101. ナツの集中強化訓練メニュー

 昔、ギンジさんはシュン君に勝負を挑み、そして返り討ちにあった。その事実は私を心底驚愕させた。


「シュン君! どうやってギンジさんに勝ったの!? ……もしかして、ギンジさんには大きな弱点が!!」


 何故私がこんなにもこの話題に食いついているかと言うと、ギンジさんを倒したという事実には『私もギンジさんに一泡吹かせる事が出来るかも』という可能性をはらんでいるからだ。

 

 ギンジさんのお陰で私は強くなった。それは事実だ。本当に感謝している。……けれど。けれどだ、その過程において何も思うことが無かったかと言うと、それは否である。

 これまであったギンジさんの無茶ぶりの数々。あれだけ嫌だった死に戻りも、今では何の感慨もなく熟せるようになってしまった。……そんな辛く苦しい訓練の中、何時かきっと強くなってギンジさんの顔面に一発入れてやると誓ったのだ。そしてその可能性が今目の前にある!


「お前さん、相当俺に鬱憤が溜まってたみたいだな」

「……イイエ、ソンナコトハナイデスヨ?」


 私はそっとギンジさんから目を逸らした。


「えっと、ギンジさんに勝てたと言っても本当に最初の何戦かだけだったんですよ。初見殺しで最初は勝ててましたが、その後は対応されて全く勝てなくなりましたね……あはは」


 そう言いながらシュン君は困ったように苦笑した。

 シュン君の言う初見殺しというのが、ギンジさん達も持つ十二天シリーズのことだった。シュン君が持っているのは『火天の数珠』というアイテムで、その効果は30分間だけ任意のスキル値を好きに移行出来るものだ。この効果を使うと本来100までしか上がらないスキルが、その上限を超えて上げることが出来るらしい。

 

 ギンジさんとの戦闘では先手を打って火天の数珠を使い、機動力と回避を限界まで上げて、蹴りのコンボ攻撃でHPを削り切ったらしい。ギンジさんはそのあまりのラッシュに対応出来ず、羅刹天を使う隙さえ与えられず敗北した。

 けれど、やはりギンジさんはそれでは終わらなかった。その後も事あるごとに勝負を挑み、少しずつシュン君の最高速にもタイミングを合わせられるようになり、仕舞にはその余りある戦闘センスと戦闘経験値でシュン君の動きを予測し、完全に対応してみせたらしい。


 ――この人は本当にいったい何なんだ!


 半裸のおっさんの余りに理不尽な強さに、私は憤りを感じてしまう。


「シュンは戦いに重きを置いているプレイスタイルじゃないからな、攻撃手段が限られている分対応しやすかったんだ。これでもし、蹴り以外の選択肢があれば更に厳しかっただろう」

「僕は強さより速さを求めてこのゲームをしてますからね。それでも僕の最高速に完全に対応するプレイヤーはギンジさん以外には居ないと思いますよ?」

「ま、そこは年の功だな。……でだ、話を戻すとだな、シュンは蹴りだけをメインに戦うスタイルの為か、蹴りの使い方が上手い。これは単純な技能の使い方がって話じゃなく、戦い方が対人向きに仕上がってんだ」


 そこからは少し技術的な話になってあまり内容を理解出来なかったのだが、理解出来る範囲で要約してしまうと、足技は視線誘導の技術と相性が良く、それをされると何時何処から飛んでくるか分からない攻撃の連続で途端に対応しきれなくなるらしい。

 シュン君はソロでモンスター達と戦っていく中で、自然とそういった技術が身について行ったとのことだ。……ギンジさんだけでなく、本物の二つ名持ちはみんな理不尽な存在なのかもしれない。


 それからは4人の師匠+ファイさんが集まって話し合い、どういうスケジュールで私を鍛えていくか決めていった。その間私は、新しい寝室に置く家具をどうするか考えていた。


「う~ん、あの部屋ならやっぱりお洒落なランプは欠かせないかなぁ。みんなはどう思う?」

「くまぁ?」


 ……


 …………


 ………………


「……このスケジュールで本当にやるんですか?」

「あぁ、どうしてもスキルが90以上まで行かねぇと教えられねぇ技術もあったんだが、今回作られたダンジョンを使えば訓練メニューに対応できる速度で上がっていくそうだ」

「……約一ヶ月後にファイさんが凄く強いって言ってたハイエンスドラゴンのバグモンスターを倒すことになってるんですけど」

「あぁ、頑張らねぇとだな」


 ――ハイエンスドラゴンとの戦いの前に、私は死んでしまうかもしれない。


 4人の師匠の間で話し合われた結果はこうだ。

 

 ・交代制で毎日誰かが戦い方の訓練をし、それ以外はダンジョンでスキル上げ

 ・途中、運営が捕獲しているバグモンスターと戦いながら素材集め

 ・約一ヶ月で私が育てている主要なスキルをカンストさせる

 ・その後、運営が捕獲している中で最も強いハイエンスドラゴンのバグモンスターと戦う

 

 ――いや、どんだけタイトなスケジュール!? 一ヶ月で主要スキルカンストって絶対普通じゃないでしょ!


 でも私は分かっていた。ロコさんが何も言わないということは、それが十分に実現可能な内容であることを。そして、ギンジさんは一度言い出したら私が何を言おうと意見を変えることはないことを……。

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