105. 母は偉大なり

「いっそのこと私用も含めて全部ペットフード型にするか……」


 現在私は、ロコさんからのバフ料理開発の課題に取り組んでいる。そして、悩み過ぎて考える事を放棄しだしていた。


「お主、最近どんどんギンジの阿呆に似てきておらぬか? シンプルに物事を捉えるのは良いことじゃが、脳筋になり過ぎるのはいかんぞ。……先日の戦闘でナツにペットフードを食わせてしもうた手前言いづらいのじゃが」

「だって、いいアイデアが思いつかないんですよ。戦闘中に食べやすく種類も複数用意出来る物って考えると、色々練り込んで粒状に焼き固めているペットフードが最適解な気がして」


 ロコさんの協力もあって、バフ料理に使う食材はすぐに選定することが出来たのだが、それらの食材をどう料理するのかを全く決め切れないでいた。

 バフの種類は『機動力』『回避』『筋力』『魔力』の4種類か、機動力と回避を複合させて3種類のバフ料理を作りたいと思っている。そしてそれらのバフ料理は、戦闘中に食べやすい物にしなければならないのだ。


「今回の課題は使い勝手が良いバフ料理という条件もあるのじゃが、その他にも売れる物という条件も付いておる。ペットフード型は買う対象がテイマーに限られてしまうのじゃ」

「うっ……確かに」


 テイマーはペットの為にお金払いの良いプレイヤーが多いのだが、如何せん大変な職業なだけあって分母が少ない。テイマー以外の人達でも使いやすい形にした方が売れ行きはいいのは間違いない。


「実の所、ひらめきというのは無から突然生み出される物ではなく、それまで蓄えて来た知識や経験が結びつき生まれて来る物なのじゃ。良いアイデアが出てこないのであれば、周りから情報収集をして刺激を受けるのも良い手じゃぞ?」

「情報収集ですか……。そうですね。ここで悩んでいても何も思いつきそうにないので、中央市場の露店を見て回ってみます」


 そう言って私はロコさんと別れ、中央市場へと向かうことにした。


 ……


 …………


 ………………


 中央市場で調査した結果、戦闘中を想定したバフ料理は串焼きか焼き固めたクッキーが主流であることが分かった。

 プログレス・オンラインでは味覚もしっかり再現されている為、効果が高いとしてもやっぱり食べるのは美味しい物の方がいい。その点、串焼きは味の濃いタレを使い、クッキーは甘い味付けで多様な食材を食べやすくしているようだった。


 ちなみに、バフ食材をそのまま食べるという選択肢もあるが、食材は簡単にでも調理した方が効果が高くなるようになっており、更に食材の組み合わせによっても効果量が変わる仕様になっている。その為、目的のバフを最も効果量の高い食材の組み合わせで調理するのがバフ料理とし望ましいのである。

 そういった理由もあって、簡単に色んな食材の組み合わせが出来る串焼きやクッキーが主流となっているようだった。


「バフ食材が使われている量の問題なのか、クッキーより串焼きの方が効果量が高かった。……けど、私はいいとしてレキ達には串焼きって食べづらいんだよねぇ~」


 私用とペット用とでバフ料理を分ければいいのだが、出来るなら統一してしまった方が作る手間が大幅に減る。となるとクッキー形式となるのだが、クッキー形式はつなぎとなる小麦粉でかさ増しされてしまっているので食べる量に対してバフ効果量が少し低くなってしまうのだ。

 どうするのか結論はまだ出ていなかったが、もうそろそろお母さんと夕食の準備をする時間になって来たので一旦ログアウトすることにした。


 今日の夕食はハンバーグ。お母さんがサラダやコーンスープを用意している間に、私はハンバーグのタネを作っていた。


 ――ハンバーグやコロッケみたいにして食材を1つにまとめるのもありか。……いや、でもそれだとクッキーと同じでバフ食材以外でかさが増して効果量が減っちゃう。


「ナツ、どうしたの? そんな難しい顔しちゃって」

「う~ん、それがね。今ゲームの中で新しい料理開発をしてるんだけど……」


 心配して声を掛けてくれたお母さんに今日の出来事を話した。


「へぇ~、最近のゲームは本当に何でも出来るのね。ゲームの中で料理の練習をしたり、新しい料理開発したり楽しそうだわ」

「今の所そんなに楽しめてないけどね。ロコさんの料理訓練は結構スパルタだし、料理開発も全然いいアイデアが思いつかないもん。……お母さん、何かいいアイデアない?」

「そうねぇ~、ゲームでどれだけ自由度高く料理が作れるのか分からないけど、作れるならエナジーバーを作ってみたら?」

「エナジーバーって自分で作れるの?」


 エナジーバーという提案を聞いて、私は目をぱちくりとさせた。エナジーバーと聞くと、コンビニやスーパーで売っているスティック状の物を思い浮かべるのだが、あれを自作するという発想は無かったのである。


「勿論作れるわよ。と言うか、お父さんのお仕事が大変な時とか出張に行く時とか作ってるのよ?」

「……知らなかった」

「こういう所で家族を応援するのが私のお仕事ですからね」


 そう言うとお母さんはドヤ顔で胸を張った。

 お母さんは常に家族のことを考えて、主婦として何時も私やお父さんを支えているのだ。私は母の偉大さを改めて実感した。


 その後、エナジーバーの作り方を聞いてみると、それは予想以上に簡単な物だった。

 ナッツ類など粒が大きい物は細かく砕き、果物など水分を含んでいる物は天日干しかフードドライヤーを使う。後はそれらを溶かしたマシュマロやバター、蜂蜜やメープルシロップなどを混ぜて焼き固めれば自作エナジーバーの完成だ。


「健康を考えて食材を選ぶと、物によっては美味しく無くなっちゃうじゃない? でも、つなぎに風味の強い物を使うと味にまとまりが出来て食べやすい物が出来るのよね」


 ――マシュマロがあるのかは分からないけど、蜂蜜やバターやメープルシロップはあるはずだよね。食材から水分を飛ばす方法がプログレス・オンラインにあるかどうかもロコさんに聞けば分かるはず。……いけるかも!


 夕食の準備を終えた後、早速私はロコさんにメールを送り、プログレス・オンラインでエナジーバーを再現することが出来るか相談してみることにした。

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