122. トリックパンプキンダンジョン

「ふぅ~、試食会無事に終わって良かった。概ね好評だったけど……」


 試食会が終わった後、エイリアスのメンバーはそこで解散し、私は自分の部屋で今日の試食会について振り返っていた。

 効果については文句無しだったのだけれど、味についてはギンジさんから甘すぎるという意見を貰った。ここら辺は好みの問題もあるし、現にギンジさん以外からは悪い意見は出なかった。……けれど、性格上1つのマイナス意見も凄く気になってしまうのだ。


「ギンジさん用に味を改善した物も用意した方がいいのかなぁ」


 好みに合わせて味にレパートリーを増やした方が良いのか悩んでいると、不意にフレンドメールの着信音が響いた。


「えっと、差出人はファイさんからか……あ、もう新しいダンジョンが出来たんだ!」


 フレンドメールの差出人はファイさんからで、内容は先日要望を出した叫びスキル上げ用のダンジョンが完成した事に対しての報告メールだった。

 ダンジョンへの扉は今までのダンジョン扉と同じ所に設置してあるとの事だったので、私はすぐにダンジョン扉を設置してある部屋へと向かった。


 ……


 …………


 ………………


「おお、本当にダンジョンへの扉が1枚増えてる!」


 そういうメールを貰っているので当たり前の事ではあるが、自分専用のダンジョンが1つ増えてるのを実際に見ると感動してしまうのだ。

 

 今回増えたダンジョンは『トリックパンプキンダンジョン』。ハロウィンイベントでのみ出現するトリックパンプキンという名のモンスターが多数出現するダンジョンらしい。

 トリックパンプキンの特性は追いかけると逃げて、追いかける事を止めると攻撃してくるというもので。更にその攻撃にはランダムで様々なデバフを付与する特殊効果がある。しかし、トリックパンプキン限定で効果を発揮する『パンプキンキャンディー』を食べると1つにつき1時間トリックパンプキンからのデバフを一切受けなくなるらしい。

 ちなみに本来のイベントではトリックパンプキンを捕まえると1体に付き1枚メダルが貰えて、集めたメダルで限定アイテムと交換出来るという物だったそうだ。


 私はまず部屋に設置してある木箱からパンプキンキャンディーを5つ程取り出し、1つを食べた。それは甘いカボチャ味で、なかなかに美味しい。それからバフが付与された事を確認した後、新しく設置されたカボチャのシルエットが描かれた扉へと入った。


「あれ、トリックパンプキンが居ない? どうすればいいn!?」

 

 ダンジョン内には何も居らず、どうすればいいのかと先へ進んで行くとスパーンという音と共に後頭部に衝撃を受けた。驚いて振り向くと、そこにはカボチャ頭の小人がいた。大きさは私の腰ぐらいまでの高さで、その手にはハリセンを持っている。

 恐らくこれがトリックパンプキンというモンスターなのだろう。そのモンスターを観察していると、また後頭部にスパーンという音と共に衝撃を受ける。

 気が付くと私は沢山のトリックパンプキンに囲まれていた。……そして。


 スパーン! スパーン! スパーン! スパーン! スパーン! スパーン! ……


 視線を向けた先のトリックパンプキンはじっとしてこちらを見つめて来るだけだが、それ以外のトリックパンプキンは一斉にハリセンで強襲してくる。その攻撃にダメージはなく、デバフもパンプキンキャンディーのお陰で防げているのだが、そのハリセンの連撃にだんだんとストレスが溜まっていく。


「だぁーーー!! もう、いい加減にして!! テラースクリーム! 『キャーーー!』」


 テラースクリームとは叫びスキル20で使えるようになる技能で、その効果は死霊系モンスターへと範囲攻撃となっている。

 そう、これこそがこのダンジョンでの叫びスキルを上げる方法。トリックパンプキンはイベント限定のレアモンスターであり、テラースクリームの範囲攻撃をするだけで大量の経験値が入って来るのだ。

 ちなみにこのダンジョンが出来る前から少しずつ叫びスキル上げはしていた為、現在叫びスキルは23まで上がっている。


 叫びスキルは技能に対応した種類の声を出す必要があり、テラースクリームの場合はそれが金切り声になる。声にエフェクトも掛かっており、それは私が出しているとは思えない程甲高い声となっていた。


「トリックパンプキン……いたずらカボチャか。碌なモンスターじゃないな」


 フロッグスターダンジョンとイビルカースツリーダンジョンはひたすらに作業を繰り返す虚無の時間だった。こちらも作業ゲーであることには変わりないが、こちらの方がより悪質だ。

 私はそれからもスパンスパンと何度もハリセンで叩かれ、テラースクリームのクールタイムが終えたらすぐにまた範囲攻撃を放った。HPへのダメージは無いのに精神へのストレスダメージで死に戻りしてしまいそうだ。


 スパーン!


「……もう、スキル上げなんて知らない! 全員、ぶっ飛ばしてやる!! 毘沙門天!!」


 私は叫びスキル上げを無視してトリックパンプキンとの大乱闘を始めた。

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