125. バグモンスターラッシュ 2
「うん、やっぱり今のナツさんであれば問題ありませんでしたね」
「実は自分でもちょっとビックリしてる……今まで自分1人では倒せないような強敵ばかりと戦ってきたけど、私ちゃんと強くなってるんだね」
私はかつての強敵との戦いを振り返り、自分の成長をしみじみと感じていた。
「丁度いいので、今日はナツさんの実践訓練という事にしましょう。今から短剣の使用は不可で、基本攻撃は蹴りだけでやってみて下さい」
「了解。実は最近ダンジョンで蹴り技の練習をやってたんだ。私がどれだけ成長したか師匠に見せてあげる!」
私はわざとらしく胸を張り、冗談交じりに宣言した。
そして丁度その時、次のバグモンスターが出現する。
「ミドルスパイダーですね。口から糸を吐いて相手の動きを阻害し攻撃を仕掛けて来るモンスターです。ただ、その動きは遅いので、正面に立たずに攻撃を仕掛ければ問題なく倒せます」
目の前に現れたバグモンスターは軽自動車ぐらいの大きさの蜘蛛だった。細部はデフォルメされているため嫌悪感は無いけれど、もしこれがリアルな見た目の大きな蜘蛛だったらと想像すると背筋が凍る。……ここが全年齢対象ゲームの世界で良かった。
私はミドルスパイダーの正面に立たないようにその巨体の側面に位置取りし、攻撃を仕掛ける。
「レッグ アビリティ アップ! エッジ キック! プッシュ ストライク!」
レッグ アビリティ アップは機動力と回避を向上させ、更に蹴りダメージ上昇効果を付加する技能だ。私は自身にバフを掛け、蹴りスキル技能を叩き込む。
ミドルスパイダーはのそのそと動き私を追おうとするが、その動きはあまりに遅く私を捉える事は出来なかった。そしてその間にも私は着実にダメージを積み重ねていく。
「エアウォーク! ……からのメテオ スタンプ!」
エアウォークは空中ジャンプ技で、蹴りスキル値によって連続ジャンプ回数が変わる。ちなみに私の今の蹴りスキルは56で連続で2回までジャンプする事が出来る。
そして止めの為に繰り出したメテオ スタンプ。これは空中から地面に踏みつける技能で、技能を繰り出す際の高さによってダメージ量が変わる。
それまでの蓄積ダメージと2段ジャンプから繰り出したメテオ スタンプによって、ミドルスパイダーは光の粒子となって霧散した。
*
「次はワイト パンチャーですね。そこそこ手数の多いモンスターですけど、ナツさんなら気を抜かなければ当たることは無いと思います。それと、時々溜めの構えを取って強攻撃を仕掛けてくるんですが、単なる隙でしかありませんので攻撃を仕掛けるチャンスです」
ワイト パンチャー、それはボクシンググローブを着けた骨だった。シュン君の言う様に多少攻撃速度が速く手数の多いモンスターだったが、それは猿洞窟の黄猿程度の物であり、今の私から見ると少々物足りないレベルだ。
私はワイト パンチャーの攻撃を捌きながら蹴りを叩き込み着実にダメージを稼いでいく。そんな攻防に痺れを切らしたのか、ワイト パンチャーは少し重心を下げ、肘を引いて強攻撃の構えを取る。確かにこれは隙でしかない。
「ストライク ラッシュ!」
ストライク ラッシュ、それは短剣技能であるラピッド ラッシュの蹴り版だ。コンボ数によって機動力が上がる連撃技。ただし、コンボにカウントされるのは蹴りだけであるため他の武器との併用が出来ない。
私はシュン君から教えて貰い、トリックパンプキンとの実践訓練で身に着けた蹴り技を次々と叩き込んでワイト パンチャーのHPを削り切った。
*
その後もヘビ型、鳥型、巨大ネズミ型のバグモンスターを倒していく。戦う前にシュン君から簡単なレクチャーを受けながら戦っているので、想定外の攻撃に不意を突かれることもなく安定して戦うことが出来ていた。
『今日の戦闘は次で最後だ。最後のバグモンスターはメナスホーンブル。これまでのモンスターより1段強いモンスターなので気を付けてほしい』
――メナスってことはバフ食材のある『猛威の樹海』のモンスターだよね。……うわぁ、絶対強い奴だよぉ。
あの樹海のモンスターはどれも巨大で強い。しかもメナスホーンブルなんて名前のモンスターと出会った事は無いので、恐らく私が行ったことがある所より更に奥のモンスターなのだろう。
「メナスホーンブルですか。これは巨大な牛型のモンスターで、耐久力・機動力・攻撃力がかなり高くてやっかいな奴です。訓練はここまでにして普通に戦いましょう。僕も今回は参戦しますね」
やっぱり次のモンスターはかなり強いようだ。私は両手に短剣を握り、レキやパルと共に戦闘態勢を取る。……そして本日最後のバグモンスターが出現した。
「……ねぇシュン君。このモンスター大きすぎない!? 絶対2人で倒すようなモンスターじゃないよね!?」
「見た目は強そうですけど、このサイズのモンスターとしては弱い方ですね。巨大モンスターを相手にしたパーティー戦闘の練習台としてよく活用されるモンスターです」
目の前に出現したモンスターは、以前戦ったレジェンダリー・アントヴァンガード並みの大きさをしていた。鼻息荒くこちらを睨んでいるそれはとても強そうだったのだが、シュン君曰く巨大モンスターにしては弱い方らしい。
――お父さんもお母さんも、私がゲームでどんな戦いをしているのか知ったら驚くだろうなぁ……。
巨大モンスターを見上げながら、私は現実逃避気味にそんなことを考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます