137. ロコ無双
「ふむ、白亜、ちょっと小突いてくるのじゃ」
「コン」
突然目の前に現れたローズキマイラに私が驚いていると、ロコさんの指示を受けた白亜が私の横をすり抜けてローズキマイラへと体当たりした。そしてグルンと回って9本の尻尾による強烈な攻撃を叩き込む。
体当たりにより体勢を崩され、そこへ強烈な攻撃を受けたローズキマイラは、その火力の高さを示すように遠くへと吹き飛ばされて行った。
「機動力も攻撃力も大幅に向上しておるが、ノックバックがちと強くなり過ぎて面倒じゃのぅ。コンボの掛け方を1から練り直しじゃ」
ロコさんは目の前の光景から思念の宝珠を使った戦い方の考察を始めた。
テイマーとしての立ち回りについて考えているロコさんは、いつもと違った無機質な迫力があって少し近寄り難い雰囲気をまとっている。
「凄い力ですね。思念の宝珠でどのぐらいステータスが上がってるんでしょうか?」
「そうじゃのぅ。全体的に倍近く膨れ上がっておるな。この思念の宝珠の元となっておるペットがパワータイプだったのか、物理攻撃力とHPに関しては元の白亜の2.5倍程になっておる」
「カンストペットのステータスが倍って凄まじいですね……」
「凄すぎて立ち回りを1から練り直す必要が出る程じゃな。……白亜、浄化の炎じゃ」
「コーン!」
私達が話している間にヨロヨロと立ち上がり始めたローズキマイラの足元から白い炎の火柱が立ち上がる。そして炎が鎮火する頃にはローズキマイラは消し炭となっていた。
戦闘が終了するとローズキマイラの居た場所に大きな姿見が出現し、ドロップアイテムを手に入れた通知が入る。ドロップアイテムはノーラメダルが5枚だ。
「戦ってない人にもメダルって手に入るんですね」
「同じパーティーであれば皆に同数のメダルが配布されるのじゃ。敵の強さとパーティーの人数によってドロップするメダルの枚数が変化するが、最低でも1枚は手に入る仕様じゃの。さてナツよ、またあの姿見に触れるのじゃ。それで元の部屋に戻る事が出来る」
「はい」
私はここに来た時と同じ様に姿見に触れる。すると目の前の光景がパッと変わり、元の薄暗い部屋へと戻って来た。
「あとはこの繰り返しじゃ。すまんが後2回ほどわっちに譲って貰っても良いじゃろうか?」
「はい、どうぞどうぞ! 私も思念の宝珠でパワーアップしたロコさんのペットをもっと見てみたいです!」
「すまぬの。残り2体の具合も確かめたらナツの訓練を開始するのじゃ。……ぬぅ、またハズレか。先ほどよりかは硬いが、ヘイガルーでは相手にならぬな」
次の相手は鎧を着た大きなカンガルーだった。
ロコさんは白亜から思念の宝珠を外すと、次に呼び出した薄く黄色に光る大きな虎を呼び出し、その虎に思念の宝珠を装備させる。
この虎の名前は黄月(オウゲツ)。凛々しく雄々しい見た目とは裏腹に、その中身は中々のイタズラっ子で、食後は狩りでもするように私を追いかけまわし、その大きな手で何度も踏みつけられた。けれど、静電気をまとっているためか黄月の毛並みは何時もふわふわで、ぷにぷにしてちょっと香ばしい香りを放つ肉球に踏みつぶされるのはちょっと気持ち良かったりもしたので、私はそれを甘んじて受け入れている。
ヘイガルーと黄月の戦いは先ほどの白亜の戦いと同じで、淡々とした物だった。
黄月から放たれる電気によってヘイガルーが痺れて動けなくなり、その隙に体当たりで吹き飛ばす。その後、倒れ込んだヘイガルーを前足で抑え込み、空から巨大な雷を落としてヘイガルーは消し飛んだ。
ドロップしたコインはローズキマイラと同じ5枚だった。
「う~む、やはり戦力差があり過ぎて検証にならぬな。……おっ! 次は大当たりじゃ!」
そして早々に次の戦闘が始まる。
……
…………
………………
「……ロコさん……このモンスター、大きすぎませんか!?」
目の前に現れたモンスターは特大サイズのゴーレムだった。高さは20メートル以上はありそうで、岩と土で出来たその体のあちこちには青色に光る鉱石が埋め込まれている。
「此奴の名前はリトルマウンテンゴーレムと言っての、その後に戦うマウンテンゴーレムの前座のようなモンスターじゃ。体に埋め込まれておる鉱石によってその特性が違い、此奴の場合は魔法耐性が高いミスリルタイプじゃな」
これでリトルって、その後に戦うマウンテンゴーレムってどれだけ大きいんだ。
今回は3体同時に戦わせるようで、白亜と黄月がリトルマウンテンゴーレムを時々小突きながら走り回り、そのヘイトを受け持っていた。
「光龍、イクスチャージじゃ!」
光龍(コウリュウ)とは空飛ぶ巨大なドラゴンで、その体は白く輝いている。普段はのんびり屋で、食後はとぐろを巻いて私をひな鳥のように抱き込んでよく寝ている。
結構しっかり抱き込まれるのでなかなかそこから抜け出せず、ロコさんに何度か救出された事があった。
そんな光龍はその大きな口をガバっと開けると口の前に白い光のエネルギーを充填し始め、そこには巨大なエネルギーの塊が生み出されて行った。
エネルギー充填が暫く続くと、充填されるエネルギーの色に少しずつ赤色が混じりだす。
「光龍はモカさんと同じ純粋な火力タイプのペットでな、イクスチャージを行うとその後のエレメンタルブレスにダメージ補正が付くのじゃ。……更にイクスチャージを規定値以上に続けると、自身のHPを代償にその攻撃力を大幅に向上させる。思念の宝珠によって上がった攻撃力に、膨大に膨れ上がったHP分を上乗せしたエレメンタルブレスがどれ程の物になるか……楽しみじゃのぅ」
ニヤリと笑うロコさんが少し怖い。
それから更にエネルギーチャージが続くと、それ以上は出来なくなったのかチャージが止まる。
「光龍、エレメンタルブレス!!」
「グォオオオオオ!!」
光龍から巨大な光線が放たれる。そのあまりの轟音と迫力に思わず目を瞑り、攻撃が鳴りやみ静かになってから目を開けた。
そこには光の粒子となって消滅していくゴーレムの姿があった。
「テイマーの神髄とは火力では無いが、圧倒的な火力にはやはりロマンがあるのぅ」
そう言い放つロコさんは、ギンジさんと同じように何かを極めた者のみが持つ凄みのような雰囲気をまとっていた。
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