128. 私に足りない物
「昨日は済まなかったのじゃ。どうしても断れん急な仕事が入ってしまってのぅ」
「いえ、お仕事なら仕方がないですよ。それに私も昨日は色んなバグモンスターとじっくり戦う事が出来て、学んだ事や逆に自分に足りないと分かった事もあったので、収穫の多い1日でした」
運営が捕えている複数のバグモンスターと戦った翌日、私は今自分の部屋でロコさんとお茶をしている。
今日は元々ギンジさんとの訓練がある日だったのだけれど、バグモンスターとの連戦で疲れているだろうというファイさんの意見で今日はお休みの日となった。
それで、今日はとくに予定は入っていないというロコさんとお茶会になったのだ。ちなみにロコさん手作りの美味しいお菓子付きである。
「ほほぅ、自分に足りない物とはなんじゃ? スキルという事であれば、それはじきにカンストするじゃろうから気にせんでも良いと思うがの」
「いえ、昨日の戦いで私に足りないと実感したのは実践経験ですね。これまでスキルを上げる為や訓練の為に効率の良い特定のモンスターと戦ってきたんですけど、プログレス・オンラインには多種多様なモンスターが居て、私はそんな中でも戦った事があるモンスターが少なすぎるなと実感したんです」
昨日の戦いは、バグモンスターが出現した時点でシュン君が元になったモンスターの説明をしてくれた。そのお陰で攻略に迷うことなく戦うことが出来たけど、本来の実力であればもう少し苦戦していたと思う。
「確かにのぅ。普通の場合じゃったら少しずつ強くなって、装備の充実具合も加味して行動出来る範囲を広げていく。じゃが、ナツの場合わっちらが効率重視で連れまわしてしまった所為で、本来その強さを得るまでに身に付けているであろう知識や経験をすっ飛ばしておるからのぅ」
「レジェンダリー・アントヴァンガードの時がそうだったんですけど、バグモンスターってダメージ無効やデータ破壊以外にも元になったモンスターに無い特性を持つ場合があります。そういう時に色んなモンスターとの戦闘経験があれば、戦い方の最適解も見つけやすいんだろうなぁって考えちゃうんですよね」
レジェンダリー・アントヴァンガードのバグモンスターは、元となったモンスターの特性に加え、捕食した相手の力を吸収する能力をもっていた。あの時は女王蟻の特性を知っていた皆のお陰ですぐに対策を立てることが出来たけれど、私だけだったら絶対に対策を練る事は出来なかっただろう。
私の話を聞いたロコさんは腕を組み「そうじゃのぅ」と考え込みだした。
「うむ、では今度のわっちとの訓練はノーラ神殿で行うのじゃ」
「ノーラ神殿ですか?」
ロコさんはその後、ノーラ神殿について詳しく説明してくれた。
ノーラ神殿とは天空島という所にある巨大な神殿で、神殿の中にはノーラの鏡という物があるらしい。そしてその鏡に自身の姿を映すと、映った者がこれまでに倒してきたモンスターがランダムで1体出現するそうだ。
鏡に写れるのは最大5人パーティーまでで、出現するモンスターは映った者のスキル値や装備を加味して倒せる範囲内のモンスターが選ばれる。そして出現したモンスターを倒すと、倒したモンスターの強さに応じてノーラメダルというアイテムをドロップし、ノーラ神殿に居る神官に渡すと枚数に応じたアイテムと交換出来るらしい。
「以前その交換ラインナップにクリスマスイベント限定アイテムが陳列されたことがあっての、その時は急遽仕事を定休日にして30時間程ノーラ神殿に籠ったものじゃ」
「30時間は凄まじいですね……。つまり、そこにロコさんと行けば、ロコさんと私が倒したことのあるモンスターがランダムで出て来るってことですね」
「そういう事じゃの。ちなみにわっちはプログレス・オンラインに居る全てのモンスターを倒した経験があるからの。ランダムじゃから効率は確定しておらんが、運が良ければナツの実践経験を一気に伸ばせるじゃろう」
流石ロコさん、期待を裏切らない実績の持ち主である。恐らくギンジさんも全てのモンスターを倒していることだろう。
という事で、次のロコさんの訓練はノーラ神殿へ行くことが決まった。
「……それとのぅ、ナツ。あえてツッコまんかったんじゃが……この部屋の惨状はどういうことじゃ?」
「あはは……、えっと、その……色々忙しくて?」
ロコさんが目を向ける先にある惨状。
部屋の隅に積み上げられた木製床パネル。無造作に置かれているだけで機能を果たしていない家具の数々。……そう、買ったはいいが、床パネルを敷き詰めたり家具レイアウトを考えるのが面倒臭くなって放置状態になっていたのだ。
私はジトっと見つめて来るロコさんからそっと目を逸らした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます