138. 剛剣 悪鬼
「ナツ、待たせたの。次からはナツとペット達で頑張るのじゃ。危ない時は助けに入る故、思いっきりぶつかって来ると良い」
「はい、分かりました! 危ない時はよろしくお願いします」
そう言って私は少し緊張しながら鏡の前に立った。そして鏡に映し出されたのは、2本の黒い刀を持ち黒い鬼のお面を被った人型モンスターだった。
「ほう、剛剣 悪鬼かえ。此奴は機動力と攻撃力に特化したモンスターでの、1体1の対人戦において無類の強さを誇る奴なのじゃ。しかも、此奴はボスモンスター分類である故HPもそこそこ多い」
「ボスモンスターって事はパルの凍結みたいな状態異常には強いってことでしょうか?」
「そうじゃな。レキのデバフはレジストが効いて効果時間などが減るじゃろうが、パルの状態異常攻撃に関しては完全にレジストされる可能性が高いの」
デバフの中には大きく分けて能力を下げる効果を持つ物と、モンスターの体に何かしらの状態異常を引き起こす物がある。そしてボスモンスターにはこの状態異常に高い耐性か完全無効の特性を持つ者が多く、剛剣 悪鬼も例に洩れずそういった状態異常に強いようだ。
「それと、このモンスターとの戦いではヘイトを受け持つタンクがとても重要なのじゃ。普通のパーティーじゃとタンクが崩れれば、他のメンバーも各個撃破されることになる」
「普通のということは普通じゃないパーティーも居るってことですか?」
「……世の中にはのぅ、対人戦において正に悪鬼の如き強さを誇る半裸のプレイヤーや、機動力に特化し対人戦にも精通しておるプレイヤー、そして……近接戦もそこそこ熟し、3体のペットを巧みに使いあらゆるタイプのモンスターと戦えるパーフェクトテイマーがおるのじゃ」
そう言うとロコさんは冗談っぽくニヤリと笑った。
確かに普通ではないパーティーは存在したようだ。けれど私はその説明に1つ疑問を覚える。
「ミシャさんはどうなんでしょう?」
「彼奴の場合はどのスキルも中途半端じゃからのぅ。いくつもの搦め手により時間稼ぎは出来るじゃろうが、決め手が無い故勝つ事は出来んじゃろう」
私はその説明になるほどと納得した。
そしてその後、モンスターの行動パターンや特殊攻撃などの説明も聞き終えた私は戦闘準備を開始する。
まずはレキ達を呼び出し、それぞれに特製エナジーバーを与える。そして今日ルビィさんから貰った牙を装備して、手足の枷を外した。
「ん? それはハウリング ウルフファングかえ? 叫びスキルの補助装備はそれにしたのじゃな」
「はい、今日ルビィさんから最大強化済みのこの装備を頂きました。……どうでしょうか? 格好良いです?」
「……いや、ナツが装備すると格好良いというよりは可愛いになってしまうの。……と言うより、ナツは格好良いの方が良いのかえ?」
私はその問いに「あ」と小さく声を漏らす。ルビィさんの装備に身を包み続けたことによって、私の嗜好が少しずつそちらの方面に引っ張られているという事実に気が付いてしまったのだ。
私は気まずげに目を逸らし、話を切り替える事にした。
「さて、私の準備はこれでOKです! 前回の戦いでは足りなかったヘイト技が組み合わさった事で、どう戦い方に変化が出るのか実践で確かめてみます!」
「……そうじゃの、精一杯頑張るのじゃ」
色々察したロコさんが切り替えに乗ってくれた。流石の空気読みスキルである。
そうして戦いの準備を終えた私達は、気合いを入れなおして悪鬼との戦いに挑んだ。
……
…………
………………
「よし、じゃあ開幕ヘイト奪取いくよ! アテンション クライ!『来い!』」
叫びスキルを浴びた悪鬼がゆらりと滑るように迫って来る。
「十分ヘイトを奪えたら指示を出すから、みんなは暫く待機でお願い!」
「ワフッ!」「パルゥ!」「くまぁ!」
みんなのやる気も十分なようで、気合いの入った返事が返って来た。それを聞いた私は更にテンションを上げる。
まずはバフ無しでどこまで耐えられるか確かめる。ステータスを底上げしてくれる技能や魔法は便利だが、それに頼り切ってしまえばスタミナやMPの消費も激しくなってスタミナ・MP管理が大変になってしまう。なのでまずは悪鬼と相対する為にはどこまでのバフが必要なのか確かめる必要があるのだ。
悪鬼の攻撃が迫る。私はそれを冷静に弾き、相手の観察を続ける。
――攻撃速度がかなり速い! 刀相手の戦い方は慣れてると思ってたけど、1本と2本じゃ全然違うよ!
移動速度自体はまだ本気の動きではないからか、摺り足による滑るような移動が主でそこまでの脅威ではない。けれど、その2本の刀から繰り出される連続攻撃は脅威だった。
ギンジさんの場合、こちらがどう対応してくるか観察しながら一手一手詰めて来るような戦い方だったが、悪鬼は2本の刀で怒涛の攻め方をしてくる。
私はそれを避けたり弾いたり捌いたりしながら耐えているのだが、耐えるのに手いっぱいで攻めあぐねていた。そこで、私は1つギアを上げる。
「マインドフォーカス! アクセラレーション!」
魔法により私の反応速度と機動力が増し、劣勢だった戦いが少し持ち直す。けれどそれでも攻めに転じる程の状況の変化では無かった。
「レッグ アビリティ アップ! ……レッグ アビリティ アップ セカンド!」
蹴りスキル技能により反応速度と機動力を上げる。それでも届かないと判断した私は更にもう1段上げる。そこまでやって、やっとイーブンな戦況となった。……まだ攻め込めないし、一手間違えばなます切りにされてしまいそうな状況だけど。
そんな拮抗した戦いの中、やっと開幕に行ったヘイト技のクールタイムが明ける。
「アテンション クライ!『来い!』」
2度目のアテンション クライによって更に悪鬼からのヘイトを積み上げた。積みあがったヘイトに煽られてか、悪鬼の攻撃速度が更に上がる。
悪鬼の機動力はいったいどこまで上がるのか……いい加減にしてもらいたい。
「パル、隙を見ながらアイスブリッドとアイスランスをお願い! 他はもう少しだけ待機で!」
「パルゥ!!」
悪鬼との距離が近すぎてパル最大の火力技であるエレメンタルブレスが使えない。そこでパルには弱攻撃による悪鬼の隙作りをお願いすることにした。
パルの魔法によって出現した下からの伸びる氷柱が悪鬼へと迫る。悪鬼は私と戦いながらもそれを察知し、1本の刀で氷柱を叩き切った。……そして私はその隙を見逃さない。
「エッジ キック! スラッシュ! スパイラル エッジ!」
パルが作ってくれた隙を突いて素早い技能を連続で叩き込む。ボスモンスターなだけはあって、弱技ではあまり体勢を崩すことは無かったが、悪鬼の攻撃タイミングは乱せた。
乱れたタイミングには攻撃を差し込める隙が出来る。そこから私はパルと協力しながら少しずつ悪鬼へのダメージを積み重ねた。
そんな戦いが暫く続き、再度ヘイト技のクールタイムが明ける。
「アテンション クライ!『来い!』 レキ、フェアリーハウルで悪鬼にデバフを掛け続けて! ……モカさん、カウントナックル!」
そして戦いは次の段階へと移行する。
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