134. ルビィの最高傑作『神化』

「やぁ、ナツ! 今日はナツの驚く顔を見に来たわよ♪」

「うっ、お手柔らかにお願いします」


 新装備が完成したと連絡を貰った翌日、ルビィさんがその新装備を携えてやってきた。

 ルビィさんは普段落ち着いた大人な雰囲気を持つちょっとボーイッシュなお姉さんなのだが、こと衣装に関連することでテンションが上がるとガラリと別人のように豹変してしまう。そして今のルビィさんは既にフルスロットル状態だ……一体今から何が出て来るのか。


「まずは現物を見せる前に、今回の装備コンセプトについて説明するわね。今回の装備コンセプト、それは……神化よ!」

「じんか? ……あぁ、神に化けるで神化ですか?」

「そう、その通り! この前のナツの戦闘映像を見て、ナツの使う毘沙門天の効果についてファイさんから詳しく聞いた時に私は神の天啓を受けたの! そう、『ナツを変身ヒロインにするのだ』ってね!」


 ――変身ヒロインを作り出すように指示する神ってどんな神だ。

 

 内心そんなツッコミをしながらも、ルビィさんの説明を聞き続けた。

 私の使う毘沙門天は装備類の持つデバフ効果を反転させる効果を持つ。つまり、強力なデバフ効果を持つ装備を大量に身に着けた方がより毘沙門天を使った時に強くなれるのだ。

 けれど、ここで問題が1つある。普段はデバフ装備をそんなに身に着けて戦うことは出来ないため、毘沙門天を使う際に全身の装備をデバフ装備に変更する必要があるという事だ。最悪、装備変更の隙を作れず毘沙門天を使う事が出来なくなってしまう事も考えられる。

 

「それに今ナツが装備してるデバフ装備も、各スキルが90まで上がっちゃえば普段使いする必要も無いからね。余計に毘沙門天を使う際の装備変更に掛かる時間が増えちゃうのよ」

「確かにそうですね。深淵のスティグマはMP自然回復量上昇のバフもあるので普段使いするかどうか悩ましい所ですけど、手足の枷は確実に普段使いはしないです」

「でしょ? そこで私はその問題点を解決する秘策を思い付いたの。それがこのアイテム、『時戻しの懐中時計』よ」


 『時戻しの懐中時計』、それは懐中時計に全身装備を記録させ、懐中時計を起動すると記録した全身装備に切り替えるアイテムらしい。ただし、そんな便利アイテムには当然のようにデメリットが存在する。そのデメリットとは、記録した装備の総レアリティに応じたコスト分、変更前の装備を破壊するという物だ。


「変身後の装備は全身最大強化の課金装備になってるから、変身コストがとんでもないのよ。そしてそんな変身コストを補うためにこんな装備を作ったわ」


 それは私にとってとても馴染み深い物……鎖付きの手枷と足枷、そして首枷だった。


「これは高難度ダンジョンで低確率ドロップする鉱物で作られていて……まぁ、ぶっちゃけるど、この3つの装備だけで3Mはするわね」

「3Mですか!? ……それを壊すんですか? 1回変身する毎に?」

「そう、材料費運営持ちじゃなきゃ絶対やろうとは思えないコストね」


 私の感性から言えば、材料費運営持ちでもやろうと思えないコストだ。


「それで普段使いの装備なんだけど、ナツの戦闘スタイルに合わせた最上位素材で作り直してるから耐久力向上や追加バフ効果とかあるけど、見た目は同じにしたの。枷も今までの物からコスト支払い用に変更するだけだから見た目はほぼ同じね」

「スキルが90になっても枷からは逃れられないんですね。まぁ、でも今までより更に奇抜にならないだけ良かったのかな。……ん? ほぼ?」


 私がその『ほぼ』という文言に引っかかりを感じルビィさんを見ると、ルビィさんはにっこりと笑ってあるアイテムを手渡してくる。……それは牙だった。


「これは『ハウリング ウルフファング』って言ってね。前ナツが要望してた叫びスキルの効果量に補正を掛けるバフ装備よ」

「確かに私が希望してた装備ではあるんですけどね……うん、首輪や動物耳よりは良かったのかな?」


 想像していた物よりかはまだ大人しい変化だったので、許容範囲内だろうと納得した。後になって気付いたのだが、私は既にルビィさんの装備に慣れてしまい許容範囲がガバガバになっていたのだ。


「それじゃあ、次は変身後の装備に着替えちゃいましょうか♪」


 にこにこのルビィさんに促され、私は次々と手渡される装備に着替えていった。


 ……


 …………


 ………………


「いやいや。……いやいやいやいや。流石にこれは駄目でしょ!?」


 私の今の姿を指してルビィさんに訴える。流石にこの恰好はない。

 

 元々装備していた『深淵のスティグマ』『封印の手枷』『封印の足枷』はまぁいいとして、その他が酷かった。


 ・どこかの野球少年が大リーグボールを養成するギプスのような、バネ付きの上下服

 ・見るからに曰くつきの怪しい雰囲気を醸し出す、指輪やネックレスやピアス

 ・黒いレザーベルトを巻き付けた目隠し


 これは奇抜どころではなく、どう見ても戦う服装ではない。レザーベルトの目隠しは一応見た目だけで、着けても前が見える仕様になっていたが、それでもこれを着けて戦う様は想像しづらい。


「大丈夫よ。これはあくまで前段階。この上から更にテクスチャ装備を着けてもらうわ」

「テクスチャ装備って確か、ロコさんが使ってる見た目だけ変更出来る装備でしたっけ?」

「そう、それ。ロコさんも全身色んな課金装備で固めてて見栄えが悪くなってるから、その上からテクスチャ装備を着てるのよ。だからナツも全身にデバフ装備を着た状態で、更にその上からテクスチャ装備で見た目を変えるってわけ」


 そう言ってルビィさんは次々と自作デザインのテクスチャ装備を手渡して来て、私は促されるままその装備を着けていった。

 そして最後の仕上げとして毘沙門天を使用する。


「……完璧だわ! これが今の私が作れる最高傑作よ!!」

「…………」

 

 ちょっと格好良いと思ってしまった事が悔しい!

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