124. バグモンスターラッシュ 1

 ミシャさんの訓練が行われた日から数日、私はエナジーバー作りやスキル上げ、師匠達からの訓練など忙しい日々を過ごしていた。

 そして遂にその日がやって来る。


「今日は事前に告知していた通り、運営側で捕えているバグモンスターの駆除をやってもらう。……だが、少々予定が変わった。ロコ君とミシャ君が急な仕事で来れなくなってしまった為、今日は比較的弱いバグモンスターを駆除してもらい、上位モンスターに関しては後日改めて戦ってもらうことになった」

 

 ロコさんもミシャさんも社会人であり、リアルではお仕事がある。こういう時、私が不登校であり、とてもズルいことをしているのだと突き付けられてしまう。

 学校でレキの死をクラスメイト達から責められてから私はもう十分逃げて来た。レキ達やロコさん達、そしていつも私の事を心配してくれているお父さんとお母さんのお陰で私は十分立ち直れたと思う。もう立ち向かわなくてはいけない時期が来ているのだ。


 ――ハイエンスドラゴンのバグモンスターを倒したら……学校へ行こう。


 そんな決意を新たに、まずは目の前のバグモンスター戦をしっかり熟そうと気合を入れる。

 今日はロコさんとミシャさん抜きで、私とギンジさんとシュン君の3人でバグモンスターと戦う事になるようだ。何だかんだこの組み合わせは初めてかもしれない。

 ちなみに今回と次回で、運営が捕えているバグモンスターのうち研究用の数体とハイエンスドラゴン以外のバグモンスターを全て駆除するとのことだ。


「今回は俺もバグモンスターへの攻撃手段を持ってるんだ。雑魚相手に3人は必要ないぞ?」

「ふむ、確かに3人で戦うには効率が悪いな。……ならば二手に分けてバグモンスターと戦ってもらおう。ギンジ君は1人でも問題は無いだろう。ナツ君はシュン君と協力してバグモンスターの駆除をお願いする」

「はい、分かりました」


 という事で私はシュン君と二人でバグモンスターと戦うことが決まった。


 ……


 …………


 ………………


「運営が捕えてるバグモンスターってどんなモンスターが居るんでしょうね」

「う~ん、ファイさんはレジェンダリー・アントヴァンガードを大したことないモンスターとしてカテゴライズしてるみたいだから、正直今日戦う予定の”比較的弱い”っていうのもあんまり信用してないんだよね……」


 あれは私にとって十分に強敵だったのだ。私とファイさんとの間に大きな認識の隔たりがある以上、今日の戦いも油断出来ない。

 

 ちなみに今私達が居るのはバグモンスター用の隔離エリアで、ゲームとは物理的に切り離されているエリアの為、ここでならバグモンスターが暴れてもゲームには何の支障もないらしい。


『ナツ君、安心して欲しい。今日戦うモンスターはどれもナツ君のステータスからみれば十分に倒せるモンスターばかりだ』


 今この場に居ないファイさんの声が耳元に響く。

 実は今回、ファイさんからのサポート用アイテムとしてカフス型の通信機を貰っていた。これは一般には出回っていないアイテムで、私達エイリアスのメンバーだけが所持している特別製アイテムだったりする。


『それでは1体目の凍結を解除するので、君達の準備が出来たら声を掛けてくれ』

「分かりました」


 私はレキとパルを呼び出し、レキからバフを掛けて貰う。そして自身も含めて全員にバグモンスター対策アイテムを使用した。これで1時間はバグモンスターの攻撃でキャラデータが破壊されることは無くなる。

 モカさんとも一緒に戦いたかったが、デバフ効果を持つパルとは違いモカさんは純粋な火力職だ。ダメージを与える手段をモカさんが持っていない現状、あまり戦闘の役に立てないため今回はお留守番となった。

 ちなみに現在私は手足の枷を外している。流石にバグモンスター相手に枷着用は危険過ぎるからだ。


 私とシュン君の準備が完了し、ファイさんに準備が整ったことを伝える。すると1体目のバグモンスターが姿を現した……。


「一体目からこれですか! こういうのってオチにやるもんじゃないでしょうか!?」


 1体目のモンスターは以前シュン君と出会った森で遭遇したモンスター『ゲヘナビー スカウト』だった。


「ナツさん、落ち着いて下さい。今のナツさんの強さならこのモンスターは脅威ではないはずです。まずは軽く戦ってみればすぐ分かりますよ」


 ゲヘナビー スカウトの出現に私が慌てていると、シュン君が冷静な声で私に言い諭してくれた。

 確かにそうだ。あの時とは装備もステータスも全く違う。今の私なら十分に相手が出来るはずだ。……けどやっぱり怖いなぁ。


 私は短剣を構え、ゲヘナビー スカウトが襲って来るのを待ち受けた。このモンスターはスピード型で、敵を発見すると真っすぐ突っ込んでくるはずだ。

 私がそう予測して待ち受けていると、相手は予想通り真っすぐ突っ込んで来た。けれどその速度はあまりに遅い。

 以前戦った時はかなり早いモンスターで、そのスピードに苦戦を強いられてきた。けれど、あれから私は機動力スキルも回避スキルも大きく成長しており、更に言うとルビィさんに作ってもらった極視のコンタクトによって私の反応速度は大きく向上しているのだ。


 私は突っ込んでくる敵に臆する事なく、逆に相手の方へと走り込んでいく。するとそれを見たゲヘナビー スカウトは怯みスピードを落とす。


 ――そうだよね。獲物だと確信していた相手が勇ましく突っ込んで来たら、そりゃあ驚くよね。


 私は相手の行動からその心理を読み取り、ここからの戦い方の大筋を決める。


「スピリットシャウト『喝っ!』 スラッシュ! スパイラルエッジ! バックスタブ!」

「ギィイイイ!!」


 怯むゲヘナビー スカウトにスピリットシャウトを浴びせて動きを止め、その隙にスラッシュとスパイラルエッジを叩き込み、すぐさま相手の背後へと回り込んでバックスタブで止めを刺した。

 かつて強敵だと思っていたモンスターはもはや敵ではなく、私は自分の成長ぶりを実感することが出来た。

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