141. バグモンスター達の異変

 先日のロコさんと行ったノーラ神殿での訓練以降、私達エイリアスを取り巻く環境は少し変化していた。

 1つは私の訓練場所がギルドハウスの訓練場からノーラ神殿に変わった事だ。これはロコさんからの「ナツの経験不足を補うためにも、これからの訓練はノーラ神殿で行った方が良い」という提案による物だった。

 それからはギルドハウス内のスキル上げダンジョンでスキル上げをして、その後その日の担当師匠とノーラ神殿に行って経験不足を補いつつ各師匠から専門技術を教わる毎日を送っている。

 昨日お母さんから「奈津、何だか最近姿勢や歩き方が綺麗になったわね」と言われたのだが、どうもゲーム内の訓練がリアルにも影響を及ぼしているようだ。


 ――もしかして今の私ならリアルで男子と喧嘩しても勝てるかも。


 なんて事をちょっと考えてしまったが、まぁ実際はリアルでステータス補正や技能なんて物はないから、フィジカルの差で負けるんだろうけど。


 おっと話しがそれてしまった。そう、エイリアスを取り巻く環境の変化についての話だ。

 私の訓練以外の大きな変化とは、"バグモンスターの活性化"だ。現在、通常マップでのバグモンスター発生割合が増加している。

 更に、大型のバグモンスターなどが一部今までと違った挙動をするようになったそうだ。なんとこれは野性のバグモンスターだけでなく、運営側で凍結処理をしているはずのバグモンスターでも変化が起き始めているらしく、先日は一部バグモンスターの凍結処理に綻びが出たらしい。


 その事で運営側での意見が2つに割れた。1つは、今運営が凍結処理しているバグモンスターを早急に駆除してしまおうという意見。もう1つは、今起きているバグモンスターの変化をしっかり調査しておかないと、今後対応が取れなくなってしまう恐れがあるという意見。

 正直私にはどちらが良いのかなんて分からないし、どっちの考えも間違っているようには思えなかった。最終的には、調査サンプルとして一部バグモンスターを残し、残りは駆除してしまおうという意見で決まった。


 そこで私達エイリアスは、通常マップで発見されたバグモンスターをその時に手が空いている人で倒して回る作業をしている。

 その過程でシュン君やロコさんのバグモンスター製アイテムが有効に働いていることは確認出来た。更に、ロコさんが持つアイテムは武器ではない装備品なので、もしかしたらプレイヤーもアクセサリーぐらいのバグモンスター製装備を持てば好きな武器で戦えるかもしれないと、現在ルビィさんがアクセサリー作りに奮闘している。


 ちなみに、私達の仕事量が増えたことによってファイさん経由で運営側からある提案があった。それが雇用契約を結び、金銭による報酬を受けないかという物。

 私は自分でお金を稼いだことなんて無いので、その話を聞いた時にビックリしてしまったのだが、ロコさんの「バグモンスターなど色々不穏な問題がある現状、一般プレイヤーとしての権利を手放さずあくまで善意での協力者というスタンスを保った方が良い」という意見から、その提案は全員お断りすることになった。

 こういう時に自分がどうすればいいのか分からないので、ロコさんみたいな頼れる大人が近くにいると本当に心強い。


 まぁ、そんなこんなで慌ただしい毎日を送っている。



「ナツ。丁度いい所に!」

「あ、ルビィさん。どうされたんですか?」


 私がギルドハウスの訓練場でギンジさん達に教わった動きの自主練をしていると、そこへルビィさんがやって来た。

 

「この前頼まれていたペットの装備が出来上がったからね。今、渡しておこうと思って」

「もう出来上がったんですね! あ、可愛い♪」


 ロコさんのペットロストアイテムがバグモンスターに有効だという事が判明したことで、先日私にもペットロストアイテムを使わないかという打診が来ていた。

 けれど私はその事にどうしても踏ん切りが付かず、ペットロストアイテム以外の装備品でも有効に働くか検証のために通常のペット用装備も使ってみた方がいいのではないかと提案し、ルビィさんに作って貰っていたのだ。

 それで出来上がったのがレキ達のサイズに合わせたネックレスで、見た目はあまりゴテゴテさせずに控え目で可愛い物になっている。効果はペットロストアイテム程凄まじい物ではなく、『機動力上昇(極小)』というかなり控え目な物だった。

 元々ペットロストアイテム以外の装備品はお洒落目的だけでバフ効果の無い物が多いため、極小でもバフ効果があるだけ有り難いのだ。


「ギンジさん達用の装飾品も出来上がったから、あとは次のバグモンスター戦で有効かどうか検証だね」

「そうですね。装飾品でも有効なら、武器の自由度が一気に広がるので大幅戦力アップになりそうです!」

「そういえば、ナツのスキル育成は順調? もう新装備に一式着替えられそう?」

「もうちょっとって感じですね。でも、あと数日で新装備に一新出来ると思います」


 前回ルビィさんに作って貰った装備は、最高の素材で作ってもらった事により装備性能が凄いのだが、それに応じて装備するのに要求されるステータスが高かった。全ての装備を性能減衰なく着こなすためにもスキル育成が急務だったのだが、それもあと数日のスキル上げでクリア出来そうだ。


 その後、数日のスキル上げによって私のメインスキルの殆どはカンスト状態となり、全身新装備に一新することが出来た。そしてその間の野良バグモンスターとの戦いで、武器でなくてもバグモンスター製の装飾品でバグモンスターにダメージを与えられる事も判明した。

 まさに順風満帆の日々だったのだが……そんなある日、唐突にその事件は起こった。


「不味い事になった! 凍結処理をしていたはずのハイエンスドラゴンが動き出し、他の凍結されたバグモンスターを捕食して変異を始めている! すまないが、ハイエンスドラゴンの討伐に協力して欲しい!」


 いつも淡々としていて感情の見えないファイさんが珍しく取り乱し、それが事態の深刻さをより鮮明に私達へと伝えた。

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