117. 危なっかしい妹

「と言う事で叫びスキルを育てようと思ってるんですけど、叫びスキルを補助する装備でお勧めの物ってありませんか?」


 叫びスキルを育てる事を決めた翌日、私は叫びスキルを補助する装備と、ついでにメインスキルがカンストした際の装備更新について相談するためルビィさんのお店へと来ていた。


「新しく高火力ペットが仲間になってヘイト管理が難しくなったかぁ。ナツ、このゲームを始めてそんなに経たないはずなのに、もうそんな段階になったのね。お姉さんビックリだよ」

「色んな方の支えがあっての成長ですけどね。それに、今回新しく家族になったモカさんは私が育てたんじゃなくて、私の師匠のご友人の方から託してもらったペットなんです」

「師匠って言うと獣の女王の事だよね? その友人から託されたってペット……ヘイト管理が難しくなるのも頷けるわね」


 ルビィさんは獣の女王の友人という情報から上位テイマーと判断したようだったけれど、実際リンスさんは凄いテイマーだ。以前ロコさんから聞いた話なのだが、このゲームでペットのレベルをカンストさせている人の多くは廃課金者か大手ギルドに所属している人が殆どらしい。

 そんな中、リンスさんは旧ハイテイマーズのメンバーの力を借りながらではあるが、ギルドの恩恵を受けずにモカさんのレベルをカンストさせた。ロコさんはそれをご満悦といった顔で何度も感心し褒めていた。


「おっと、話が逸れちゃったわね。叫びスキルを補助する装備は色々あるけど、パッと思いつく物だとアニマルイヤーシリーズと狂犬の首輪ね。……でもねぇ、どっちも今のナツのイメージコンセプトに合わないのよねぇ」

「イメージコンセプトの話はひとまず置いておいて頂けると……」


 耳と首輪。あんまり良い予感はしないが、だからと言って聞かない訳にもいかない。なので私は叫びスキルの補助装備についてさらに詳しい話を聞く事にした。


 アニマルイヤーシリーズには様々な種類の付け耳カチューシャがあるらしく、染色も出来るので自分の髪色に合わせた付け耳に出来るそうだ。

 狂犬の首輪は少し厳つい感じの棘付きチョーカーで、その効果はアニマルイヤーシリーズと同じく叫びスキル技能の効果増大。ただし、この技能効果増大バフは重複しないのでアニマルイヤーと狂犬の首輪を両方装備しても意味がないそうだ。


「チョーカーもありっちゃありなんだけど、コンセプト的には鎖付きの首枷の方がエモいのよねぇ……悩みどころだわ」


 私としてはどちらも無しで事足りるのであれば、それが最良だ。


「う~ん、デザインもある程度弄れるからちょっと考えさせて。他にも何かいい装備が無いか調べてみて今度提案させてもらうわね」

「何時もありがとうございます。……あの、実はもう1つ相談事があるんですけど」

「ん? どしたの?」

「今すぐに必要って訳じゃ無いんですけど、多分あと数週間で今育ててるメインスキルがカンストしそうなんです。なのでその時の装備更新の相談と見積もりをお願いしたくて」

「……」


 私が相談内容を説明すると、それまでの緩い雰囲気が一変してルビィさんの顔が険しくなった。

 ルビィさんはおもむろに入り口の方へと向かい、店の入り口にある立て札をオープンからクローズに変えて鍵を閉めた。そして振り返って私のことをじっと見つめる。


「ナツ、正直に話して欲しいんだけど、今いったい何をやってるの? 前回の装備一式更新からまだ3ヶ月も経ってないのに、もうスキルカンストした時用の装備が必要? 成長促進の課金チケットを使ったとしてもそんな成長速度は絶対にありえないわ。最近ナツが二つ名を得て、エイリアスって二つ名持ちプレイヤーを集めたギルドのギルマスをしてることは勿論知ってるけど、それと関係があるの?」


 ルビィさんからの質問に、私は体と表情を硬直させた。

 ルビィさんは私がこのゲームを始めて間もない頃からの知り合いだ。装備更新の度に現状のスキル構成も伝えていたので、私の成長速度も知っている。何より、前回の装備更新の時に大金を支払ったことでもかなり怪しまれていたのだ。

 けれど私は運営と守秘義務契約を結んでいるので、勝手に事情を話す事は出来ない。私はどう返答すべきなのか分からず、固まっていることしか出来なかった。


「……何か言えない事情がありそうね。じゃあ、話してもいい条件はないの? 守秘義務契約を結んだらとか、誰かの許可を得たらとか」

「……運営からの許可を得れたら話せると思います」

「そう、じゃあ運営と私が話せるようにアポ取りお願い出来ない? そこで運営の名前が出るぐらいだから、普段から連絡取り合ってるのよね?」


 私はそれに頷き、ファイさんにメールを送り事情を説明した。するとすぐに返信が返ってきて、今からギルドハウスで会えることになった。


「運営がそんなすぐに対応するなんて、どんな事情があるのか本気で気になるわね。NPC店員の設定をしてくるからちょっと待ってて」

「すみません、お手数お掛けします」


 何かやましいことをしている訳ではないのだけれど、昔から本当に色々助けて貰っているルビィさんに事情を説明出来ないことに少し後ろめたさを感じ、自然と俯いてしまう。

 そんな私を見たルビィさんは小さく溜め息を吐き、俯いた私の頭を撫でた。


「ナツは端から見ててハラハラするのよ。素直で優しくていい子なんだけど、危機感がゆるゆるっぽくて悪い大人に騙されてるんじゃないかとか、何かトラブルに巻き込まれてるんじゃないかって心配になっちゃうの。……私にとってナツは危なっかしい妹みたいな存在ね」


 そう言ってルビィさんは店の奥へと向かい、出かける準備を始めた。

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