103. 死に覚えと作業ゲーはガチ勢の嗜み

「……はっ!」


 私はあまりの衝撃にベッドから飛び起きる。目の前に広がる見覚えの無い光景に一瞬ここが何処か分からなかったが、よく見ればここはギルドハウス内にある私の寝室だった。


「まさかギルドハウスお披露目の日に死に戻りすることになるなんて……と言うか、あのダンジョン無理でしょ!?」


 そう、私が何故ベッドの上に居たのかと言うと……フロッグスターのダンジョンに入ってすぐに瞬殺されたからだ。それはもう清々しいまでの瞬殺だった。

 フロッグスターとはバスケットボール程の大きさはある金色のカエルで、敵を発見すると一直線に飛んでくる習性がある。そしてその速度はスライムダンジョンのハイスライムとは比べ物にならず、フロッグスターを視認した直後には目の前に飛んできているような有様なのだ。


「機動力特化のモンスターかと思ったら、まさかの機動力攻撃力特化とか殺意高すぎでしょ!!」


 ダンジョンへと入った直後に瞬殺されるという理不尽に晒され、少し感情的になっていた私はすぐにまたダンジョンへと駆けて行った。


「ぐはっ!?」

 *

「ぐへっ!?」

 *

「この! ゲハッ!?」

 *

「掛かって来いy、ガハッ!?」

 ・

 ・

 ・


「こんなの勝てるか!!」


 本日8回目の死に戻りに到頭私はキレた。私はベッドから飛び起き、ドシドシと歩いてダンジョン扉のある部屋へと向かい、ファイさんへ文句を付けに行った。


 ちなみに、死に戻りによるデスペナルティは加算式ではなくリセット式になっている。つまり、全ステータスへのデバフ効果量は変わらず、デスペナルティの残り時間がリセットされるだけなので、何度死に戻りを繰り返してもデバフ被害が大きくなることはない。


「ファイさん、流石にこれはあんまりですよ! こんなポンポン死ぬようなダンジョンじゃスキル上げなんて出来ません!」

「ん? 機動力スキルは上がっていないのか?」

「……上がってました……2つも」

 

 プログレス・オンラインは敵を倒す事で経験値が入るのではなく、そのスキルに対応した行動により経験値が入る。そして戦闘などは、相手とのステータス差が大きい程スキル上昇率が高い。

 私は現在足枷によって機動力が半減しており、尚且つデバフにより更に機動力が落ちている。その状態で様々なスキル成長率上昇バフを受けて高機動力モンスターであるフロッグスターと戦う為、一撃で撃沈しているとしても相当量の経験値が機動力スキルに入ってきているのだ。


「あの、もしかしてこのダンジョンって入った瞬間死に戻りさせられる事を前提に作られてるんですか?」

「いや、そんなことは無いぞ? フロッグスターは敵を見つけ次第一直線に突撃してくるモンスターだ。射線は変わらないから、敵が攻撃モーションに入ったと同時に射線から離れれば問題ない」

「……」


 今更説明は不要だと思うが、私は『先走り』と『猪突猛進』のパッシブスキルを併せ持つ女、今回もその能力を遺憾なく発揮し、猛スピードで迫って来るフロッグスターと真正面から戦おうとしていたのだ。


 ――どうしよう、凄く恥ずかしい!! 頭に血が上って無策で何度も突っ込み、仕舞にはファイさんに文句まで言ってしまった……しかもスキル上がってたし。


 自らの醜態を直視して悶絶してしまう私。そんな私を見て首を傾げるファイさん。


「よく分からんが、問題が解決されたなら良いではないか。フロッグスターは、ひたすら射線から逃れるだけで機動力と回避に経験値が入る。慣れてくれば攻撃を入れて他のスキルを上げることも可能だ」


 フロッグスターは攻撃力も高いモンスターなので筋力スキル上げにもなり、技能技を入れるようにすれば持久力スキル上げにも活用できる。もしフロッグスターを倒してしまったとしても、すぐにリポップする仕様となっているので問題は無いらしい。

 ただし、この専用ダンジョンでモンスターを倒したとしてもドロップアイテムは無いようなので、本当にスキル上げにしかならないそうだ。


 その後は気分を変えて頭を冷やす為に、イビルカースツリーダンジョンへと入った。


 ……


 …………


 ………………


「……虚無ですね」

「やあ、お帰り。……虚無とは何かな?」


 イビルカースツリーダンジョン。それはまさに虚無だった。

 ダンジョンに入ってすぐに目についたのは、黒い瘴気を周囲にまき散らす巨大な大木だった。事前情報でその大木は攻撃してこないと分かっていた為、私はレキとパルを呼び出して一緒に攻撃を開始する。モカさんは既にレベル100になっているので今回は待機だ。

 

 そして始まったのが、何の感情も湧いてこない延々と繰り返される作業。私達は何の動きも見せない大木に1時間近く攻撃を繰り返すだけで、それ以外はスタミナポーションを飲むぐらいしかしていない。

 最初はレキ達と楽しく会話しながらやっていたのだが、時間の経過とともに会話も減り、終盤は皆無言で木に攻撃を加えるだけだった。


 そんな作業の最中、私は昔ロコさんとプレイヤースキルについての話をしていた時のことを思い出していた。


「死に覚えと作業ゲーはガチ勢の嗜みじゃな」


 ゲームで強くなる為にはこのスキルを習得しないといけないのかと思うと、まだダンジョンに入って1日目なのに少し挫けそうになった。……あ、いや、別に私はガチ勢になる気は無いけどね?

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