120. 試食会とルビィさんとの意外な繋がり

「……出来た」


 私は銀のトレイに乗っている出来立てエナジーバーを見て声を漏らす。そして……。


「みんな、新しいバフ料理完成したよ!」

「ワフッ♪」「パルゥ♪」「くまぁ♪」


 試行錯誤の末やっと完成したエナジーバーに感動が抑えられず、この感動を共有しようとレキ達に声を掛ける。するとレキ達も私の喜びが伝わったのか、喜びの声を上げてくれた。もしかしたらそれは私への称賛や祝福の言葉なのかもしれない。

 私達はよく分からない小躍りをしながらエナジーバーの完成を喜び合った。


 エナジーバー作りは本当に大変だった。初めこそ砕いてバターや蜂蜜を混ぜて固めるだけと安易に思っていたのだが、現実はそんなに甘くなかったのだ。

 食材毎にかける時間が全く違うフードドライヤー。繋ぎに使う材料と分量によってボロボロになったりカチカチになったりするエナジーバー。複数のバフ食材の組み合わせによる効果を最大限引き出す分量調査。

 スキル成長率上昇チケットの効果もあって、エナジーバー製作の為の試行錯誤中にかなり料理スキルが上がっていた。


 エナジーバーの完成を喜び合った後は、完成品の写真付きでロコさんにメールを送った。実はロコさんから、新しいバフ料理が完成したら連絡が欲しいと頼まれていたのだ。

 

「ロコさんからどんな反応が返ってくるかなぁ。『凄い発明じゃ!』って驚かれたりして♪ レキ、どう思う?」

「ワフゥ?」


 レキは「よく分からないよ」と言った感じで小首を傾げる。それを見た私は流石に浮かれ過ぎだと少し冷静さを取り戻した。

 それから暫くした頃にメールの着信音がなる。内容は今からロコさんがこっちに来るという物だった。


「今からロコさんが来るのか……。よし、ならロコさんとレキ達の試食分のエナジーバーをサクっと焼いちゃおう!」


 私はあまりの完成度に驚くロコさんの表情を妄想しながら追加のエナジーバーを焼き始めた。頑張った分だけ出来た喜びは大きく、この浮かれ具合は簡単には収まらないのだ。


 ……


 …………


 ………………


「うむ、なかなかの出来じゃな。この量でこの効果量は既存の携帯食と比べて破格じゃ」

「ですよね! 私も調査の為に色んな携帯食を調べたんですけど、食べる手軽さと効果量ではこのエナジーバーが勝ってました♪ 味はまぁ……不味くはないですし」


 不味くはないのだ……ただメチャクチャ甘ったるいだけで。効果量と戦闘中での食べやすさを追求した結果、甘い物が好きな私でもそんなに量は食べられないなというレベルの甘さに仕上がってしまったのだ。


「うむ、味は改良の余地ありじゃな。上手く固める為には繋ぎの量を減らせぬから、やるとしたら柑橘系のさわやかな酸味やちょっとした辛みのアクセントで味を調えるぐらいか……。ナツよ、このバフ料理のレシピを教えてはくれぬだろうか? わっちも少し試してみたいことがあるのじゃ。勿論レシピ代も払おう」

「私も今までロコさんのオリジナルレシピを色々教えて貰っているのでレシピ代は要りませんよ。それにこのエナジーバーがもっと美味しくなるのであれば私としても大歓迎ですし」


 これからの戦闘でこのエナジーバーを食べるのであれば、正直もう少しこの甘ったるさを改善したいとは思っていたのだ。ロコさんが味を改善してくれるのであれば私としては大歓迎である。


「それから、今度エイリアスのメンバーでこのエナジーバーの試食会をせぬか?」

「試食会ですか?」

「うむ、このバフ料理は既存の携帯食より優れておる。更に言えば味だけでなく、その効果もまだまだ改良の余地があるのじゃ。これからもリスクの伴うバグモンスターとの戦闘を続けるのであれば、このエナジーバーはエイリアスで共有した方が良いと思うての」


 バグモンスターとの戦いはデータ破壊などの危険性を伴う。このバフ料理を作っている最中はこれを皆で共有することは考えていなかったが、現段階でも既存の携帯食より効果量は優れているのだ。これからの戦いのリスクを少しでも引き下げる為にもこのバフ料理を共有した方がいいかもしれない。


 私はこのエナジーバーの試食会を了承し、それに向けてロコさんと協力してエナジーバーの更なる改良を行うことにした。……それから三日後、遂に試食会が開催される。


 ……


 …………


 ………………


 今日ギルドハウスの会議室で行われる試食会への参加者は『ギンジさん』『ミシャさん』『シュン君』『ルビィさん』の4人になっている。私とロコさんは主催者側での参加で、一応ファイさんも誘ってはみたのだが「戦闘に参加しない私にバフ料理は関係ないだろう」と断られてしまった。


「えっと、試食会の前にまず新しい協力者の紹介をしますね。こちらは私が何時もお世話になってる生産職のルビィさんで、この度バグモンスター素材の研究などでエイリアスに協力して頂けることになりました」


 私はまず初対面であろうルビィさんの紹介を行った。


「顔見知りばかりだから今更って感じもするけど、一応自己紹介するわね。私はルビィ、裁縫と彫金をメインで活動している生産職で、今後はバグモンスター素材を使った武器作りの研究を手伝う形になるわ。もし武器の要望なんかがある場合は遠慮せずに言ってね」

「えっ!? ルビィさんって皆とお知り合いだったんですか?」

「まぁ、私も何だかんだこのゲーム長いからねぇ。生産職として色んなプレイヤーと知り合いになる機会も多いのよ」


 あぁ、確かに。ルビィさんは自分のお店を持っている程の生産職プレイヤーなのだ、であれば古参プレイヤーやトッププレイヤーと知り合いであっても不思議ではないだろう。


「何を謙遜しておる。ルビィといえば衣装作り界隈で有名な生産職プレイヤーではないか。現にわっちの狐耳と尻尾もルビィに作って貰った物じゃしな」

「俺の装備もルビィに仕立ててもらった物だぞ? このゲームの袴でしっくり来るものがなくてなぁ。ロコに相談したらルビィを紹介されたんだ」

「まさか紹介したら半裸になって帰って来るとは思っておらんかったがな……」


 まさかギンジさんを半裸にした犯人がこんなすぐ近くに居るとは思わなかった。確かに2人共他のプレイヤーと比べるとかなり個性的な服装をしていて、ルビィさん作と言われてみれば納得の衣装だった。

 ちなみにロコさんの耳と尻尾以外の部分も、耳と尻尾に合わせてルビィさんが少しデザインを調整しているらしい。


「私も衣装を仕立てて貰うのは基本ルビィちゃんだね。こと、コスプレ衣装に関してルビィちゃんはプログレス・オンライン1さ♪」

「まぁ、ミシャは私のお店で一番のお得意さんね。……毎度急な無茶ぶり死ぬ思いですけど」

「……もしかしてシュン君もルビィさんの装備なの?」

「いえ、僕は別に馴染の生産職の方が居るので、基本その方にお願いしてますね」


 と言う事はエイリアスのメンバーはシュン君以外全員ルビィさんから装備を作って貰っていることになる。何という偶然。

 ちなみにロコさんは私の話を聞いたり服を見て、私が普段からお世話になってる生産職プレイヤーはルビィさんの事だろうと薄々分かっていたそうだ。


「私の話はこの辺でいいでしょ。今日はナツお手製のバフ料理を楽しみにしてたんだから」

「そうですね。……今日試食してもらうバフ料理は、ロコさんと私の合作『8種類のエナジーバー』です!」

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