110. 私の中のSが目覚める 1
ミシャさんとショッピングへと出かけた翌日、ミシャさんは早速ギルドハウスへと引っ越し作業を進めていた。私は床タイルや一部家具が出来上がっていないので、部屋の模様替えはもう少し後になる。なので私は訓練の時間が来るまでダンジョンでスキル上げだ。
……そして訓練の時間がやってきた。
「さぁ、楽しい楽しいミシャお姉さんの特別訓練の開始だよ♪」
「今日はよろしくお願いします。それにしてもギンジさんが訓練日をずらしてくれて良かったですね」
「まぁ、ギンジ君にとってスケジュールは有って無いような物だからね。別に私用が出来れば普通に遅れたりすっぽかしたりするし」
――……何だかんだ私達の中で一番自由な生き方をしているのはギンジさんなのではないだろうか?
「それで、今日はどんな訓練をするんですか?」
「うふふ~♪ 今日はナツちゃんの秘められし一面を解放するのだよ」
「……私の秘められし一面?」
「ま、詳しい話は今日の訓練場所に着いてからだね! まずは転移屋に行くよ♪」
どうやら訓練はギルドハウスの訓練場ではなく何処か別の場所で行うらしい。
それから私達は転送屋へと赴き、そのままミシャさんの指示する場所へと転移した。
……
…………
………………
「あのぅ、ここって何処ですか?」
「ここはオークの巣穴って場所で、大体初心者から中級者レベルのオークが出て来るダンジョンさ♪ 敵の強さ的には今のナツちゃんにとって物足りないと思うけど、今日の目的の為には最適の場所だね。じゃあ、はい、これとこれ持ってて」
そう言ってミシャさんはスコップと鞭を手渡してきた。……この組み合わせではこれから一体何をするのか全く分からない。
その後、洞窟の中へと入っていった私達はズンズンと先に向かっていった。
「ここら辺かなぁ~。……よし、ここにしよう! ナツちゃん、ここに穴を掘ってくれる?」
「掘るのはいいんですけど、穴を掘ってどうするんですか?」
「それは後のお楽しみだよ♪」
私はミシャさんの言われるがまま、私の脛あたりまでの深さがある穴を掘った。その後は、またミシャさんに先導され先へと進む。
暫く進んで行くと一匹の2足歩行をする豚を発見した。大きさは私より頭1つ分小さいぐらいだろうか。
「あれがオークですか。オークって聞いて、私よりも大きい2足歩行の豚を想像してました」
「勿論そういうのも居るよ? でもここはまだ低層だからあのサイズしか出てこないんだよね。じゃ、ちょっと行ってくるから、ナツちゃんはここで待っててね♪」
そう言うと足音を立てずそろそろとオークの背後へと近づいて行った。……その手に鞭を持って。
そして、そろりとオークの背後に立つと大きく振りかぶって、バチーン!
「ブフォオ!?」
「ナツちゃん、逃げるよ!」
「え!? 何やってるんですか、ミシャさん!?」
ミシャさんはオークの背中に思いっきり鞭を振るうと、一目散に逃げて来た。私は逃げるミシャさんに手を引かれ、元来た道を逆走して行く。
「よし、無事穴の地点まで戻って来たね。それじゃあ、穴の少し先で待機するよ」
「あの、これ何してるのか説明してくださいよ! 私今何の訓練をしてるんですか!?」
「まぁまぁ、今は楽しもうよ。後でちゃんと説明するからさ♪」
ミシャさんの意図はよく分からなかったが、後でちゃんと説明を貰えるとの事だったので一先ず指示に従い先ほど掘った穴の少し先で待機する。すると、私達を追いかけて来たオークがドスンドスンと重そうな足取りで走り迫って来た。そして……見事に穴に足を取られ、盛大にコケる。
「あはははははっ♪ 完璧。流石私♪ ナツちゃん、今から身隠し玉使うから動かないでね」
「え? うわっ!?」
ミシャさんがインベントリから手の平サイズの玉を取り出すと、地面へと叩きつけた。すると大量の煙が噴き出し私達を包む。
「身隠し玉は一時的なヘイト切りアイテムで、一定時間相手から私達の姿が見えなくなるんだよ。ただ、一歩でも動いちゃうと効果が切れちゃうから気を付けてね」
「あの、姿を消してここからどうするんですか?」
「基本的にモンスターはターゲットを見失ってヘイトが切れると元の位置に戻っていくからね。まずはあのオークが去っていくのを待つ感じかな」
盛大にすっ転んだオークはフゴフゴと鼻を鳴らして周りを警戒しだした。そして私達を見失ったと分かるとのっそりと立ち上がり、巣穴の奥へと戻っていく。
「ふぃ~、楽しかったね♪ じゃあ、次の仕掛けをしてまたピンポンダッシュと洒落込みますか♪」
「あ、あの! そろそろ説明して下さい! これって何の訓練なんですか?」
「そうだねぇ、もうそろそろ説明しますか。えっとね、ナツちゃん。今日の訓練は……ナツちゃんの中のSっ気を呼び覚ます訓練なのさ!」
「な、なんだって~!?」
ミシャさんがあまりに予想外の事を盛大に言い放った為、無意識にノリ良く返事をしてしまった。
「私がナツちゃんに教え込みたい技術は所謂搦め手って奴でね。搦め手が上手くなるためには今までの素直なナツちゃんだと駄目なのさ」
「駄目って言われても私にSっ気を求めないで下さいよ! 私……そのぉ、そういうんじゃないですし……」
Sっ気と言われてちょっとアレな想像をしてしまい、言っている途中から恥ずかしくて声がか細くなってしまった。……うん、今顔が真っ赤になっているのが自分でも分かる。
そんな私を見てミシャさんが大爆笑しだした。
「あはははははっ♪ 違う違う。私が言ってるSって別に鞭を振り回してお尻を引っぱたく女王様になれって言ってるんじゃなくて、簡単に言うとイタズラっ子になろうって事だよ♪」
「イタズラっ子ですか?」
「そうそう。落とし穴作ったり、ピンポンダッシュしたりだね♪ ナツちゃんはテレビでイタズラやドッキリの番組は見たりしない?」
「結構好きですけど……自分でやったことは無いですね」
そういう番組は結構好きな方だ。けれど、自分がやる立場になったことは1度もない。
「ならこれも人生経験。今日は思いっきりイタズラっ子になっちゃおう♪ 大丈夫、ナツちゃんにはその才能がある! ミシャお姉さんの人を見る目を信じなさい!」
「そんな才能があっても嬉しくないですよぉ」
とても楽しそうにしているミシャさんを前に、これはもう従うしかないなと半ば諦める。そして「私は普通の子、私は普通の子」と自分に言い聞かせながらミシャさんの特別訓練を受け入れた。
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