102. 本来、私にテイマーは早すぎたのかもしれない……
「さて、粗方見て回ったことだし俺はこれで帰るとするぜ。……おぉ、そうだった。ナツ、もうそろそろ枷の更新が必要な頃だろう?」
「あ、そうですね。筋力と機動力が60超えたので次の枷が必要です」
――ごく自然に「次の枷が必要だ」と言ってしまった。最初はあんなに嫌だったのに、人間慣れちゃうものなんだなぁ……枷に慣れていいのか分かんないけど。
その後はギンジさんから最上位の枷『封印の手枷』と『封印の足枷』を貰い、今まで着けていた『戒めの手枷』と『戒めの足枷』をギンジさんに返した。
新しい装備は枷部分も鎖部分も真っ黒な金属で出来ており、よく見ると枷と鎖から黒いオーラのような物がゆらゆらと揺らめき怪しい雰囲気を出していた。ちなみに2つの装備はそれぞれ筋力半減と機動力半減のデバフが付いており、今までの物より更にデバフが重くなっている。
「そういう事なら、わっちも先に渡しておくかの。ここの専用ダンジョンを使えばすぐに上がるじゃろうしな」
そう言ってロコさんは今まで着けていたタトゥーの最上位アイテム『深淵のスティグマ』を渡し、代わりに今まで私が着けていた『常闇のスティグマ』を受け取った。
『深淵のスティグマ』は今までの物より更に複雑な文様をしており、左目の下から胸のあたりまで伸びてその存在感を増している。そしてそのデバフ効果はHP上限の半減だ。
――これで私が着けている全てのスキル上昇効果を持つ装備は最上位モデルとなった訳だけど、思い返してみるとあっという間だったなぁ~。
このゲームを始めて結構すぐお世話になることになったこれら装備だが、それが最上位モデルに更新されるまではとても早かった気がする。……引きこもりのアドバンテージがスキル上昇率に反映されたのだろう。
「ではわっちも帰るとするかの。ナツの教育プランの立て直しも必要じゃし、色々準備が必要そうじゃ」
「おう、ロコ。幼児でも育ててるような訓練は止めたのか?」
「お主のような頭のおかしいやり方はせぬがな。……まぁ、弟子の可能性を引き出せるようわっちのやり方でやるのじゃ」
その後はミシャさんもシュン君も私の訓練の準備をすると帰っていった。どんな訓練が始まるのかと少し戦々恐々としながら、私はこのギルドハウスをプレイベートエリアにする為の準備をしようと動き出す。
「すまないが、ナツ君は少し待ってもらえないだろうか」
「えっと、何かありました?」
「出来れば今日の内に2つの専用ダンジョンを体験してデータを取りたいのだ。必要であればダンジョンの仕様調整が必要になるのでな」
私はそれに了承しダンジョンへの転移扉を設置している部屋へと向かった。
……
…………
………………
「本当に扉と箱しか無いんですね」
「それ以外必要が無いからな。カエルのシルエットが描かれている扉が機動力と回避を上げる『フロッグスターダンジョン』で、木のシルエットが描かれている扉がその他のスキルとペットレベルを上げる『イビルカースツリーダンジョン』だ。その隣りにある箱には2種類の成長促進アイテムとイビルカースツリー対策のアイテムが入っているので自由に使ってくれ」
城の中の一室、その中には2枚の扉がドンっと設置してあり、その隣りには大きな木製の箱が設置してあった。ダンジョンに潜る為、私はまず設置してある箱からアイテムを取り出す。
「祝福のクリスマスベルに、スキル成長率上昇チケットとペット取得経験値上昇チケット……ちなみにこのチケットっていくらする課金アイテムなんですか?」
「それはどちらも上昇率100%の一ヶ月間効果が持続するチケットで、どちらも1枚8,000円になる。他にも3ヶ月、6ヶ月、1年のチケットがあるが、今回のバグモンスター問題がいつ解決するか不明な為、1ヶ月のチケットを提供することになった」
1枚8,000円……ゲーム内マネーではなく現金で購入する課金アイテムで8,000円の価値があるのだ。正直、こんな機会がない限りは絶対に手を出さなかっただろう。
――大人の人なら皆買うのかな?
そんなことを考えながら、中学生の感覚的に凄く高価なそのアイテムを自身に使用した。だが、スキル成長率上昇チケットは使えたのだが、ペット取得経験値上昇チケットが使えなかった。……まさか。
私は恐る恐る、今頭の上で休んでいるレキにチケットを使う。するとすんなりとチケットは消費され、システムウィンドウで確認するとレキに取得経験値上昇バフが追加されていた。
「あの、もしかしてこのペット用のチケットって、ペット毎に購入しないといけないんですか?」
「ん? あぁ、勿論だ。テイマーに使えば全てのペットに適用される仕様では、流石に効果が大きすぎるからな」
「でもそれだとペットを3匹飼っている人は、月に24,000円掛かることになりますよね?」
「お陰様でプログレス・オンラインで一番売上に貢献している職業はテイマーになっているな」
その時私は、以前から少し気になっていた謎が解けた気がした。……私は今まで、子供のテイマーを見たことがないのだ。
ハイテイマーズの人達は勿論、以前救援に向かったロコさんの知人テイマー、そして街で見かけるペット連れのプレイヤーにも子供は1人も居なかった。
ペットを育てる為にはコンスタントに餌代が掛かり、ペットの安全を考えれば高価なバフ料理や技能や魔法、そしてとんでもなく高価なテイマー専用装備が必要になる。そしてペットをより早く育成する為にチケットを買おうと思えば、その出費は大幅に嵩む。……到底私みたいな子供が出来るような職業ではなかったのだ。
もし、ハイテイマーズのメンバー達もこのチケットを使っているのだとしたら、先日のバグモンスター事件での被害はいったいどれだけの物だったのか……。
――私は本当に皆から支えられて、これまでテイマーをやってこれたんだなぁ。
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