135. ロコさんとペットロストアイテム
「そういえば、今日のナツの訓練担当はロコさんだったよね?」
新装備の試着を終えて元の装備に戻していると、不意にルビィさんから今日の訓練担当について尋ねて来た。
ちなみに新装備は筋力と機動力のスキルが90を超えて、ギンジさんから借りている手足の枷が必要無くなった段階で使い始める予定となっている。
「そうですけど、何かありましたか?」
「ロコさんのバグモンスター製ペットロストアイテムなんだけど、よかったらナツの方から渡しといてもらえないかしら?」
そう言ってインベントリから取り出したのはソフトボールぐらいの大きさはある水晶だった。
水晶は全体的に青み掛かっていて、中心から青白金の3色の光が渦を巻いている。水晶のアイテム名を確認してみると、そこには『思念の宝珠』と書かれていた。
「……分かりました。今日の訓練の時に、私の方からロコさんに渡しておきますね」
ペットロストアイテム。ペットがロストした際にテイマーへと送られるペットの遺産。
ロコさんは最初、ペットロストアイテムを使う事に難色を示していたが、リンスさんとの再会を契機にリンスさんがいつでも帰って来られるようにとペットロストアイテムを使ってバグモンスターと戦う事を決意した。
そんな経緯を知っているため、ルビィさんからその水晶を受け取る手に自然と力が入る。……これを渡された時、ロコさんはどんな顔をするんだろうか。
……
…………
………………
訓練の時間が来るまでスキル上げ用ダンジョンでスキル上げをしていたのだが、次のバグモンスターとの戦いまでに少しでもスキルを上げようと集中し過ぎていたため訓練の時間ギリギリになってしまった。
私は急いでスキル上げを切り上げて訓練場に向かうと、そこには既にロコさんが来ており、3体のペットを出して何か考え事をしているようだった。
「ロコさん、お待たせしました!」
「なに、わっちが早く来ただけでお主は遅れておらんよ。気にしなくて良いのじゃ」
「よかったです。……えっと、ロコさんは何をやってたんですか?」
「うむ、今後のバグモンスターとの戦い方について少し考えておってのぅ。これまではペットによる攻撃手段が無かった故、連携が取りやすく攻撃以外においても活躍の場が多い白亜を使っておったのじゃが、これからはペットロストアイテムによって攻撃手段を得られるやもしれんからの。今後の運用方法について考えておったのじゃ」
ロコさんの言葉からルビィさんから受け取っていた物の事を思い出し、インベントリから思念の宝珠を取り出した。
「ロコさん、これルビィさんからです」
「ほう、思念の宝珠かえ……これはまた凄い物を用意しよったのぅ」
「このアイテム、他のペットロストアイテムと比べて凄い物なんですか?」
「うむ、思念の宝珠はそれ単体でも大当たりのアイテムなのじゃが、思念の宝珠はその中でも当たりはずれが出る特殊なアイテムなんじゃよ」
思念の宝珠、それはレベル80以上のペットがロストした際に低確率でドロップするペット用装備アイテムで、その効果は元となったペットのステータスに応じたステータスアップ装備となっている。
そしてこの思念の宝珠のもう1つの特徴は、元となったペットのステータスから反映される効果量が3段階のランダムであることだ。一番高い物で3割、次いで2割の場合と1割の場合があるらしい。
「思念の宝珠は最大2回の強化が可能での、このステータスアップ量からして恐らくカンストペットの当たり物を3つ使こうておるの……あまりペットロストアイテムに値段を付けたくは無いが、恐らくオークションに出せば200Mは余裕で超えるじゃろう」
――200M。現在のレートで1Mが1万ぐらいだって以前ロコさんが言ってたから、これ1個で……いや、これ以上考えるのは止めよう。
あまりの値段に愕然としてしまったが、今はそれ以上に気になる事がある。
「あの、つまり思念の宝珠には3体分のペットロストアイテムが使われているって事ですか?」
「そういう事じゃの。……この世界の為、有難く使わせてもらうのじゃ」
そう言ってロコさんは複雑そうな顔で思念の宝珠を握りしめた。
ペットロストアイテムを使う事を決めたロコさんではあるが、やはりいきなり割り切る事は出来ないのだろう。私だってこのアイテムに名も知らぬ3体のペットの遺産が使われているだと考えると、少し複雑な思いを抱いてしまう。
「こんな雰囲気になってはいかんの! 貴重な物を託されたのじゃ。次の戦いではわっちも気合を入れて挑むのじゃ!」
「そうですね! 私も新装備が出来上がったので、次の戦いでは頑張りますよ!」
「うむ、その意気じゃ。……そうじゃ、今日向かうノーラ神殿では最初にわっちが戦って良いかの? この思念の宝珠とペットとの相性を見ておきたいのじゃ」
「分かりました。私も思念の宝珠で強化された白亜達がどんな戦いをするのか興味があるので、最初は後ろで観戦してますね」
少ししんみりとしてしまった雰囲気を気合で吹き飛ばし、私達はノーラ神殿へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます