111. 私の中のSが目覚める 2
ミシャさんの特別訓練『ナツちゃんイタズラっ子化計画』が本格始動し、現在私はミシャさんと綿密な計画を練っていた。
「ナツちゃんはドッキリ番組とかだとどんなネタが好き?」
「う~ん、急に問われるとスパッとでてくる物が無いんですけど……鉄板だとやっぱり落とし穴とかですかね?」
「ほうほう。他には?」
「そうですね~。あとは……とか、……とか……」
ミシャさんは私からバラエティ番組や映画から好きなシーンを聞き出し、「ならこういうのはどう?」と色々提案してくれた。
「出来たら面白いですけど、……とか無いですよね?」
「うにゃ? 持ってるよ?」
「何で持ってるんですか……。えっと、じゃあ……とかは『あるよ』。……は『もはや必需品だね!』。流石に……は無いですよね? 『現物ならここに』」
私は二つ名持ち、いやサプライズボックスの何たるかを見せつけられ驚愕した。もしかしたらミシャさんのインベントリは容量制限の無い4次元空間になっているのかもしれない。……そういえば、前回のバグモンスターの時は大きな招き猫を出してたな。
そんなこんなで何でも出て来る不思議なインベントリを持つミシャさんの協力の元、オークドッキリ企画の内容を詰めていった。
……
…………
………………
「予想以上に大掛かりな仕掛けになっちゃいましたね。と言うか、こんな事まで出来るなんてプログレス・オンライン、自由度高すぎでしょ!?」
「まぁ、そこはプログレス・オンラインクオリティだよねぇ。他のフルダイブ型VRゲームだと不具合が起きない様に仕様がガチガチに固められてるし、ここまで好き勝手プレイヤーにやらせるこのゲームは控え目に言って頭おかしいと思うよ?」
フルダイブ型VRゲームはこのゲームが初体験なので他のゲームの事を知らないのだけれど、やはりこのゲームの自由度は異常なレベルだったらしい。
ドッキリの仕掛けが完了した私達は次の行動を起こす事にした。……哀れなオーク釣りだ。
最初に遭遇したオークはダメージを少し受けているので、仕掛けを全て受ける前に倒してしまう可能性がある。なので、前と同じ場所でウロウロしていたそのオークはサクっと倒し、もう少し先にいた別のオークをターゲットとすることにした。
「……居た、あのオークで大丈夫でしょうか?」
「うん、いいと思うよ。さ、バーンと盛大にやっちゃって♪」
「……結構大掛かりな仕掛けなので、少しドキドキしてきちゃいました」
「いいね、いいね♪ ドキドキワクワクはイタズラの醍醐味さ。思いっきり楽しんじゃお♪」
私はそれに大きく頷き、最初のミシャさんと同じように鞭を片手にそろりとオークへと近づいていった。
――どうしよう、自然と顔がにやけちゃう! ダメダメ。今は集中しないと!
仕掛けにハマったオークの事を想像しながら行う仕掛け作りはとても楽しかった。それ故、今からその仕掛けをスタートさせることに対してドキドキが止まらない。頑張って作ったピタゴラスイッチやドミノを動かすような気分なのだ。……そして。
「ふぎゃっ!」
私は盛大にコケた。
はやる気持ちを押さえつけ、オークの背中ばかり見ていた私は足元への注意が散漫になっており、足元にあった小さな穴ぼこに気付かず足を取られてしまったのだ。これでは先ほどのオークと同じではないか。
「えぇ~、そこでやらかしちゃうの!? ナツちゃん、バラエティ慣れし過ぎでしょ!」
「フゴォオオッ!!」
「わざとじゃないですよ! と言うか、逃げましょう!!」
多少計画とは違うけど、オークの気を引けたのだからほぼ計画通りだ。そう、私はしっかりと仕事をやり遂げたのだ!
自分にそう言い聞かせ、私とミシャさんは最初の仕掛けを行った場所まで走り逃げていった。
「えっと、確かここら辺……あったあった。よし、ナツちゃん。私が合図したらミストをお願いね♪」
「了解です!」
――さっきはちょっとだけ失敗しちゃったけど、今回は絶対にやらかさない!
私は気合いを十分に滾らせ、ミシャさんからの合図を待つ。そうしている間に体の重いオークがのっしのっしと重い足取りで迫って来た。
「……今よ!」
「ミスト! そんでもって、うりゃあ!」
「フゴォ? ……フガァア˝ッ!?」
ミシャさんから合図を受けた私は早速オークに黒魔法であるミストを掛け、相手の視界を悪くする。その後、バケツに入ったローションを地面にぶちまけた(3つ分)。
視界が悪くなった状態でも気にせず突き進んできたオークは見事にローションで足を滑らせ、ドシーンと音を当ててすっ転んだ。
「次は私の番だね♪ バインド! さぁさぁ、こっちゃ来~い」
「フゴォオオオオオ!?」
手持ちのアイテムを相手に巻き付けるバインドという技能を使い、オークの足にロープの端を巻き付ける。そしてその巻き付いたロープを思いっきり引っ張ると倒れ込んでいたオークがそのままローションの上を盛大に滑ってくる。
ちなみにこのローションはミシャさんの馴染の生産者さんに要望を出して作らせたよく滑る特別性らしい。なんの想定で作らせていたのかは謎だ。
勢いよく滑って来た先に待ち受けるのは……渾身の落とし穴だ!
この落とし穴を作るために態々枷を外し筋力向上バフを掛けて、1時間程かけて作った深めの落とし穴である。中にはオークが死んでしまわないように何故かミシャさんが持っていた大量のカラーボールが敷き詰められている。
勢いよく滑っていたオークはその慣性のまま落とし穴へと突っ込み、大量のカラーボールが宙を舞う。その後、オークは怒涛の出来事に混乱しながら何とか落とし穴から這い出て来た。
這い出たオークは息を切らしながら目をギラつかせ、前方にいる私達に狙いを定める。そして怒った様子で突っ込み……事前に設置していた無色透明のラップフィルムに顔をぶつけてまたも盛大にひっくり返る。
「あはははははっ。いいよいいよ、オークちゃん。今日の君は輝いてるよ♪ さ、ナツちゃん、フィナーレだ♪」
見事に仕掛けにハマっていくオークに笑いよりも感動を覚えていたところ、ミシャさんから最後の指示が飛んできた。危ない、危うく最後の締めを忘れる所だった。
私は手を天井に向けて黒魔法であるファイヤーボールを放つ。するとそこに設置していたロープが千切れ、ロープで吊るしていたアイテムが自由落下を始める。
ひゅるるるるる、ガコーン!
「フゴォッ!?」
オークの頭に落ちて来たのは巨大なタライだった。ネタが古く、最近のバラエティでは殆ど使われないタライだが、やっぱり締めはこれだろう。
巨大タライが頭にクリーンヒットしたオークは丁度HPが0になり、光となって霧散した。ちなみに何故ミシャさんが巨大タライを持っていたのかは謎だ。
「……ぷっ、くくく……あははははは♪」
全ての仕掛けが綺麗にハマったことによる感動が落ち着いてくると、次に訪れたのはお腹がよじれそうな程の笑いだった。
ミシャさんも隣りで大爆笑している。一緒に笑う人が居ると、笑いってなかなか収まらないよね。
「あ~、可笑しい。予想以上にいい画が撮れちゃったよ♪ よし、今度ギルドの皆で集まって鑑賞会しよう」
「いいですね。すっごい力作だったんで皆に自慢したいです!」
――どうしよう。凄く楽しくて、少し癖になっちゃいそう。
どうやら私はミシャさんの策にまんまとハマり、イタズラっ子になってしまったようだ。
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