127. ルビィさん、神の天啓を受ける

 スタン状態となって目を回しているメナスホーンブルに怒涛のラッシュ攻撃を仕掛ける私とシュン君。私は短剣スキルのラピッド ラッシュを使い、シュン君は蹴りスキルのストライク ラッシュ使うことでその機動力をどんどん上げていった。

 そこで私はふと気付く……シュン君の攻撃からダメージエフェクトが出ていない。当然だ、それがバグモンスターの特性の1つであり、バグモンスターにダメージを与える為には私のようにバグモンスターのバフを受けるか、バグモンスター素材の武器が必要なのだ。


 ――どうしよう、シュン君もしかして気付いてない? いや、でも、何か考えがあるのかも……。


 シュン君に何か考えがあるのかどうかを聞くか迷っていると、事態が動き出した。メナスホーンブルのスタンが解けたのだ。


「スタンが解けましたね。ここからは僕がメナスホーンブルの動きを止めますので、ナツさんはそのまま攻撃をお願いします」

「え!? う、うん」


 確かメナスホーンブルの動きを止める手段を持っていないと言っていたと思うのだが、シュン君はどうやって動きを止めるつもりなのだろうか。

 私がそんな疑問を抱いていると、シュン君はコンボを切らさないように攻撃を続けながらシステムウィンドウを操作して足の装備を変更した。それは機械で出来たブーツのような装備で、明らかに何か特殊効果を持っていそうな装備だった。


「これはブローユニットと言って、昔あったアニメのコラボイベント限定装備なんです。そして、その効果は……ノックバック効果の増大です!」


 シュン君はメナスホーンブルの胴体部分から頭の方へと一瞬で移動し、顔を上げようとしていたその頭を踏みつけた。するとバヒュンッという効果音と共に強い衝撃が入り、メナスホーンブルの頭が下へと押し付けられる。

 その後はその繰り返しだ。メナスホーンブルが動きを見せて起き上がろうとする度、シュン君がそこへ移動し攻撃を加える。装備による強力なノックバック効果と、シュン君の高機動力から繰り出す連続攻撃によってメナスホーンブルはスタンから回復したのにも関わらず、全く起き上がれないでいた。


 シュン君は攻撃の為に火天とストライク ラッシュで機動力を上げていたのではなく、すぐにスタンから回復するであろうメナスホーンブルを押さえつける為に機動力を上げていたのだ。


「いくら機動力を上げてこの装備で蹴っても、立っているメナスホーンブルの動きを完全に止める事は出来ませんでしたからね。ナツさんが横転させてくれたお陰で、僕も役に立てそうです」


 そう言って次々と攻撃を叩き込みメナスホーンブルを完封するシュン君。私のお陰と言うが、その戦い様を見ると私が横転させなくても何かしらの手段でメナスホーンブルの動きを止められたのではないかと思ってしまう。


「ナツさん、データ保護が効いている間に削り切れそうですか? 保護が切れてもこのまま押さえつけ続ける事は出来るとは思いますけど、安全性を考えると倒しきるのがベストなんですが」

「……うん、大丈夫。今十分な火力が溜まった! ここから一気に畳みかける!!」


 私はインベントリからエナジーバーを取り出す。これは最後の追い込みが必要な時の為に取っておいた切り札。

 バフ料理は満腹度が100%になるとそれ以上食べる事が出来ず、効果時間の兼ね合いもあって今まで使う事が出来なかった。そして私が今手に持っているエナジーバー『HP常時減少。筋力上昇』を最大限活かす為には茨の短剣による回復効果を一定ライン以上に高める必要があったのだ。

 私は攻撃の手を緩める事なく、エナジーバーを食べてはインベントリから次のエナジーバーを取り出してを繰り返し、合計8本のエナジーバーを食べた。……そして。


「気合いだー!!!」


 もはや私の定番の掛け声となってしまったセリフを叫び、全力でメナスホーンブルを切り裂き続けた。

 8本のエナジーバーは強力なバフと共に私のHPを大きく削り続ける。けれど、茨の短剣による回復効果によって減少するHP以上にHPが回復していく。あとは茨の短剣による攻撃力上昇効果とラピッドラッシュによる機動力上昇効果によって、私の火力は更に燃え上がる。


「ワフッ!」

「!? レキ、ナイス!!」


 丁度その時、レキのフェアリーハウルのランダムデバフ効果によってメナスホーンブルに物理耐性減少(大)が付与された。

 上がり続ける火力とレキによるデバフ効果で与えるダメージ量は格段に上がり、メナスホーンブルのHPは凄い勢いで削れていく。

 

「これで、お終いだーーー!!」


 そして、遂にメナスホーンブルのHPを削り切る。倒されたメナスホーンブルは光の粒子となって霧散していった。


「お疲れ様です。最後の追い込みは凄かったですね」

「うん、シュン君もお疲れ様! シュン君も凄かったよ。動きが全然見えなかったもん! レキとパルもお疲れ様。2人共大活躍だったよ♪」

「ワフゥ♪」「パルゥ♪」

 

 私達がお互いの健闘を讃え合っていると、そこへファイさんからの通信が入る。

 

『ナツ君、シュン君、よくやってくれた。今日のバグモンスターとの戦闘はこれで終わりだ。すまないが、ドロップアイテムの回収と2人のキャラデータに破損が無いかチェックをしたいので会議室まで来て欲しい』


 私達はそれに従い、ギルドハウスの会議室へと向かった。

 

 ……


 …………


 ………………


「ナツ、いい戦いぶりだったぞ。全体的に戦い方が様になってきたじゃねぇか」


 バグモンスターとの戦いが終わりギルドハウスの会議室へと向かった私は、目の前の光景に絶句する。


「ありがとうございます。……えっと、この状況について教えてもらっていいですか?」

「この状況?」

「巨大モニターで私達の戦闘シーンが現在進行形で再生されてる事と、ギンジさんが羅刹天を発動してる事と、何故かルビィさんが居て猛烈にスケッチを描いてる事ですよ!!」


 会議室内で流されている私達の戦闘シーン。何故か羅刹天を発動しているギンジさん。ギンジさんと映像を食い入るように見比べながら何かスケッチを描いているルビィさん……この空間でいったい何が行われているのか全く分からない。


 そしてその説明はギンジさんではなくファイさんが代わりにしてくれた。

 今流している戦闘映像はバグモンスター調査の為の物で、ギンジさんの戦闘も含めて記録していたらしい。そして、先にバグモンスターとの戦いを終えてファイさんにその事を聞いたギンジさんが、私の戦闘映像を見たいと頼んで会議室で鑑賞会が始まったそうだ。

 更に丁度その時、私の新装備予算について相談しにきたルビィさんも私の戦闘映像に興味を持って鑑賞会に参加する事に。そこで私とシュン君の十二天姿を見たルビィさんは「ギンジさんのも見たいから今すぐ変身して!」と懇願し、今に至ると言う……。


 戦闘映像とギンジさんの姿を見ながら凄い勢いでスケッチブックに何かを描き込んでいるルビィさんが不穏過ぎる……。


「ナツ!」

「ふぁい!?」


 私がルビィさんから何やら不穏な気配を感じていると、突然ルビィさんはスケッチブックに描き込む手をピタッと止めてグルンと勢いよく振り返り私の名前を叫んだ。……ルビィさんの目が凄く怖い。


「私は今、神の天啓を受けたよ!」

「て、天啓ですか?」

「そう、これは正に神の天啓! 十二天シリーズ……神……変身……そう、変身なんだよ! ナツ、何でもっと早く変身シーンを見せてくれなかったの!?」

「そんな事言われましても……」


 見せてくれなかったのと言われても、何の理由も無しに突然ルビィさんの前で毘沙門天を発動する訳もなく、私は今何故怒られているのか分からなかった。


「私としたことが、ナツのこんな素質を見落とす何て……一生の不覚! ナツが……変身ヒロインだったなんて!!」

「……今、何て言いました?」


 ルビィさんは私の問いに答えることなく、会議室を飛び出して走り去ってしまった。


 ――……よし、忘れよう! ちゃちゃっとバグモンスターのドロップアイテムをファイさんに渡して今日はもう休もう!


 超特大の不穏な気配を感じた私は、思考力を手放す事にした。

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