100. 私専用の育成ダンジョンと3人目と4人目の師匠
今更の話だが、私の今の戦闘スタイルはギンジさんとの訓練の結果、ヒット&アウェイによる近接戦闘を主軸とした戦い方になっている。
この戦闘スタイルの利点は、戦い方が上手くハマれば無傷で相手を圧倒出来ることだ。けれどその反面、攻撃手段は隙を生まない物に限られるし、被弾する回数が極端に少ない為に体力スキルが上がりづらい。その結果、私の総HPは他のステータスに比べて低く、そして常時火力不足に悩まされている。
その為、私専用に用意されたダンジョンは2つ。
1つは『体力』『機動力』『回避』を上げる為のダンジョンで、その内容はギンジさんから勧められて通っているスライムダンジョンとほぼ同じだった。つまり、沢山のモンスターが四方八方から襲って来るので、私はそれをひたすら避けるのだ。
ただし、ダンジョンで襲って来るモンスターは通常エリアでの出現率がかなり低いレアモンスターで、その機動力はスライムダンジョンとは比較にならない程らしい。
2つ目は『ペットレベル』『戦闘系スキル』『筋力』『持久力』を上げる為のダンジョンで、そこには『イビルカースツリー』という巨大な木のモンスターが1体だけ出現するらしい。
そのモンスターの特徴は、通常時は一切動くことも無くひたすら攻撃を受け続けるだけで、一定量のダメージを蓄積すると周囲に呪いを振りまくという特殊攻撃を行う。その呪いをまともに受けると全ステータス7割減のデバフと、常時HP減少のスリップダメージを受ける事になる。
ただし、これはあくまでまともに呪いを受けたならの話だ。このモンスターは昔プログレス・オンラインでやったというクリスマスイベント限定のモンスターで、『祝福のクリスマスベル』というアイテムを持っていれば呪いを無効化出来るそうだ。
つまり、高レベルの動かないモンスターをみんなでひたすら殴れるということ。更に言えば、倒してしまってもすぐにリポップするという至れり尽くせりの仕様だ。
「……本当にスキル上げの為だけのダンジョンって感じですね。他のプレイヤーの方に少し申し訳ないです」
「通常は運営スタッフでなければ使えないダンジョンだからね。今回はバグモンスターという脅威に対抗する為の特別処置と思って欲しい」
「ちなみにこのダンジョンはエイリアスに所属していれば、誰でも使えるんですか?」
「契約の問題でミシャ君は利用出来ないが、それ以外のメンバーであれば問題ない。あぁ、それともう1つ。この城の一室にそのダンジョンへの転移扉を設置しているのだが、転移扉以外にアイテムボックスを設置している。そこにはスキル成長率上昇とペットの取得経験値上昇の課金アイテムを入れてあるので自由に使ってくれ」
このギルドハウスには既にロコさんと運営から提供された特殊効果アセットが設置されている。そのアセット効果でもスキル成長率上昇とペットの取得経験値上昇、そしてアイテムドロップ率上昇などの恩恵が付与されている為、私やペットの成長速度は今凄まじい事になっているはずだ。
――恩恵が凄すぎて逆に怖くなってくるんですけど……。これあとでしっぺ返しが来るパターンじゃないよね?
確かに私は無給でシステムデバッグしているような立場ではあるけれど、受け取る恩恵が凄すぎて少し怖くなってきた。
一通りの報告を受けたあとは、みんなで城の中を見て回ることとなった。……そしてそこで私は多くの衝撃を受けることになる。
……
…………
………………
確かに私は広いキッチンを求めた。ペットが成体になったとしても一緒に遊べる広い庭を求めた。ギルドハウスを私のプライベートエリアにすることを求めた。……けれど。
「き、規模が大きすぎます!!」
「後で不足が無いようにと多少広くしたが、不要だっただろうか?」
「多少ってレベルじゃないですよ!?」
この庭はいったい何百人の民を住まわす予定なのだろうか。キッチンは何十人もの料理人を働かせるような規模になってるし、私のホームポイントとなる寝室は正に王様の寝室といった様な広さで、そこにあるベッドサイズは王様の寝室だけれどキングやクイーンを遥かに超えていた。
「ほぇ~、私色んなギルドハウスにお邪魔したけど、こんな規模のギルドハウスは見た事ないよ」
「わっちが居た頃のギルドハウスも他のギルドハウスより広い方じゃったが、流石にここと比べると霞むのぅ」
ミシャさんとロコさんが率直な感想を述べる。やはりこの規模は普通ではないらしい。
「ファイ、このギルドハウスには対人設備はないのか?」
「いや、用意している。凍結しているバグモンスターとの戦闘を想定している為、このギルドハウスで一番力を入れている設備と言えるだろう」
「そうか、ならナツの訓練はここの設備を使えばいいな」
ギンジさんが思案顔でそう呟く。きっと今、ギンジさんの頭の中では私の訓練メニューが高速で組み上がっているのだろう。……そう思った私は、無意識にちょっとだけギンジさんから距離を離していた。
「あ、なら私もナツちゃんに稽古つけるよ♪ この前の戦いを見て思ったんだけど、ナツちゃんはギンジ君の影響を受けすぎて戦い方が一直線過ぎるんだよねぇ。折角黒魔法もあるのに搦め手が全然出来てないし。だから搦め手のミシャさんたる私が、いやらしい戦い方を叩き込んであげる♪」
「ちょっと待て。搦め手を否定する気は無いが、こいつは色々考えながら戦える程器用な奴じゃないぞ。戦い方に選択肢が増えすぎると逆に弱くなるかもしれねぇ」
ギンジさんの率直な物言いにちょっとだけ物申したい気分になるが、実際否定出来なかったので黙っておくことにした。……一言物申したいんだけどね!
「そうなんだけどねぇ。……でも先日のハイテイマーズとの一悶着を見ると、ナツちゃんにもちょっとはそこら辺の戦い方を学んでおいた方がいいと思うんだよね。自衛の為にもさ」
「……確かにそうだな。……よし、シュン。悪いがお前さんもナツに蹴りの戦い方を仕込んでくれねぇか?」
「僕がですか? えっと、ナツさんが良ければ僕は問題ないですけど……」
ギンジさんとミシャさんが私の訓練方針について話し合っていると、突然シュン君に話を振りだした。
――あれ? ギンジさんのこの感じ……もしかして元々シュン君と知り合いだった?
「あのぅ、ギンジさん。もしかして、ギンジさんってシュン君とお知り合いだったんですか?」
「ん? あぁ、新しい二つ名を得たプレイヤーが出たって運営からアナウンスがあった後な、どのくらい強ぇのか確かめたくて探し回ったことがあるんだ」
――これがギンジさんの平常運転ではあるけど、ギンジさんに追いかけまわされるシュン君からしたら堪ったものじゃないだろうな。
「まぁ、見付けて戦いを挑んではみたが、見事に返り討ちにあったんだけどな」
「えっ!? ギンジさんって倒せるんですか!?」
「……お前さん、俺のことを何だと思ってるんだ?」
――倒せない系のイベントキャラみたいな位置付けでした。
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