121. 8種類のエナジーバー

 ルビィさんの紹介の過程で意外な事実が発覚し少し話が横道にそれてしまったけれど、今日のメインテーマは試食会。私は気を入れなおして各メンバーの前の4種類のエナジーバーを乗せたお皿を置いた。


「エナジーバーか。言われてみりゃ普通にあっても良さそうな携帯食だが、何で今まで無かったんだ?」

「当たり前過ぎて見過ごされてたのかもしれませんね。あとはエナジーバーは店売りされてる物ってイメージが強すぎて、自作する案として結びつかなかったとか」

「兵糧丸とかイモリの串焼きはあるのにね♪」


 ミシャさんはニシシと笑いながら目の前にあるエナジーバーをひょいっと摘まみ上げ、クルクルと回しながら表裏を観察しだした。と言うかイモリの串焼きなんてあるんだ……出されても私は絶対に食べないぞ。


「ナツちゃん、さっきは8種類って言ってたけど、残り4種類は出さないのかにゃ?」

「はい、まずは基本の4種類を食べて頂いて、その後に別の4種類を試食してもらおうと思ってます」


 後の4種類はロコさんが考案した私のレシピの進化版なのだ。一度に出すには勿体ない。


「目の前の4種類はそれぞれ効果に合わせたカラーリングをしてあります。機動力が緑、回避が黄色、筋力が赤、魔力が黒ですね。食べてバフ効果を見てみて下さい」


 4人は思い思いに各エナジーバーを食べ始めた。


 ――ギンジさん、折角作ったんだからもうちょっと味わって食べてよ!


「おお! 満腹度の回復量に対して効果時間も効果量もなかなか高ぇじゃねぇか!」

「そうですね。効果時間は20分持続してこの効果量、かなり使い勝手が良さそうです」


 自信の一作だけどやっぱり人からの評価は緊張する物で、バフ内容に関しては高評価を貰えて一先ず安心した。後は味がどうか。


「私、戦闘は全然しないからバフ料理を食べた経験が殆ど無いんだけど、これ美味しいわね。バフ関係無しに携帯食として欲しいよ」

「そうか? 味に関してはちと甘すぎるな。もう少し甘さを抑えることは出来なかったのか?」

「我儘を言うでない! これでも大分食べやすく改良したんじゃぞ。これ以上はその者の好みの問題になってくる故、このぐらいで十分じゃ」

「そうだねぇ。私はパフォーマンスであともう少しステータスが欲しい時用に効果の高い兵糧丸を食べてるんだけど、それがメチャマズでさぁ。効果量的にこっちに乗り換えられるから一般販売されるのなら速攻で切り替えるよ♪」


 味に関しても合格ラインの様だ。ギンジさんにとっては甘すぎるようだけど、そこは個人の好みの話になるので我慢してもらおう。


 それぞれのエナジーバーを食べて貰い、なかなかの好感触に安堵した私は次の4種類を出す事にした。

 新しく出した4種類は先ほどと同じ色分けがされている。ただし、同じなのは上半分だけで下半分は全部紫色になっている。


「何だこれは? 上半分はさっきのと同じ色分けになってっからバフ対象のステータスは同じなのか? 下半分の紫は何だか毒々しいな」

「まぁ、毒じゃからな」

「ぶふぁっ! おい、ロコ! HPが減り始めたぞ!」

「忙しない奴め、説明を聞いてから食せば良かろうに」


 私が次の4種類のエナジーバーの説明をする前にギンジさんはそれをひょいっと摘まんでボリボリと食べてしまった。

 そしてHPが減り始めた事に驚きロコさんに文句を言っているが、それは自業自得というものだ。何せこのエナジーバーはロコさんが言うように毒なのだから。


「バフ料理は単純に効果量の高いバフ食材を使えば良いと言う物ではない。食材の組み合わせによって効果時間や効果内容が変わって来るのじゃ。そしてその組み合わせの中にはデバフ食材を使った物も存在する」


 そう、ロコさんが考案した物とはデバフ食材と組み合わせたエナジーバーなのだ。

 この4種は時間経過でHPに継続ダメージを与えるデバフが付与されるが、その変わり最初に食べた4種のエナジーバーより高いバフ効果を得る事が出来る。


「更にこの4種にはもう1つ大きな特徴があるのじゃ。通常バフ料理は使われておる食材によって効果量上限が決められておって、効果上限以上に食しても効果時間が延びるだけなのじゃ。じゃがこの4種は……食した分だけ効果量が上がる。デバフ効果量と共にな」


 HPへの継続ダメージ効果も上がってしまうが、それを加味しても得られるバフ効果は最初の4種と比べてとても大きい。それこそ、戦闘終盤に一気に押し切る場面などでは大いに役立つだろう。

 ただし、このプログレス・オンラインには満腹度が100%の状態になるとそれ以上食べられなくなるという仕様があるため、無限にバフを盛れるわけではない。


「最初に試食してもらった4種も含めた8種類のエナジーバーは運営からの支援対象になってますので、材料費は全額運営が出してもらえる事になりました。それで、料理自体は私とロコさんでやってこのギルドハウスに備蓄しておきますので、エイリアスメンバーは自由に持って行って使って下さい。勿論ルビィさんもですね!」


 運営から材料その物を貰えるのであればそれが一番良かったのだけれど、運営でもアイテムをぽんっと出す事は出来ない仕様になっている為、プレイヤーから材料を大量購入し後日運営に請求する形となっている。


 そんなこんなで今回の試食会は成功に終わり、私達エイリアスだけの専用バフ携帯食が生まれた。

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