるほどレジストされる可能性が高くなり、ハイエンスドラゴン程のボスモンスターともなれば成功する確率はほぼ0だ。
「なに、わっちとお主の共同作業なら成功率は……まぁ、2割程にはなるじゃろう。わっちらでバフを剥がす作業を行う、他の者らは足止め役を頼むのじゃ!!」
「おうよ! こいつの動きならしっかり覚えてっから任せろ! ……まぁ、変な変異を起こしてなけりゃだがな」
「ほいさほいさ♪ 攻撃では役に立たないけど、おちょくって足止めさせるのは得意さ♪」
「僕は元々、アタッカー兼避けタンクみたいな立ち回りですからね。任せて下さい」
みんなの声を聴くと不思議とどんな逆境も乗り越えられる気がする。というより、このメンバーで負けるイメージが全く湧かない。
そんな絶大な頼もしさを感じていると、もう1人の頼もしい味方からの連絡が入る。
『待たせてしまって済まない。凍結処理用の運営スタッフ達をこれから転移させる。もう凍結処理は効かないかもしれないが、足止めぐらいにはなるはずだ』
エイリアスのメンバー全員が耳に着けている通信デバイスからファイさんの連絡を受けると同時に、8人の青い神官服を着た運営スタッフがハイエンスドラゴンを中心とした円状に空中浮遊しながら現れた。
運営スタッフ達はハイエンスドラゴンの方へと手をかざすと、それぞれの手から鎖が飛び出しハイエンスドラゴンを捉え締め付ける。
『こちらでスキャンしてみた所、ハイエンスドラゴンに付与されているバフは『物理耐性(極大)』『魔法耐性(極大)』『暴虐の怨嗟』の全部で3つだ。どれも強力なバフの為、出来れば全て解除してもらいたい』
「暴虐の怨嗟じゃと!? 彼奴が食らったのはバハードかえ!? ハイエンスドラゴンと最悪の組み合わせではないか!」
「ロコさん、暴虐の怨嗟ってどんな効果なんですか?」
「暴虐の怨嗟とは、暴虐王の居城というダンジョンのボス『暴虐王 バハード』が3割以上HPを減らした時に付与されるバフでの、その効果は受けたダメージ分の全能力強化とダメージを負わせた者へダメージを返すことなのじゃ。……そしてハイエンスドラゴンの種族としての能力の1つが常時リジェネ状態なのじゃよ」
つまり、ハイエンスドラゴンを攻撃すると、そのダメージが自分に返ってくるしハイエンスドラゴン自体も強化される。そして、常時リジェネ状態のハイエンスドラゴンにこのバフが付けば、その悪辣さは更に増すということ。
「今は物理と魔法のどちらにも極大の耐性バフが付いておる故、逆に安心じゃ。じゃが、解けるバフの順番によってはちと面倒になるぞ」
ロコさんがその表情を険しくした時、バキンッという甲高い音が響いた。
『凍結処理を破られる時間が想定より速すぎる!? 信じられん、凍結処理耐性でも身に着けているのか!!』
「グゥウウウオ˝オ˝オ˝オ˝オ˝オ˝オ˝ォォォン!」
鎖を引きちぎったハイエンスドラゴンの咆哮が、大気を震わせ隔離エリア全体に響き渡った。
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